日本経済新聞が先月発表した2013年の夏のボーナス調査によれば、平均支給額が前年比1.64%増となり、2年ぶりのプラスとなったそうです。とりわけ円安で業績回復への期待が大きい製造業の伸び率が大きい(3.35%)とのことです。これをどう評価したものでしょう。
たしかにボーナスの金額が増えたことは勤労者にとっても景気にとっても好ましいことだとは思います。しかし、最近は多くの企業が業績をボーナスに反映させる一方、肝心の基本給などの賃上げを抑制しているため、ボーナスがほんの少し(1.64%)多くなったくらいでは、これから収入も増えていきそうだ、という実感を持つ人はそれほどいないのではないでしょうか。
さらにいえば、このボーナス額をドル換算してみると、じつは増えるどころか昨年よりも大きく減少していることが分かります(上記グラフ)。いうまでもなくこれはこの1年間で進んだ円安ドル高のせい。昨年6月(賞与支給月)の為替レートは1ドル約79.3円(月平均)でしたが今年6月は同97.5円と円はドルに対して20%程度も安くなりました。これだけ円安になると、ドル換算で比較すれば、上記の円建て額1.64%程度のわずかな増分など、軽く吹き飛ばされてしまうということです。
ドルではじいた賃金の大幅な減少は、世界標準の観点からみれば、それだけ購買力が減ることを意味します。今回のボーナスに関していえば、その減少率は約17%もの大きさ。そのぶんわたしたちはこの先、さまざまな局面で円安の弊害、つまり輸入品の価格高騰による負の影響を受けていくことでしょう。
このように、基軸通貨ドルで換算した収入や利益は円安によってマイナスとなり、実質的な購買力は円高時よりも下がったにもかかわらず、見た目の円建ての収入や利益が少しだけ増えたために得をしたような気分にさせること(「『実』より『名』をとる」こと)を、現日銀総裁のお名前にちなみ、本ブログでは勝手に「黒魔術」と呼んでいます。
この黒魔術は「アベノミクス」が重視する「経済成長」戦略でもいえること。こちらの記事でご紹介のとおり、1ドル100円程度の為替レートが続けば、ドルベースでの今年のGDP成長率はマイナス17%もの「超マイナス成長」となります。これでは、かりに円建ての名目GDP3%(消費増税にゴーサインが出るレベル)の「高成長」が達成されたとしても、とても胸を張れたものではない、と思っているのですが、いかがでしょうか(これまた書きましたが、これとはまったく逆の現象を白川前日銀総裁のお名前にちなんで「白魔術」と名付けました。白魔術は「『名』より『実』をとる」金融政策だったと思っています)。
「そんなことはない。アベノミクスで日本の景気は着実に回復している。ボーナス支給額増加で分かるとおり、勤労者の収入も増えている。いまは『期待』にとどまっているけれど、まもなくスイッチが入る個人諸費に牽引されるかたちで、日本は高い経済成長を達成するはずだ」なんて声が聞こえてきそうです。現に、日銀は先月11日の金融政策決定会合で、政府よりも一足お先に景気判断を「緩やかに回復しつつある」として、強気なことに(?)2年半ぶりに「回復」局面入りを宣言していますし・・・。
さあ、はたして黒田日銀の「異次元緩和」は「『名』も『実』もとる」ことをめざす金融政策といえるのか、そしてアベノミクスは、円安がもたらすさまざまな悪影響を差し引いてもあまりあるプラス成長や実質賃金の上昇などの恩恵を国民に本当に与えてくれているのか・・・。
それらを診断する材料のひとつになりそうだ、と個人的に注目しているのが、この夏の海外旅行者数の「伸び」です。
(続く)
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