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穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

アクロイド殺しをどう読むか

2015-08-16 16:32:14 | 本格ミステリー

ぞっとするような品のない言葉がある。ネタバレ、物書きなどである。センス、ゼロの百姓言葉である。 

アクロイド殺しについては、散々に記述者=犯人がフェアプレイに反するとかどうとか言われ続けたのでネタバレなんていう言葉は関係なくなっているが。

したがって、ネタ明かしへ持って行く腕がどうかいな、ということに絞って読むより他に方法がない。私もその方法で再読した。

クリスティの文章は平明調である。これはこれで得難い才能である。この書き方を修得すれば、さしたる努力もせずに毎年クリスマス前に読者にさして品質を落とさずに新しい作品を提供できる。何年に一度かは水準を超える作品がだせる。

アクロイド殺しは彼女の作品では平均より上の作品の一つであろう。読み終わってから冒頭の3、40頁確認のために読み返した。あまりにも計画がよく準備されているので、どういう布石がばらまかれているか確認した。 

最初に読んだとき冒頭から付箋じゃない伏線を張っている箇所はわかるのだが、あまりにも複雑な計画と言うか準備がなされているのでそんなことが時間的に可能なのかな、という疑問をいだいた。

例えば、ディクタフォンの時間予約とか、当て馬犯人(ラルフ・ペイトン)の靴を盗み出すとかの準備の間の良さである。あるいは患者の一人に電話をかけさせるとかである(もっともこの電話のトリックは出来がよくない)。

犯行の決意は、アクロイドが自殺した婦人から告白の手紙を受け取ったときに決意した様に読んだ物だから時間的余裕がなく矛盾していないかなと思った訳。ところが冒頭部分を読み返すと自分の強請がアクロイドに判明するのではないかという危惧は昨日の出来事から持ち始めていたと読める。

これなら計画を考える一日の余裕があったわけだ。

そこで格付けだが、やはりBというところかな。

 

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「Yの悲劇」続き

2015-08-14 15:39:52 | 本格ミステリー

Yの悲劇は格付けすればBプラスかな。娯楽読み物としてはベストテンの第一位だろう。細かいことをすこしつついてみると。 

俳優探偵が犯人を確認するためにおびき出して蔭から確認する場面があるが、犯人の描写がまったくない。背が高いとか、低いとか。男だとか女だとか。覆面をしていたか、顔を見たかとか。これを書かないのはあまりにも不自然である。記述トリックというにはあまりにも図々しすぎる。ま、お愛嬌であるが。

狂的、病的な一家全員の共通性の根源につても、きわめて文学的な描写しかない。医師のカルテを俳優探偵が調べる所があるが、老女主人だけがワッセルマン反応がたしか陽性であとは全部陰性。ワッセルマンを出しているのは梅毒を暗示しているのだろうが、血の根源である老婦人以外が全員陰性というのはどういうことか。狂気の原因を器質的な病原性のものにするよりか、別の物にした方が説得力があっただろう。

どこでだったか、犯人を『彼』と翻訳している。英語のHEは男女両方をさす場合があるようだが、日本語に翻訳する場合は工夫したほうがよい。

乱歩ベストテンも残るはアクロイド殺しか。あとベントレーの「トレント最後の事件」は翻訳が手に入らない。翻訳を元にしてこのシリーズはやる方針なのでこれは除外することになるだろう。もっとも創元社が復刻すれば別だが。

ベントレーの作品では短編集が一つ翻訳で手に入る。国書刊行会出版の「トレント乗り出す」だ。一応これを読んでみた。短編というのはどうも興味が持てないのだが、この本はなかなかいい。きっと長編も面白そうだ、と思わせる物があった。

 

 

 

 

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「Yの悲劇」の総括的印象

2015-08-14 14:36:15 | 本格ミステリー

本格ものというと高踏的という風に取られているのではなかろうか。あるいはペダンティックなものという印象を持たれているのではないだろうか。だから、Yの悲劇は漫画的だという批評が非難としてなげかけられるのだろうか。

ハヤカワ文庫の解説は新保博久という人が書いているが、それによると該書を漫画的とけなす人がいるそうである。私はどこからそんな言葉が出てくるか理解できない。

あくまで比較の問題であるが、乱歩のベストテンのなかでいえば、本書がもっとも、なんというか、高級な文章といえる。全体的な印象と言う漠然とした基準ではなく、比喩、他書への言及についてもっとも嫌みがなく適切である(10書内の話)。

