■「エレジー/Elegy」(2008年・アメリカ)
監督=イザベル・コイシェ
主演=ベン・キングズレー ペネロペ・クルス パトリシア・クラークソン デニス・ホッパー
映画が終わった後の余韻。幸せな結末とは言い難いけれど、この映画のラストは静かでしっとりとした余韻を与えてくれる。それは、アメリカ資本の映画なのに、フランソワ•オゾンの「まぼろし」で感じたような感覚。ずっと独身でやってきた大学教授ケペシュと美しい女学生コンスエラの恋。快楽を楽しむ主義だった教授。彼女の美しい肉体と愛に溺れていくのだが、親子ほども違う年齢の差もあるし、これまでの快楽主義もあって先のことなど考えてはいない。一方、彼女は年齢の差は問題ではない。二人のこれからを真剣に考えている。
前半はベン•キングズレー扮する教授が、いかにして彼女に夢中になっていくかが描かれる。彼女にアプローチをかける自宅パーティの場面は、同性としてすっごいスリルを感じた。コンスエラと画集を見ながら、ゴヤの描いた「着衣のマハ」を見せて「君に似ている」だもん!。きっと画集のページめくったら「裸のマハ」が載っているはず。それは教授の下心の暗示。しかもペネロペ映画のファンなら、ペネロペ•クルスがかつて映画「裸のマハ」で主役を演じたことも知ってるわけだし。ここはかなりドキドキした。次第に教授は嫉妬心から彼女に干渉するようになっていく。男友達と踊りに行くと疑って店に現れる場面は、彼女にピシャッと言われてしまう。男の嫉妬は見苦しい。でもその気持ちはわかるんだよね、男として。すっごく。
後半は彼女と別れてからの教授の様子が描かれる。「失ってわかった。こんな気持ちは初めてだ。」ある年の大晦日に再会を果たす二人。でも彼女から乳癌に冒されていると告白される・・・。あの美しい乳房を失ってしまうことになる。
「あなたのように私を愛してくれた人はいなかった。」
と他の誰にも告げずに教授に告げた病気の事実。実は僕もかつて女友達から「他の人には言えないの」と病気の悩みを打ち明けられたことがある。コンスエラに彼女がだぶって見えて、僕は急に切なくなってしまった。あ、私情はさておき。
避けることのできない”死”という現実を前に自分に何ができるのか。この映画の監督イザベル・コイシェはスペイン映画「死ぬ前にしたい10のこと」を撮った女性。そういえば「死ぬまでに~」で母親役だったデボラ・ハリーがこの映画にも出演している。「エレジー」はコイシェ監督の脚本ではないが、同様のテーマを持つ作品として監督するに至ったのだろう。教授の友人を演じたデニス・ホッパーも、映画のラストでは寝たきりになってしまう。自分もいずれそうなる・・・教授自身もそう考えたことだろう。そしてコンスエラからの告白。コンスエラにとって「死ぬまでにしたいこと」は、自分の美しい姿をせめて写真に残すこと。それも自分を愛してくれた教授のカメラで。そして教授が選んだ「死ぬまでにしたいこと」は・・・。後は映画で確かめて欲しい。二人の姿がぼんやりと消えていくエンドクレジット。その余韻は悲しくも美しい。