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西洋と東洋の融合をテーマとした美術展「ユーラシア(Eur-Asia)」の開催を夢見る、キュレーター渡辺真也によるブログ。

クリス・マルケル監督 映画「Level Five」との出会い (琉球新報 09年5月13日付)

2009-05-14 00:30:24 | Weblog
(琉球新報 09年5月13日付)

クリス・マルケル監督 映画「Level Five」との出会い

渡辺真也

20歳の春アジア一人旅での、忘れられない出会いがある。シンガポールからマレーシア中部を通る電車中でのこと。私の隣に一人の老人が座り、3時間ほど親切にマレーシアの習慣や言葉などを教えてくれた。駅が近づくにつれそわそわし始めると、老人は決心したかの様に「君に聞いてもらいたい歌がある」と言うなり、右手を大きく振りながら「ハッコウイチウノー」と歌い始めた。日本の皇民化政策の際に強制させられた日本の軍歌だった。「お願いです。もう少し話を聞かせてもらえませんか?」と尋ねると、彼は私と一緒に電車を降り、日本軍の言語政策が徹底的だったこと、そして今老人となったマレーシア人の多くがその経験を心の奥にしまってきた事など、胸の詰まる話をしてくれた。私が「ここであなたに何かすることはできないが、あなたから伺ったお話を、絶対、日本の若者に伝えます」と言うと、彼は涙を流しながら手を強く握った。

当時、映画監督という夢を抱いていた私は、このやりとりの一部をビデオで録画していた。帰国1ヶ月後にアメリカ留学を控えていたが、老人との約束を果たす為、先輩の家に泊りこみ、編集作業を開始した。しかし機械の不良で作業が進まず、映画は完成しなかった。

落ち込んでいた私を励ます為、先輩が連れて行ってくれたのが、沖縄戦の記憶をテーマにしたクリス・マルケル監督の映画「Level Five」であった。フランス人女性ローラは、他界した夫が残したコンピュータプログラムの中で最も困難なゲーム「レベル5」を解くべく、キーワード「OKINAWA」を追う。映像には、渡嘉敷島の集団自決目撃者の証言や、サイパン島のバンザイクリフから身を投げる記録映像、30年以上公開を禁止された、沖縄戦で記憶を消失した米兵などが立ち現われて行く。私はこれより優れた映画を作ることは不可能だと悟り、優れた作品を紹介する側、キュレーターになろう、と決心して渡米した。

マルケル監督はこの映画について、こう述べている。「沖縄戦の死者の多くは集団自決であり、降伏してはならないと洗脳されていた。これは他に例をみない、第二次大戦のなかでもっとも狂気にみちた無残な実話だが、歴史には素通りされ、我々の集合的意識からは抹消されている、だから私は再び光を当てようと思ったのだ」。私は9条と戦後美術をテーマとした展示にて、この映画に再び光を当ててみたいと思う。

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渡辺真也:1980年静岡県生まれ。世界35カ国を単発的に放浪後、ニューヨーク大学大学院修士過程終了。「アトミックサンシャインの中へ」展のキュレーターを務める。

クリス・マルケル監督「Level Five」上映会
日時:2009年5月16日(土) 13:30開館 14:00開演
場所:講堂(沖縄県立博物館・美術館3階大ホール)
映画紹介:渡辺真也
申込方法:当日先着200名
※このイベントは「アトミックサンシャインin沖縄」の展覧会チケット(または半券)が必要になります。


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1 コメント

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レベル5を観ました (比嘉 拓哉)
2009-05-18 19:22:02
 先日、クリス・マルケル監督の「Level Five」を観ました。
 実は、以前、この映画を観たことががあるのですが、日本語字幕なしで、自分もフランス語がわからないので、この作品を理解するのに大変苦労しました。
今回は通訳があるということで、この機会に是非見ようと思い、観てきました。
 改めて観てみると、この映画に対するメッセージは今まで私が観てきた戦争映画とは違った映画でしたし、全体的に漂っていたサイバーパンクの雰囲気が通訳がついていたことでより一層楽しめました。
 すごくいい映画でした。

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