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大工の棟梁から学ぶ空間認識の習得プロセス

2010-12-24 16:37:16 | 伝統構法について
小川三夫棟梁講演会の様子
「越後にいきる家をつくる会」発足10周年を記念し、
新潟市内「こまくさ保育園」にて講演会を行いました。


新潟の山の木を使って、伝統構法で家をつくり、100年もたせたい・・そんな願いから結成された「越後にいきる家をつくる会」も発足10周年を向かえ、その記念行事として、薬師寺再建等、数々の寺社建築物に携わってこられた小川三夫(おがわみつお)棟梁に、大工の修行の時や、今の大工の養成のエピソードを講演して頂く機会を設けました。
10年以上経った新潟市の「こまくさ保育園」が会場となりましたが、伝統木組みの保育園を建築する際に、小川三夫氏からも応援をしていただいた想い出の建物での講演会です。



自らの体験を語る小川三夫棟梁

西岡棟梁へ弟子入りした時の話から、
「斑鳩工舎」での弟子を育てた経験まで
語って頂きました。


――ノミをひたすら研ぐ

法隆寺再建で有名な西岡棟梁の元で修行された当初は身の回りの掃除や炊事から始まり、ようやく道具を持たせられても、使うことは無く、毎日ノミをひたすら研ぐことだけをしていたそうです。

大工仕事も教えてもらうのではなく、親方や兄弟子の仕事を盗みながら体得していったそうです。


また、「斑鳩工舎」を設立し、社寺建築に関わりながら弟子を養成していますが、代々受け継がれてきた教え方を守り、
初めはノミを研ぐことから始め、削りたいという思いが高まった時に最高の道具で削らせているそうです。
はじめから道具を使わせたり、仕事をさせると、ロクな職人にならない・・
そういった教えを頑なに守り続けています。

良く研がれた道具で最高の技で、加工をすることが、大工の仕事であると説いています。
ひたすら道具を手入れすることが肝要だということです。



――大工の空間認識

師匠だった西岡棟梁の話も興味深いところがあります。
毎日眺めている法隆寺の五重塔を指して、

「五重塔の軒は開いて閉じて、開いて閉じている」

という言葉を残したそうです。



法隆寺 五重塔
国内の五重塔のうち、最高のプロポーションであると言われるが、
その寸法には隠された工夫があった。


その後、修復をしたときに実際に計ると、微妙に軒のバランスが交互に閉じて、開いてを繰り返しているということが分かったそうです。

また、木材への墨付けの際に、数十メートル先から曲線に打った墨の狂いを見抜くことができたそうです。

このような神業的な眼力は、宮大工の最高峰である西岡棟梁ならではの特技なのでしょうか・・
その優れた空間認識力を磨くきっかけが、ノミをひたすら研ぐことに起因するのではないかと講演会の最中に気づいたのです。



西岡常一(にしおか・つねかず)棟梁
法隆寺の棟梁で、最後の宮大工棟梁と称されている。
毎日、法隆寺の建物を見ながら、
古代構法の技術力を見抜いていたのでしょう・・


――ノミを研ぐこと

私が直感的に思いついたのは、砥石に向かってノミを一心に研ぐ毎日の動作の中で空間認識能力が自然に身につくという仮設です。





砥石という平面上に角度をつけて、ノミを一定の面に仕上がるように前後に動かし、研いでいきますが、実際、砥石は完全な平面でないことが多く、何度も研ぐことで磨り減って凹状になっていますし、切れるノミの刃先は平面ではなく、凸状になっていたほうが、良く切れます。すなわち、凹状の曲面上で凸状の曲面を研ぎ出すという作業で、最終的には手で触ることで微妙な曲面に仕上げます。



また、ノミの研ぐ面は砥石に向けられ、研いでいる本人からはその研いでいる面を直視することは出来ません。頭の中でどこまで研いでいるのか、手先の感覚で想像することしかできません。

頭の中で、見えない面を描き、全身を使ってノミを研いでいく・・



ノミを研いでいる面は、直接目で見ることは出来ません。
指先と全身の感覚を研ぎ澄まして、
頭の中で、研いでいる様子を思い浮かべます。


こういった作業を繰り返し行うことで、
建物を設計、施工を行う際に重要となる「立体を想い浮かべる」空間認識能力が身についていくのではないかというものです。


更に、建物を組み上げる際には時間要素が加わり、そこに流れる荷重や木の狂いを思い浮かべられるようになり、複雑な木組みの仕口や継手を自分で開発出来る様になります。

設計士が空間的なデザインを行ったり、複雑な構造計算を行う際に最も必要な「空間認識能力」や「直感でおおまかな力の流れをつかむ」能力です。
この能力が養われていなければ、平面的なありきたりな図面やセオリー通りの計算しか出来ません。

クオリティーの高い意匠設計や構造計算を行うには、立体を思い浮かべたり、力の流れがおおまかにつかめなければなりません。
現在は支援ツールとして、CGソフトや構造計算ソフトがありますが、昔の人はそういったものが無い中での作業でした。



五重塔等の社寺建築は大工の技の粋を出し切って建築しますが、
空間認識能力無しでは木組みやデザインは実現できません。


昔の棟梁は3次元CGが無くても、頭の中で立体や動き、荷重の流れを直感でつかむことが出来、五重塔や大規模な社寺建築の設計、施工が可能だったのではないでしょうか?

その能力を引き出すために、ひたすらノミを研いでいた・・
親方は教えてはくれませんが、(ひょっとしたら、教えている親方も分らないかも知れません)修行の中に大工として重要な要素が取り入れられ、気づいたときにはちゃんと、その能力が身についている。
そういった文化が受け継がれてきたのだと、講演会を聞きながら発見し、感動を覚えたのでした。


伝統構法へ・・



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