穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

Wの火掻き棒振り回し事件の真相を推理する

2019-12-31 09:01:33 | ウィットゲンシュタイン

 さて、若い諸君にまず聞かなければならない。火かき棒とは何だかわかりますか。現在使っていないから多分知らないだろう。まずその辺から始めなければならない。驚いたことに辞書にはヒカキボウは勿論ヒカキという言葉もない。ところが和英辞書にはある。なんじゃい。私の見ているのはシャープの電子辞書である。この国語辞書の収録語数はすごくおおい。広辞苑と乙甲(オツカツ)だろう。もとは「三省堂スーパー大辞林3.0」である。英語は新和英大辞典である。

 和英によるとヒカキとはfire rake あるいはpokerのことである。棒はつけても付けなくても意味は変わらない。
これでも諸君には分からないか。弱ったな。昔はね、石炭ストーブというのがあった。というより暖房というと大体石炭ストーブだった。こたつを卒業したハイカラな洋風建築の家庭とか、学校ではね。火の勢いが弱くなると火掻き棒をストーブに突っ込んでかき回した。ま、そういうもの。だから鉄の棒でしょっちゅうストーブに突っ込んであるから灼熱して鉄は赤変している。黄変まではいかないけどね。

 そのヒカキボウを興奮したWが議論相手に向かって振り回して追いかけたというのが事件である。時は1946年、場所はイギリスたしかケンブリッジ大学のWの研究室。出席者はW,ポパー、学生たち、バートランド・ラッセル。
世に喧伝された事件であるにも関わらず目撃者、当事者の誰もがどんな議論が原因だったかマチマチ、バラバラな報告をしている不思議な事件である。

 目撃談は多数ある。出席した学生や大学関係者(主として大学の教員)、ラッセル、そして当事者のポパー。いかしいずれも事件の発端となった議論についてはまちまちな証言をしていてとりとめがない。

 ここでポパーのことを少々。彼は亡命ユダヤ人でアメリカ人の科学哲学者である。終戦後間もない46年かれはスキャンダラスなプラトン批判を引っ提げて華々しく登場した。ナチスの思想的背景はプラトンであるというのである。この議論は十分に成り立つ。プラトンの国家などを読めばね。しかし、ヨウロッパでプラトンの権威に挑戦することはまずない。学会のタブーである。ナチスと死闘を繰り広げたイギリスでさえもありえないことでポパーの来英はスキャンダラスな事件ではあった。これは当時の背景であるが、これがWを激高させたとは考えられない。W自身が50パーセントのユダヤ人だし、あれだけ口汚く形而上学者を罵っていたWがプラトンの権威が挑戦されたからといって怒るわけがない。

 ポパーはその後数十年経ってから回想録?「開かれた社会」で事件に触れているが原因となった議論の中身には触れていないのである。以下は当事者たちが沈黙しているWがブチ切れた原因を推理しようというものである。

 

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