■「秋菊の物語/秋菊打官司(The Story Of Qiuju)」(1992年・中国=香港)
●1992年ヴェネチア映画祭 金獅子賞(グランプリ)・主演女優賞
監督=チャン・イーモウ
主演=コン・リー リウ・ペイチー レイ・ラオション
(注・結末に触れています)
口論の末、村長に股間を蹴られてけがをしてしまった慶来。夫が仕事ができなくなったことから、身重の妻秋菊は村長に抗議するが、謝る様子もない。秋菊は役所に抗議し調停が始まるが、金で解決しようとする村長側は決して謝ることはしない。”スジを通したいだけ”という秋菊はついに訴訟に持ち込む・・・。
原作は1991年に出版された小説。当時中国では行政訴訟法が施行されたばかりで、行政を相手取った裁判が初めて可能になったと聞く。国内でも関心が高まっていた訳なのだろう。しかし訴訟という近代的な国の仕組みは、秋菊の望む結末を用意してはくれなかったのだ。村長が難産の秋菊を病院に連れて行ってくれたので、訴訟は抜きにして感謝したい彼女は祝いの席に村長を招待する。だが慶来に別のけがを負わせていたことがわかり、村長は祝いの日に身柄を拘束されてしまう。ただスジを通したい、村長に謝ってもらいたかっただけなのに・・・何ともいえないラストのコン・リーの表情。一個人の思惑と国の対応のズレ。中国だからって訳じゃない。国民感情と政府の対応や裁判所の判決が食い違うのは、何処の国でもあることなのだ。
でもそんな政治的なお話はさておき、この映画は観る僕らに何か力をくれる。それは大きなお腹を抱えて右往左往する秋菊の力強さなのだ。夫はどうしても村での人間関係があるから強く出られない。「北京まで行く気か。もう帰ってくるな。」とまで言われても、それでも納得のいく解決を求めて秋菊は町へ行く。出産に関わって村長の優しさが見えてくる場面、人と人のつながりの大切さを感じずにはいられなかった。チャン・イーモウ監督作品独特の色彩はここでも健在。軒先に吊された唐辛子の赤い色、着ぶくれた秋菊の赤い上着の色。温かみのある赤い色と、田舎道を走るラストのヒロインは「初恋のきた道」を思わせる。
(2003年筆)