Eur-Asia

西洋と東洋の融合をテーマとした美術展「ユーラシア(Eur-Asia)」の開催を夢見る、キュレーター渡辺真也によるブログ。

「The Cartoons that Shook the World」を巡って

2009-08-15 10:41:15 | Weblog
ニューヨークでのある日のこと。アート関係のイベントのお手伝いで、ウエイターをやってVIPの接客をしていると、ソファに座った男性に呼ばれて、白ワインを注ぐ様に頼まれた。綺麗な女性を同伴したこの男性、どこかで見たことがあるなぁ、と思って、しばらく考えて、ピンと来た。サルマン・ラシュディ氏であった。

ソファに深く腰掛けたラシュディ氏に白ワインを継ぎながら、私は一瞬、歴史に出会ってしまった、という不思議な感覚、そして混乱に陥った。

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昨日のNYTimes紙上にて、イェール大学出版から出される新刊「The Cartoons that Shook the World」に、2年ほど前にデンマークの新聞に掲載されて問題になった、ターバンが爆弾に書きかえられているムハンマドの風刺画を掲載しない様に作家側に要請していたことが分かった、と掲載されていた。

さらに、デンマークの新聞に掲載された風刺画のみならず。ダンテが「神曲」の中で書き、ボッティチェリやブレイク、ロダンやダリもモチーフとした、ムハンマドが地獄で悩まされるシーンを描いたGustave Doréによるスケッチも、掲載の自粛を要請したと言う。

この本を書いた教授Jytte Klausenがデンマーク人、というのも不思議な歴史の因果を感じる。この教授は、イェール大学出版会の決めた、ムハンマドのターバンが爆弾になっている風刺画の掲載の自粛に関しては、認めたそうだが、大学側のすべてのイメージを自粛して欲しい、という要請には難色を示しているそうだ。

記事を読んでいて驚いたのだが、2年前にデンマークの新聞社が掲載したムハンマドの風刺画騒ぎで殺害された人の総数は、200人に及ぶと言う。そこまで多くの人の命を奪った事件は、近年なかったのではないか。

こういった問題を扱うのは本当に困難だと痛感する。もしも、の事が起こることを想定すると、アカデミズムの側も慎重にならざるを得ない。そして、もしも、のことに前例があった場合、責任問題をめぐって、非常に困難なことになるだろう。

私自身が経験したことに照らし合わせてみても、人ごととは思えない。自分自身が抱え込んだテーマとして、これからも考えて行きたい。

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