Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

ナイトメア・アリー

2022-07-28 | 映画(な行)


◼️「ナイトメア・アリー/Nightmare Alley」(2021年・アメリカ)

監督=ベネチオ・デル・トロ
主演=ブラッドリー・クーパー ケイト・ブランシェット ルーニー・マーラ トニ・コレット ウィレム・デフォー

予告編でどんな映画なのかがまったく掴めなかった。近頃の外国映画の予告編って、あらすじをバカ丁寧に教えてくれるものが目立つだけに、意味深なシーンだけを繋ぐ謎めいた予告編に心が引っかかっていた。

その謎めいた空気は映画冒頭から。死体らしきものを重そうに床下に落として、黙って部屋に火を放つ男ブラッドリー・クーパー  。いかがわしい見世物小屋が立ち並ぶカーニバル(移動遊園地?)を訪れた彼はとにかく言葉を発しない。「お前の過去なんて誰も気にしない」との言葉から、彼はカーニバル一座に身を置くことになる。ウィレム・デフォー、ロン・パールマンと、出てくるだけで怪しげな雰囲気を出してくれる名優たち。やがて読心術を覚えた彼は一座の危機を口八丁で救ったことで自信を深め、電気人間の見せ物をやっていたルーニー・マーラを連れて出て行く。

大げさな劇伴もない前半。ボソボソしゃべるトニ・コレット、飲んだくれのデヴィッド・ストラザーン、そして強烈な印象を残す"獣人"。言葉数が異様に少ない前半戦。主人公が保安官を言いくるめる場面を境目に、この映画は言葉が満ちあふれてくる。

ケイト・ブランシェットが登場してからの後半戦は、主人公が嘘にまみれた深みにどんどんハマっていく姿が描かれる。野心、みなぎる自信。成功を支えるために悪事に手を染める。重ねる嘘、嘘。さらに嘘。読心術は見せ物。しかし次々と自分のことを言い当てる様子に、その術を過剰に信じてしまう人間の弱さよ。クライマックスに登場する老判事夫婦のエピソードは短いながらも強い印象を残す。出番は少ないがメアリー・スティーンバーゲンは怪演だ。

デル・トロ監督作は凝ったビジュアル重視のイメージがある。本作でもホルマリン漬けの胎児が登場する気味悪い場面はあるけれど、代表作「シェイプ・オブ・ウォーター」ほどデフォルメされたビジュアルの面白さはない。

しかし、本当にグロテスクなのは人間の悪行が見せる醜さである。映像の陰影や夜の場面、ケイト・ブランシェットの黒い衣装まで、深みのある黒が印象的なこの映画。映画館の暗闇は色彩としての黒をきちんと表現するために必要だと言われる。これを映画館で観たら、人間が闇に染まっていく様子が堪能できたのかもしれない。そんな暗闇で聴くラストの「宿命だ」のひと言。それは観ている僕らまで引き込むような重たい響きだったのではないだろうか。




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