その人の文章能力の程度が容易かつはっきりと判断できるのは比喩のうまさであり、くどくない適切な(ひけらかしや嫌みを感じさせない)引用、言及である。文章上のセンスや能力はこの二つをみれば大体わかる。

小説はどのジャンルでもそうだろうが終わりが難しい。推理小説は終わり(エピローグ)が謎解きで説明的になるためかほとんどの作品で興味索漠、無味乾燥となる。本書は比較的その程度がすくない(読ませる)。ようするに工夫があり、それを実現する筆力がある。 

これは褒めたらいいのか、けなしたらいいのか難しい所があるが、いくつかの点でケチ或はコメントを付けたくなる所がある。それが推理小説の読み方の楽しさなのだろうが。

順不同で述べてみると、190頁あたりだったか、三重苦の女性が犯人の頬にふれて、肌が柔らかくてすべすべしている、そしてバニラの匂いがしたと証言する。私はここを読んですぐに犯人は少年であると予想した。しかし、この家に連続して発生した事件の第一被害者なんだね、この少年は。それでどう結末をつけるのかな、という興味をもった。或はこのヒント(証言)をどうひねって他の人物を犯人とするのか、興味をもった。

話はそれから延々300頁も続く。そしてやはり犯人は少年であった、という結論に至る。そこへの繋ぎ方というかな、そこの工夫が面白かった(この辺が漫画的と言うんだろうな、いかにもセンスのない批評であるが)。

素人探偵として耳の聞こえなくなったもとシェークスピア俳優が出てくるが、キャラは立っている。かれがデズニーランドみたいな自宅に住んでいるのだが、この辺もマンガチックとけちもつけられよう。しかし、この辺はマンガチックに描いた方がいいように私には思われる。

 

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「Yの悲劇」

2015-08-10 07:53:47 | 本格ミステリー

Yの悲劇を130頁当たりまで読んだ。わりとスラスラ読める。冒頭は今まで読んだ中ではすぐれているようだ。ただ探偵ごっこの「もと」シェークスピア俳優が出てくるあたりから無味乾燥になる。 

この本は新潮文庫で読んだ記憶があったので今度はハヤカワにした。ところが読んでみてまったく思い出さない。もしかしたら前に読んだのは「Xの悲劇」のほうだったかも知れない。

ところで江戸川乱歩10選も8冊目になるが、本格というのは警察の他にアマチュア探偵(もどき)が出てくるのが特徴である。作者達はどうだ、と胸を張って工夫しているつもりらしいが、むしろ逆効果が多いようだ。興味索然とすることが多い。

振り返ってみると(順不同);

Yの悲劇                           引退俳優

ナイン・テイラーズ         貴族探偵(部屋住み貴族、すなわち次男)

赤い館の秘密                    出来合い素人探偵

帽子蒐集狂事件                 高等遊民、ディレッタント

僧正殺人事件                    高等遊民、ディレッタント

黄色い部屋の秘密             記者

赤毛のレドメイン               引退探偵

樽                                   現役探偵

 

つまり、警察と独立に、そして警察と親善関係にあり、警察が御指南を仰ぐという恐ろしく非現実的な探偵を作らないと、本格ものは書きにくい宿命にあるらしい。元本職、本職の私立探偵は最後の二冊だけだ。

これは本格の宿命か特徴か。弱さか強さか。こう型にはまっていると宿命かな。クリスティ、ベントリー、も素人探偵じゃなかったかな。もっともクリスティは何人かの探偵を使い分けているから「もと」探偵もあったかな、ポワロがたしかそうだ。

Yの悲劇、もう一山くらい盛り上がってくれるといいがな。

 

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鐘が殺した

2015-08-08 14:06:56 | 本格ミステリー

ナイン・テイラーズのラストがいい。大きな音、特定の周波数の音が物を破壊し、人間を殺すことは古くから知られている。詳しく書くと一部からネタバレと声が飛びそうだから止めておくが。 

そう、貴族探偵は推理した訳だ。自分の体験に基づいて。すなわち水路工事(全編で叙述されていた)が完成したが、そのために古い水門が新しい水の流れで破壊されるのを工事関係者は考慮していなかった。

水門が破壊され、河が決壊して周囲の村は水の底に沈む。洪水の急を知らせるために教会の鐘が乱打される。現代で言えば防災無線だな。その最中にウィムジー(探偵)は密閉された塔の内部に入り、高音を発して塔をゆすり、轟音を発し続ける塔内で死に直面する。

