忘却への扉

 日記? 気づいたこと 何気ないひとこま 明日への伝言 願い 子供たちに 孫たちに そしてあなたに・・ 

初めて見る顔

2009-09-29 | 平和を
 ケータイの呼び出し音がなった。登録アドレスが表示されるが、誰からの用件まではわからない。だが声を聞いてすぐにわかる。『○○です。私の声を聞けば いい話じゃないのですが』と彼も言う。
 知人が早朝死去され今夜のお通夜だとの連絡だった。彼らの会社の創業者の1人でもあり経営者の肩書きの時期もあったが、存在感の薄い影武者のような印象を持たれてもいた。
 日本帝国の敗戦後すぐ若者仲間で事業を始め大きくした人だ。仲間内の別の1人からは当時の様子をよく聞いていたのだが、なぜか知人の名前はほとんど出なかった。
 本人から当時や敗戦前の話を聞きたいとずっと思っていた。ちょっと離れた関係ですれ違いでの挨拶程度、そんな時気さくな会話ができそうな気持ちになる人だった。変わり者と陰口をたたく者もいたが、それは個性と身近に感じる。
 蝋燭の火を移した線香を立て、遺影を見ながら手を合わせる。何時の写真なのか記憶にない知人の顔。棺桶は顔の部分だけ開いており、末期の水を唇にあてる。
 ふっくらとして心地良い眠りに入った健康そうな顔は、痩せた遺影同様初めて見る顔だった。隣りの知り合いたちも初めての顔だと驚いていた。もしかしたらあの顔が彼の素顔かも、彼がもっと早く自由を選択していれば私もあの顔の彼と会話できたのに…。彼と話ができたのは数回だけで、その1つ『戦争は絶対に駄目だ』の体験者としての言葉が強く残る。

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