Straphangers’ Room2022

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「犯罪」なのか「クーデター」なのか

2018-11-26 21:59:00 | 歴史
日産のゴーン(前)会長の逮捕は世界中に衝撃を与えましたが、落ち着いてくるとどうも話は単純ではないというか、これ本当に「犯罪」なの?という疑問すら湧いてきます。
典型的なのが25日のNHKスペシャルで、経営の主導権を巡るルノーとの確執に軸足を置いており、暗にフレームアップではないかという構成になっていました。

直接の逮捕容疑が有報への不実記載という金商法違反ですが、だったら会長個人の犯罪ではなくまず企業の犯罪として摘発すべきでしょう。金商法に有報提出は取締役会などの決議を要すると規定されていないという重大な瑕疵があるのは有名ですが、計算書類にかかわる部分、事業報告にかかわる部分がその大半であり、両方とも会社法で監査と取締役会の決議を必要としていますから、事業報告に記載されている「取締役への報酬総額」と一致する有報の役員報酬の内訳が今回の逮捕容疑であれば、会社法上の責任として法人が責任を問われ、取締役と監査役も職務懈怠の責を免れえません。

おりしも逮捕直後からSARに関する記載をしないことについて取締役も会計監査人も了解している、と無罪を主張していると報道されていますが、道義上の問題はさておき、記載しないことにつき機関決定と監査を経ているという事実は重く、形式的には個人だけ犯罪とするのは筋が通らない話でしょう。
会社資産の流用とか不正そのものの存在もささやかれていますが、会長と側近だけで出来る話ではないことは当然であり、ガバナンスも会計監査もお飾りでした、と「衝撃の告白」をしない限り、法人や社長以下の取締役、監査役や会計監査人が逃げ切るのは不可能ですし、相当な返り血を浴びるしかないでしょう。

その早い段階から経営陣がつかんでいたとされる「不正」は何か。持ち込まれた特捜も慎重に、しかし積極的に立件を進めてきたわけで、まさかそれが金商法違反とは思えない、いや、あり得ないわけで、何かがあるはずです。

それが小出しにされている「不正」という人も多いでしょうが、法人としての不正はあっても個人としての不正を問えるかというとかなりグレーです。
住居などの個人的便宜を図るためにトンネル会社を設立した。個人的な旅行費用を負担した。確かにケシカランですが、会長が勝手に決裁してャPットに入れていたのではないですよね。個人が責任を問われるとしたら、まず間違いなく申告していないので所得税法違反くらいでしょう。それで1年近く内偵をして、というのはあまりにも不自然です。

特別背任に問える確たる事実がある。しかしそうであれば早期に嫌疑を公表すべきでしょう。足下のおそらく検察リークであろう事案の数々は企業の責任を問う前に企業トップを逮捕するだけの理由になりえません。確かに特別背任は金額規模を問いませんが、企業の規模、利益水準を踏まえた常識的な判断をすれば、「庶民」にとっては巨額でも、日産や会長にとってはどうなるのか、という話でしょう。

そうなると後述する「陰謀論」での逮捕というシナリオがいちばん説得力があるわけで、だとすると経営権を巡る私企業内のゴタゴタに検察という国家の司法権力が介入したという前代未聞のスキャンダルになります。
「不正」は犯罪と思っている人も少なくないですが、司法に摘発される「犯罪」と「不正」の枠は必ずしも一致しません。内部統制、ガバナンス上は由々しき問題であっても、あくまで定款や規程など企業統治の決め事の問題というケースがあることには留意が必要です。

そのNHKすら傾いている「陰謀論」ですが、ガバナンスの権力が会長に集中する中で会長がルノーとの経営統合を急いでいることへの「クーデター」というものです。
あからさまにそうとは言っていませんが、開発部門の統合でルノーが口を出してきた、日産生え抜きの技術者の流出が続いた、それが社内の不満につながった、という背景は確かに深刻ですが、それ自体は犯罪でも何でもないわけです。

悲しいかな日産の筆頭株主はルノーです。取締役会もルノー側がマジョリティです。不満だろうがなんだろうが、経営権を握られた企業というのはそういうものです。解体されて会社ころがしのように売られても文句は言えません。それがビジネスであり経営です。
6000億円超の出資を受け入れた時点で自主的な経営権を事実上手放したということであり、理不尽だ不公平だと主張しても屁のツッパリにもなりませんし、日本的な思考に則れば、「あの時の恩義を忘れたか」といわれるのがオチです。

余談ですが鉄道関係の議論でも、某高額運賃の鉄道会社に関して、親会社に対して「値下げさせるために経営権をよこせ」と市民団体だけでなく自治体関係者やアカデミズムが主張していますが、経営権というものは斯くもシビアということを理解していれば、そんな発言をすることなんかあり得ません。苦しいときに投融資をした相手に対して当時のことは忘れたかのようにふるまうのは相似形ですが、それが日本人の「経営」に対するマインドでしょうか。

ビジネスのルール上は何もできない。だから追い落としを図りシナリオを組み、検察を巻き込んだ。もしそうだとしたら最悪の話になりかねません。国家が絡んだら、「そういうことがあり得る国」として途上国のようなソブリンリスクがある国と見られてしまいます。
それを回避、払拭するためにも早期の「本当の容疑」を開示すべきであり、それが出来ないのであれば刻々と日本経済そのものの信用を棄損していきます。

最悪なのは金商法違反以上の「犯罪」が立件できないこと。せいぜい「所得隠し」で終わること。両者とも法人も罪に問われるわけで(損金として落とせない支出を損金として過少申告とした法人税法違反になる)、有報の方は会計監査人も通したとなると(会長の主張を否定して将来の確定債務とするのであれば引当金計上をしないといけないが、それがなければ引当金勘定を通じて会長の主張を容認したことになる)、会長の責任を問うことも微妙で、まず会社や会計監査人の責任が問われないといけません。

一方でルノーの「反撃」も当然あるわけで、「クーデター派」の役員の放逐や、「ルノー派」の役員登用による経営権の更なる掌握もあり得ます。日産がルノー株を買い増して25%以上の持ち分を得ればルノーの議決権を無効にできますが、ルノーがマジョリティの取締役会の決議はできません。皮肉にもこの手法はフランス政府がルノーを通じて日産に介入しようとした際に会長主導で実行しかけましたが、その時は会長主導だったからできた話です。

そうなると、目の上のたんこぶを取り除いたつもりが、すべてを失う結果になりかねません。


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