瀬崎祐の本棚

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詩集「たがいちがいの空」  藤井優子  (2014/03)  思潮社

2014-05-04 22:46:07 | 詩集
 第2詩集。91頁に22編を収める。
 作品のもの言いは静かな声音を思わせるもので、浮ついたところはいささかもない。どちらかといえば古風な雰囲気さえ漂よわせているようなのだが、それがかえって静かに絡みついてくるものにはふさわしい。喩も深い光沢でしずんでいるような趣である。
 「たがいちがいの空」。幼い頃にわたしは”空遊び”をしていた。それは置いた鏡に映る空のうえを歩くといったものだった。母はそれを咎めたようなのだ。その遊びを咎めたのか、それともその遊びに恍惚となっているわたしを咎めたのか。

   記憶のなかで時が微妙にくいちがい
   たがいの言葉がすりかわってもぐり込む
   そのどれもが真実になろうとして
   もどかしく結末をさぐる
   ひびわれたのは鏡で
   空ではなかったのに
   わたしはなぜ
   あなたを見失ってしまったのか

 それぞれの思いがなぜか異なる方向へ向いてしまっているのだろう。おそらく誰も悪くはないのに、だ。それゆえになおさら辛いのだろう。
「水行く舟の」からも美しい詩行を書き抜いておく。ここには寂しさを孕んだ決意がある。

   遅い午後の日が落ちると
   夢がわたしを誘いにくるだろう
   けれども わたしはここに舟と留まることにした
   もう あなたに向かって漕ぎだすこともない

 「Ⅰ」には旅路にある作品7編が収められているが、題材のうわべにややとらわれすぎている感があった。そのために、「Ⅱ」、「Ⅲ」の作品でみられるたゆたうような深さには乏しいようで残念であった。
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