瀬崎祐の本棚

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詩誌「詩素」 10号 (2021/05) 神奈川

2021-05-27 22:44:59 | 「さ行」で始まる詩誌
「木箱」海埜今日子。
ちいさな箱とおおきな箱。何が入っている箱なのだろうか、いや、何を入れればよい箱なのだろうか。おおきな箱は汗ばんだり、ちいさな箱からきらきらしたものがかんじられたりする。「坂をのぼりきった記憶がはがれていく」具象と抽象が混じり合った世界が危うい調和を見せていて、緊張感に満ちている。

    板がとおくできしんだ。息がすこし苦しかった。板をあかるく、よどんでいたのは、ど
   ちらの箱であったのか。木漏れ日が波紋のようです。ちいさな木の花が咲く。
    おおきな箱を、起きるのだと、坂のとちゅうでおしえてくれたものがある。坂のしたで
   水音がする。やわらかい実がころがった。

似た形象と同じ音を持つ「板」と「坂」が、ときに重なり合い、ときに互いからこぼれ出すものを支え合い、作品に陰翳を与えていた。

「ransel」池田康。
小学生が毎日学校へ背負っていくランドセルは本当に重い。こんなに小さな子がこんなに重いものを背負うのか、と驚いてしまう。

   ランドセルの闇の奥 手の届かぬ
   怒(ど)の泥 悲(ひ)の火 寂(せき)の化石
   だから小学生はあんなに重そうなのだ
   口をとざして神妙な顔をして
   心持ち前屈みになって
   アスファルトをゆく

作者はそんな彼らに「孤独な/小学生よ」と呼びかける。そんな重いものを持たせてしまっているのは、社会を作っている私たち大人なのだな。

創刊10号を記念しての投稿詩の選考がおこなわれている。17編の応募があったとのこと。最優秀賞には鹿又夏実「赤い電車に乗って」が選ばれていた。三浦海岸に向かう電車は赤く、夕陽は時間を曖昧にして妹も赤く染まっている。最終部分は、

   夕陽の残骸でよごれた線路はもう後戻りできない
   お母さんの悲鳴に似た鋭い音を出しながら
   電車はタンクの股下をはいだし走っていく

ノスタルジックな雰囲気をたたえて、電車はそのまま異世界へ行ってしまうようだ。
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