84頁に散文詩23編を収める。
「塔」。村が出来る前から建っている塔についての作品。村人の誰でもが知っているのだが、誰も塔の中に何があるか知らないし、入ろうともしない。塔に入った酔っ払いや旅人はみんな塔に殺されるようなのだ。子供だけが何ごともなく帰ってこられるのだ。
塔が塔であるために誰かを必要としたことがあったか。ある日、塔が崩れ
落ちようと村人たちは塔が以前からなかったかのように振舞うだろう。そ
のようにしてある、村にあるひとつの塔は。
一体、塔は何なのだろうと訝しくもなるのだが、作品は、こんなものが貴方の周りにもあるのではないですかと、問いかけてきている。さらに言えば、貴方の中にもこんな塔が建っているでしょ、と言っているわけだ。
「花」。見合いで結婚した夫はおとなしく病弱だった。そんな夫は春になるとひとりで出かけた。後をつけると、そこは白い花が一面に咲いている岬で、夫はいつまでも花と戯れていた。私は夢の中で花畑に出かけ、そのたびに白い花を一本ずつ引き抜いてきたのだ。やがて夫は亡くなり、あの岬を訪ねると、
ふとその中に一本血のように赤い花が混じっていることに気がついた。私
は躊躇することなくそれを引きぬいた。もう、夢にもここに来ることはな
いとわかった。
それは夫の生命のような花畑だったのだろう。そして、そこに咲いている白い花は、本当は私が知っても触れてもいけないものだったのだろう。
どの作品も寓話のようで、それこそある種の奇譚集と言ってもいいような詩集となっている。作品の場合、何を語るか、そして、いかに語るか、この両者のせめぎ合いになることもあるのだが、この詩集は完全に”何を語るか”の面白さだった。
「塔」。村が出来る前から建っている塔についての作品。村人の誰でもが知っているのだが、誰も塔の中に何があるか知らないし、入ろうともしない。塔に入った酔っ払いや旅人はみんな塔に殺されるようなのだ。子供だけが何ごともなく帰ってこられるのだ。
塔が塔であるために誰かを必要としたことがあったか。ある日、塔が崩れ
落ちようと村人たちは塔が以前からなかったかのように振舞うだろう。そ
のようにしてある、村にあるひとつの塔は。
一体、塔は何なのだろうと訝しくもなるのだが、作品は、こんなものが貴方の周りにもあるのではないですかと、問いかけてきている。さらに言えば、貴方の中にもこんな塔が建っているでしょ、と言っているわけだ。
「花」。見合いで結婚した夫はおとなしく病弱だった。そんな夫は春になるとひとりで出かけた。後をつけると、そこは白い花が一面に咲いている岬で、夫はいつまでも花と戯れていた。私は夢の中で花畑に出かけ、そのたびに白い花を一本ずつ引き抜いてきたのだ。やがて夫は亡くなり、あの岬を訪ねると、
ふとその中に一本血のように赤い花が混じっていることに気がついた。私
は躊躇することなくそれを引きぬいた。もう、夢にもここに来ることはな
いとわかった。
それは夫の生命のような花畑だったのだろう。そして、そこに咲いている白い花は、本当は私が知っても触れてもいけないものだったのだろう。
どの作品も寓話のようで、それこそある種の奇譚集と言ってもいいような詩集となっている。作品の場合、何を語るか、そして、いかに語るか、この両者のせめぎ合いになることもあるのだが、この詩集は完全に”何を語るか”の面白さだった。