■「トゥモロー・ワールド/Children Of Men」(2006年・アメリカ=イギリス)
●2006年LA映画評家協会賞 撮影賞
●2007年シカゴ映画批評家協会賞 撮影賞
●2007年英国アカデミー賞 撮影賞・美術賞
監督=アルフォンソ・キュアロン
主演=クライブ・オーウェン ジュリアン・ムーア マイケル・ケイン
イギリス映画らしいダークな終末感に満ちた近未来SF。少子高齢化が各国で問題となっているだけに、またここ数週間ティーンが自ら命を絶つことが連日報道されるわが国だけに、子供が生まれなくなった未来社会という設定は非常に痛い。それにつけても銀幕の世界ではいつもイギリスはいい子チャンなんだよな。この映画でも世界は崩壊寸前なのにイギリスは頑張っている。東西冷戦で米ソがピリピリきていても英国はその間で大活躍、「V・フォー・ヴェンデッタ」でもアメリカ合衆国崩壊後の社会を描いていたけどやはりイギリスは世界の中心だった。英国万歳な映画。
子供が生まれなくなって18年が経った世界。主人公は元妻が参加している地下組織に拉致され、妊娠した移民女性”キー”を守ることになる。組織からも当局からも追われることになり、目が離せない展開だ。この映画は登場人物に感情移入する暇を与えてくれない。冒頭のテロ場面から、ひたすら”何が起っているか”だけを示し続ける。極端に表情をとらえたりはせず、動きを追い続ける。圧巻は戦火に巻き込まれて逃げまどう場面の長回し!。主人公と一緒にカメラは10分近くレンズに血しぶきが飛んでも走り続ける。この演出は観客を否応なしに映画の世界に引き込んでいく。一方で出産場面が意外にあっさりしているのは、今一つ納得できず。「ジャスミンの花開く」のチャン・ツィイーが豪雨の中でビショ濡れで産み落とすのとはえらい違いだ。しかし、そんなことよりも赤ん坊を抱くキーが現れて戦闘が一時停止する場面が感動的。兵士が跪いて十字を切る、多くの人々が祝福する・・・歌の文句じゃないけれど、子供たちは我々の未来なんだ。今回脚本・編集まで手がけたキュアロン監督、そうした思いがあるのだろう。
主人公の理解者であり協力者となる老人をマイケル・ケインが演じているが、このヒッピー老人がいい味を出している。生きづらくなった世間から離れ、物言わぬ妻と世捨て人となった人物。この人が漂わす70年代の空気がすごくいいのね。Ruby Tuesdayを流しながら決断をする場面が心に残る。他にもディープパープルやキング・クリムゾン(Court Of The Crimson Kingの使われ方が特に素晴らしい)もサントラを飾る。そして空にはピンクの豚が・・・おぉ、ピンク・フロイド?。ここもやっぱり英国万歳な映画。それにしても、何とかならんかこの邦題!。
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