《 TPP日米協議 》 【 交渉の道筋を国民に説明せよ 】 2014/4/27 地方紙「社説」より
[難航分野の隔たりは解消したのか否か。環太平洋連携協定(TPP)交渉をめぐる日米首脳会談、閣僚協議、共同声明のいずれに目を凝らしても、どうも判然としない。
合意に至らなかったが決裂ではない。共同声明には「道筋を特定した」と明記。米国側は、関税撤廃の有無や撤廃までの期間を見定める作業が進んだとして「満足な結果」と振り返った。焦点だった米国産牛肉と豚肉、日本製自動車の関税で合意に近づいたと見ることもできよう。
危機感が募るl落としどころが見えたとすれば、双方もしくはどちらかの大幅譲歩を意味する。オバマ大統領が共同会見で「日本は市場開放に向けて今こそ決断すべき時だ」と異例の言及をしたことを思えば、米側の一方的な譲歩は考えづらい。日本が相当な譲歩を迫られる状況にあることは想像に難くない。
ただ、決着は持ち越した。まだ間に合う。安倍晋三首相は「あらゆる努力で食と農を守る」と宣言した交渉参加の原点に立ち返ってほしい。来月には参加12カ国の閣僚会合などが予定されている。交渉をリードする日米の役割は否定しないが、期限を切って合意を急ぐ必要はないと、重ねて指摘しておきたい。
安倍首相は牛・豚肉など農産物重要5項目を「聖域」と位置付けた。国民は5項目の関税は当然維持されると思っていよう。TPP交渉は全てが妥結するまで個別の詳細は公表しないルールではある。が、秘密裏に譲歩を重ね、知らぬ間に畜産農家など国内産業に多大な犠牲を強いる内容が決まるとすれば、国民無視の批判は免れまい。
農家の不安を拭うには情報が必要だ。政府にはルールの範囲内で可能な限りの説明を尽くすように強く求めたい。
米側の出方を見誤った点は見逃せない。日本はオーストラリアとの経済連携協定(EPA)を背景に米国に揺さぶりをかけた。米豪は牛肉輸出を競い合う。現行38・5%の牛肉関税を、EPAで段階的に冷凍19・5%、冷蔵23・5%にすることで米国の焦りを誘い、10%台で折り合えると楽観していた節がある。
米国もカードを切った。沖縄県の尖閣諸島をめぐり、日米安全保障条約に基づく防衛義務を共同声明に明記する代わりに、牛肉関税を1桁にするなどの要求を崩さず、TPP協議で譲歩を迫った。いわば共同声明を「人質」に取った形だ。日本側は結局、米側の強気の姿勢を読み切れなかった。反省を求めたい。
TPP協議のテーマは農業と自動車だけではない。医療や保険、知的税財産など生活に密接にかかわる課題を国民は注視している。政府は肝に銘じ、「国益を守る」交渉に徹しなければなるまい。]
[難航分野の隔たりは解消したのか否か。環太平洋連携協定(TPP)交渉をめぐる日米首脳会談、閣僚協議、共同声明のいずれに目を凝らしても、どうも判然としない。
合意に至らなかったが決裂ではない。共同声明には「道筋を特定した」と明記。米国側は、関税撤廃の有無や撤廃までの期間を見定める作業が進んだとして「満足な結果」と振り返った。焦点だった米国産牛肉と豚肉、日本製自動車の関税で合意に近づいたと見ることもできよう。
危機感が募るl落としどころが見えたとすれば、双方もしくはどちらかの大幅譲歩を意味する。オバマ大統領が共同会見で「日本は市場開放に向けて今こそ決断すべき時だ」と異例の言及をしたことを思えば、米側の一方的な譲歩は考えづらい。日本が相当な譲歩を迫られる状況にあることは想像に難くない。
ただ、決着は持ち越した。まだ間に合う。安倍晋三首相は「あらゆる努力で食と農を守る」と宣言した交渉参加の原点に立ち返ってほしい。来月には参加12カ国の閣僚会合などが予定されている。交渉をリードする日米の役割は否定しないが、期限を切って合意を急ぐ必要はないと、重ねて指摘しておきたい。
安倍首相は牛・豚肉など農産物重要5項目を「聖域」と位置付けた。国民は5項目の関税は当然維持されると思っていよう。TPP交渉は全てが妥結するまで個別の詳細は公表しないルールではある。が、秘密裏に譲歩を重ね、知らぬ間に畜産農家など国内産業に多大な犠牲を強いる内容が決まるとすれば、国民無視の批判は免れまい。
農家の不安を拭うには情報が必要だ。政府にはルールの範囲内で可能な限りの説明を尽くすように強く求めたい。
米側の出方を見誤った点は見逃せない。日本はオーストラリアとの経済連携協定(EPA)を背景に米国に揺さぶりをかけた。米豪は牛肉輸出を競い合う。現行38・5%の牛肉関税を、EPAで段階的に冷凍19・5%、冷蔵23・5%にすることで米国の焦りを誘い、10%台で折り合えると楽観していた節がある。
米国もカードを切った。沖縄県の尖閣諸島をめぐり、日米安全保障条約に基づく防衛義務を共同声明に明記する代わりに、牛肉関税を1桁にするなどの要求を崩さず、TPP協議で譲歩を迫った。いわば共同声明を「人質」に取った形だ。日本側は結局、米側の強気の姿勢を読み切れなかった。反省を求めたい。
TPP協議のテーマは農業と自動車だけではない。医療や保険、知的税財産など生活に密接にかかわる課題を国民は注視している。政府は肝に銘じ、「国益を守る」交渉に徹しなければなるまい。]