第4詩集。103頁に24編を収める。カバーには咲き乱れる花畑の中に止められた女乗りの自転車が描かれており、画面の向こうからなんとも美しい朝日が差してきている。
作者の母上は助産師をされていたようで、
そして夜中に迎えが来ると母は寒風の中へ
女乗りの自転車で乗り出していった
荷台に黒い皮の診察鞄をくくりつけ
陣痛に耐えて待っている妊婦のいる家へ
(「母の赤いほっぺた」より)
当時は幼かった兄弟が、夜中に家に取り残される不安、寂しさもいくつかの作品でよくあらわされている。母上が満潮の時刻を調べて分娩の予測を立てていたというエピソードも微笑ましい。今、母上のことを振り返る作者には、誇らしく思う気持ちがあふれていることがよく伝わってくる。
著者は南米文学研究者としての業績も多い。つい先日もペドロ・シモセの詩集「ぼくは書きたいのに、出てくるのは泡ばかり」(2012/10 現代企画室)を翻訳している。詩集の第3部には南米旅行に材をとった作品が並ぶ。”おれ”は、アンデス高原のラパス市のカフェテリアでコカ茶を飲むのだが、
居眠りしたかと思う間もなく
日本のわが家の布団の中で目が覚め
あのカフェテリアにリュックを置き忘れてきたことに気づく
あの中にはパスポートや財布ばかりでなく
ただ一度かぎりの大切な記憶も入っているのだ
取りに引き返そうとするが
どうしても地下鉄の入口が分からず途方に暮れている
(「アンデス高原に置き忘れたリュック」より)
旅は、自分の中の何かをその地へ置いてくることなのだろう。置いてきたものと引き替えに何かを持ち帰ってくることなのだろう。
作者の母上は助産師をされていたようで、
そして夜中に迎えが来ると母は寒風の中へ
女乗りの自転車で乗り出していった
荷台に黒い皮の診察鞄をくくりつけ
陣痛に耐えて待っている妊婦のいる家へ
(「母の赤いほっぺた」より)
当時は幼かった兄弟が、夜中に家に取り残される不安、寂しさもいくつかの作品でよくあらわされている。母上が満潮の時刻を調べて分娩の予測を立てていたというエピソードも微笑ましい。今、母上のことを振り返る作者には、誇らしく思う気持ちがあふれていることがよく伝わってくる。
著者は南米文学研究者としての業績も多い。つい先日もペドロ・シモセの詩集「ぼくは書きたいのに、出てくるのは泡ばかり」(2012/10 現代企画室)を翻訳している。詩集の第3部には南米旅行に材をとった作品が並ぶ。”おれ”は、アンデス高原のラパス市のカフェテリアでコカ茶を飲むのだが、
居眠りしたかと思う間もなく
日本のわが家の布団の中で目が覚め
あのカフェテリアにリュックを置き忘れてきたことに気づく
あの中にはパスポートや財布ばかりでなく
ただ一度かぎりの大切な記憶も入っているのだ
取りに引き返そうとするが
どうしても地下鉄の入口が分からず途方に暮れている
(「アンデス高原に置き忘れたリュック」より)
旅は、自分の中の何かをその地へ置いてくることなのだろう。置いてきたものと引き替えに何かを持ち帰ってくることなのだろう。