Eur-Asia

西洋と東洋の融合をテーマとした美術展「ユーラシア(Eur-Asia)」の開催を夢見る、キュレーター渡辺真也によるブログ。

今年マリエンバードで

2008-03-17 02:27:58 | Weblog
昨日、レネとロブ・グリエの「去年マリエンバードで」を見て、気づいたことが一つある。忘れないうちに書き留めて置こうと思う。

映画の中でマリエンバードをプレイする男性Aが、カフカに大変似ているのである。そこで一つ分かることがある。

マリエンバードは、ドイツの発音で、現在のチェコにある温泉街Mariánské Lázněのことである。この町は文化人の溜まり場になっており、マーク・トゥエインや皇帝フランツ・ジョゼフ、ニコライ二世、ゲーテ、ニーチェ、カフカ、トーマス・エジソン、フロイト、さらに作曲家のショパン、マーラー、ワーグナーらのお気に入りであったと言う。

この町は第一次大戦から第二次大戦までの間、大変にぎわう様になったのだが、ナチに併合されると、完全に「マリエンバード」と呼ばれる様になったと言う。そして、1933年1月30日、ヒトラー内閣が発足すると、ドイツ系ユダヤ人であったレッシングは、ドイツ語が通じる外国であるチェコスロバキアへと亡命したが、そこでナチのスパイに暗殺されている。

問題は、何故この映画に「マリエンバード」という名前が付いており、そして、何故この男性Aがカフカに似ているのか、ということである。

マリエンバードは以前もブログに書いた様にゲーム理論の名前でもあり、ある一定のルールの中でゲームをプレイする限り、先攻者が絶対に敗北する、というものである。そして、このゲームを案内する男性が、カフカ似の男である。

カフカは、オーストロ・ハンガリー帝国に占領されたチェコに生まれており、チェコ語すら話せない抑圧されたチェコの中で、さらにユダヤ人という劣等感の中で、かなり特殊なドイツ語の語感を磨いていったとされている。(この辺りはドゥルーズの「カフカ」が詳しい)

そして映画の中で、ほとんど無意味とも思える、拳銃を発砲するシーンが何度か出てくるが、このシーンとマリエンバードという発音などを考慮すると、設定は第二次大戦直前のヨーロッパであることが想像できる。

レネは、自らのフランス系ユダヤ人としての出自を、カフカとレッシングに重ね、ロブ・グリエと一緒にこの脚本を作ったのではないだろうか。サルトルさえイスラエルに関する発言が憚られたあの時、この作品を作ることが、彼なりの表現だったのではないだろうか。

そして、マリエンバードを案内する男性”A”に対して好戦的である男性”M"を描くことにより、第二次大戦において侵略国であったドイツを批判している様な気がしてならない。

「3本のバオバブの木が地球を食べてしまっている」と、枢軸国批判のメッセージをを星の王子さまに代弁させたサン・テグジュペリの様に、ユダヤ人であるレネは、「夜と霧」「ヒロシマ・モナムール」「去年マリエンバードで」の3本で、かなり間接的なナチ批判、そしてヨーロッパを覆う戦後シニシズムの問題を扱おうとしたのではないか、というのが私の考えである。

PS:アラン・ロブ・グリエの脚本は、アドルフォ ビオイ・カサーレスの小説「モレルの発明」という元ネタがあるそうです。ご存知の方、コメント下さい。または、誰か読んでコメント下さい。
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2 コメント

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アラン・レネのこと (む→)
2008-03-19 16:15:21
初めまして!
アラン・レネの作品が大好きなむ→と申します。
渡辺様のブログも何時も楽しく拝見しております。

アラン・レネはユダヤ系だったのですね!レネはブルターニュ地方の出身で、戦時中は従軍(舞台俳優として慰問部隊に属していたそうです)していたと本で読んだことはありましたが、ユダヤ系だとは知りませんでした。ナチからどうやって逃げたのでしょうか・・・。

「去年マリエンバードで」を、私は「眠れる森の美女」のような映画だと思っていました。異国のハンサムな王子(X)が、生ける屍のような王女(A)を救いに来たというような・・・。AはAMOUR(愛)、MはMURDER(殺人)の略だと思っていたのです。(渡辺様、Aは女性です。カフカ似の男性はMです。)政治的な解釈というのもできそうですね。レネもロブ=グリエも、この映画を観客の参加を求めている映画だと定義していますね。無数の解釈が生まれる不思議な映画ですね。

「モレルの発明」という作品は存じません。済みません・・・。ただ、この映画は黒澤明の「羅生門」も参考にしているそうですね。人それぞれによって同じ出来事でも解釈が違って、映画の最後までどれが真実なのか分からないという。
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レネについて (渡辺)
2008-03-20 02:36:08
む→さま、コメントありがとうございます。

レネのこと、ちょっと調べてみたのですが、どうやら私が先走ってしまった様です。。。レネ自身はフランス人で、ユダヤ系ではありません。私はどうしても「夜と霧」のイメージが強く、また昔レネ研究をしていた友人から、当時タブーであったホロコーストをレネが間接的に描いたことなどについて話していた記憶から、彼をユダヤ系だと早とちりしてしまいました。それこそ、私の「解釈」の問題が出てしまいましたね(笑)

ちょっと調べていて知ったのですが、レネの奥さんがアンドレ・マルローの一人娘らしいですね。なんだか、デュラス的なポストコロニアルな歴史とも重なってきます。

確かに構図としては「羅生門」とも似ていますね。全ては「藪の中」といった所でしょうか。
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