「八月の象」北川朱実。
朱色の背表紙の本や、象の群れといった見えるものが提示されて、くっきりとした作品世界が形づくられる。そして詩人が現れ、ダムを隠していた本の文字は水となってあふれる。そして詩人は「顔じゅうに雲をわかせ/ずぶ濡れ」になる。こうして形象を書き出してみると、この作品が豊かなイメージに満ちていることにあらためて気づく。
入道雲の向こう
深い青を見ながら
ゾウが渡っていく
青は
からっぽの喉だったり
見えない湖だったりする
(最終部分)
ここでふいに出てくる「青」は、一体何なのだろうかと考える。表面的には空の色なのだろうが、それは喉だったり湖だったりに変容するのだ。だから雲の形の象も、なにか意味を越えたゾウへと変容する。片仮名表記になっているのはそんな意識の表れではないかと勝手に推測している。
散らばっていたいろいろな形象がすっと収斂していく。すべて声を発してしまって、もう声が残っていない? 見えなければ名付けるための言葉も使えない? 声や言葉を呑み込んでしまったような空の青さが、とてつもない広がりのイメージとして感じられる。
最後の部分の1行空き。ここで一瞬立ち止まる呼吸のリズムが好いなあ。
朱色の背表紙の本や、象の群れといった見えるものが提示されて、くっきりとした作品世界が形づくられる。そして詩人が現れ、ダムを隠していた本の文字は水となってあふれる。そして詩人は「顔じゅうに雲をわかせ/ずぶ濡れ」になる。こうして形象を書き出してみると、この作品が豊かなイメージに満ちていることにあらためて気づく。
入道雲の向こう
深い青を見ながら
ゾウが渡っていく
青は
からっぽの喉だったり
見えない湖だったりする
(最終部分)
ここでふいに出てくる「青」は、一体何なのだろうかと考える。表面的には空の色なのだろうが、それは喉だったり湖だったりに変容するのだ。だから雲の形の象も、なにか意味を越えたゾウへと変容する。片仮名表記になっているのはそんな意識の表れではないかと勝手に推測している。
散らばっていたいろいろな形象がすっと収斂していく。すべて声を発してしまって、もう声が残っていない? 見えなければ名付けるための言葉も使えない? 声や言葉を呑み込んでしまったような空の青さが、とてつもない広がりのイメージとして感じられる。
最後の部分の1行空き。ここで一瞬立ち止まる呼吸のリズムが好いなあ。