《 派遣法改正案 》 【 「人の使い捨て」は許されない 】 2014/10/29 地方紙「社説」より
[本来は臨時的、一時的であるべき不安定な働き方を、企業が都合よく拡大・継続しやすい雇用制度改悪を、またも安倍政権が持ち出してきた。
先の通常国会で誤記が発覚し、廃案になっていた労働者派遣法改正案がきのう、衆院本会議で審議入りした。
改正案は、最長3年である企業の派遣労働者受け入れ期間の上限や業務区分を廃止。労働組合から意見を聞いて3年ごとに「人」を入れ替えれば、企業はずっと派遣労働者を使い続けられるようになる。
人員調整がしやすくコストも安い派遣労働者の「使い勝手」をよくしたい―。政権や経営側のむき出しの本音と、個人の生活や働き方をよくする視点の欠如には、がくぜんとする。雇用の不安定デメリットがあるのは企業だけ。改悪は、到底容認できない。
新たな案が通れば、正社員の仕事を恒久的に派遣労働に置き換える「常用代替」が許されることになる。また来秋からは、違反があった場合に派遣労働者が望めば派遣先企業が社員として雇わねばならない制度も始まる。その前に法改正を急ぎ、正社員化を免れたいとの思惑さえ透ける。
個々の労働者にとって今、必要なのは、正規・非正規を問わず安定的に働ける環境整備と待遇改善である。だが、4割に近づく非正規雇用者やワークプアへの支援はあまりに手薄。多少失業率が下がっても実質賃金は下がり続けており、格差に歯止めをかけなければ経済だけが成長するはずもない。直ちに正社員を増やせないなら、せめて非正規者の待遇底上げにつながる「同一労働・同一賃金」の徹底を急がねばならない。
しかし逆に、政権は「残業代ゼロ制度」の導入をもくろむなど、正社員の待遇も悪化させつつある。少子高齢化で今後、働き手の減少は分かりきっており、「猫の手」よろしく女性や外国人の「活用」を言い始めた今に至っても、旧態依然の使い捨ての思想から脱却できないのなら企業も国も立ちゆかない。雇用の質を切り下げる動きには、何度でも強く反対したい。
経済評論家の山家(やんべ)悠紀夫氏(宇和島市出身)は、日本経済はバブル崩壊直後ではなく7~8年後の1998年から長期低迷に陥ったと分析。その主因は「賃金の下落」にあり、「労働者派遣法の改正その他政府の規制緩和政策が賃金の上がらない(むしろ下がる)日本経済を作り出した」―と、看過する(「アベノミクスと暮らしのゆくえ」岩波ブックレット)。
経済発展も国の未来も、まず人があってこそ。過去の政策の過ちを真摯(しんし)に反省し、「世界一企業が活動しやすい国」(安倍晋三首相)から、人が安心して働ける国へと、かじを切り直してもらいたい。]
[本来は臨時的、一時的であるべき不安定な働き方を、企業が都合よく拡大・継続しやすい雇用制度改悪を、またも安倍政権が持ち出してきた。
先の通常国会で誤記が発覚し、廃案になっていた労働者派遣法改正案がきのう、衆院本会議で審議入りした。
改正案は、最長3年である企業の派遣労働者受け入れ期間の上限や業務区分を廃止。労働組合から意見を聞いて3年ごとに「人」を入れ替えれば、企業はずっと派遣労働者を使い続けられるようになる。
人員調整がしやすくコストも安い派遣労働者の「使い勝手」をよくしたい―。政権や経営側のむき出しの本音と、個人の生活や働き方をよくする視点の欠如には、がくぜんとする。雇用の不安定デメリットがあるのは企業だけ。改悪は、到底容認できない。
新たな案が通れば、正社員の仕事を恒久的に派遣労働に置き換える「常用代替」が許されることになる。また来秋からは、違反があった場合に派遣労働者が望めば派遣先企業が社員として雇わねばならない制度も始まる。その前に法改正を急ぎ、正社員化を免れたいとの思惑さえ透ける。
個々の労働者にとって今、必要なのは、正規・非正規を問わず安定的に働ける環境整備と待遇改善である。だが、4割に近づく非正規雇用者やワークプアへの支援はあまりに手薄。多少失業率が下がっても実質賃金は下がり続けており、格差に歯止めをかけなければ経済だけが成長するはずもない。直ちに正社員を増やせないなら、せめて非正規者の待遇底上げにつながる「同一労働・同一賃金」の徹底を急がねばならない。
しかし逆に、政権は「残業代ゼロ制度」の導入をもくろむなど、正社員の待遇も悪化させつつある。少子高齢化で今後、働き手の減少は分かりきっており、「猫の手」よろしく女性や外国人の「活用」を言い始めた今に至っても、旧態依然の使い捨ての思想から脱却できないのなら企業も国も立ちゆかない。雇用の質を切り下げる動きには、何度でも強く反対したい。
経済評論家の山家(やんべ)悠紀夫氏(宇和島市出身)は、日本経済はバブル崩壊直後ではなく7~8年後の1998年から長期低迷に陥ったと分析。その主因は「賃金の下落」にあり、「労働者派遣法の改正その他政府の規制緩和政策が賃金の上がらない(むしろ下がる)日本経済を作り出した」―と、看過する(「アベノミクスと暮らしのゆくえ」岩波ブックレット)。
経済発展も国の未来も、まず人があってこそ。過去の政策の過ちを真摯(しんし)に反省し、「世界一企業が活動しやすい国」(安倍晋三首相)から、人が安心して働ける国へと、かじを切り直してもらいたい。]