ここから大晦日の鐘の演奏中にここに閉じ込められた男(ディーコン)は死亡したと推測するのである。この趣向も面白いがここに至るまでの数十ページの描写が巧みである。探偵小説とか謎解きということに関係なく、それ自体で迫力がありすばらしい。

途中だれる描写がある(それもかなり)のでAは無理だがBプラスに格付けされるだろう。

 

 

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「ナイン・テイラーズ」二段ほど下げ

2015-08-07 19:25:47 | 本格ミステリー

あと40頁ほど読み残しているが、もう最終的な書評をしてもよかろう。残りを読んで必要なら修正する。 

最初のボディが転がる(掘り起こされる)ところまでは褒めてもいいが、その後推理小説になって二段評価下げだ。

解説は巽昌章氏という人が書いている。スリラーの解説はろくなのがないが、これはまあまあである。へー、なるほど、そうだな、というところが複数あった。

翻訳だがえらいなまっている。どこの方言だろう。きいたこと、読んだことがない。実際にある特定の日本の方言で統一しているのだろうな、訳者は。原作の舞台はバスが一週間に二回(2weeklyだよ、間違えない様に)ようやく最近通う様になった僻地である。ところが自動車で行くとロンドンへ楽々日帰りが出来る所という設定。地名も出てくるがこれが実際の地名かな。

時代は昭和の初期であろう。ムッソリーニ台頭後、ヒトラーがまだ政権を取っていない時期ということが小説を読むと分かる。とすると、日本でいうとどのあたりだろう。埼玉東部か奥多摩か。あるいは三浦半島の山中でサンカののようなところであろうか。

一週間にバスが二回しか来ないんだから。

貴族探偵というんだが、彼ら(推理作家)も頭をひねるね。キャラはたっていない。

この探偵、千里眼を持った探偵ではない。失敗したり、どじったりする。試行錯誤である。

前に推理小説の分類の話をしたが、そこでし残したがスリラーには

1:「犬もあるけば棒に当たる」スタイルがある。ハードボイルドはこれに該当する。

2:本格ものと言われる小説では超人的な推理力を持った探偵が出てくる。この観点からいうと、ナイン・テイラーズは「犬も当たれば棒にあたる」に近い。 

それでいながら印象が散漫なのは「三人称複数視点」だからだろう。三人称でも単視点なら救われたかもしれない。

なんやかや、わいわいいいながら神輿を担ぐみたいにこねくり回しているうちにクロスワードパズルの最後の札が見つかるテイの小説である。まあ、評価はBかBマイナスに直そう。

それと、やたらと詩文からの引用をひけらかす貴族探偵である、この点だけはヴァン・ダイン流だ。センスのなさでもヴァン・ダインに匹敵する。一言これを覆う、曰く珍妙。

 

江戸川乱歩はベストテンの10位に上げているがどうしてだろう。暗号解読の話が長々と出てくるからかな。乱歩も暗号ものがたしかあった。なんだっけ、5銭銅貨だったかな、ちがったかな。乱歩のは短編だったが、セイヤーズのは不釣り合いに長々と退屈な講釈が続く。よくない。 

巽氏が幻の傑作と言っているがとても傑作といえる作品ではない。

 

 

 

 

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セイヤーズ「ナイン・テイラーズ」

2015-08-03 08:35:34 | 本格ミステリー

最初の死体まで114頁、読ませる。江戸川乱歩のベストテンでは10位だが、ここまで(114頁)読んだ所では下拙の評価はAマイナスである。 

イングランドの田舎、吹雪の道で素人(御前様の貴族探偵)の車が路肩に突っ込む。避難したのが教区長の家である。そこでの一夜の描写を読む限りでは探偵小説とは思えない。

その地方に伝わる鐘を使った一種の教会音楽の演奏の話が延々と続く。まったくその種のことに疎くても滞りなく読ませる腕は一流である。これで思い出したが、古いキリスト教会では鐘をならす一種の教会音楽が各国各地方にあるらしい。昔読んだユイスマンの「彼方」にも似たような熱狂的な鐘研究家の話があったと思うが。

「読書は私に取って休養である」といった哲学者がいたが、私にとっても大部分の本は面白いと思っても「休養」である。だから「逃避文学」というのかな。私に取ってはシリアスな小説も大部分は「休養」なのであるが。

したがって、one sitting でせいぜい2、30頁しか読まない。一気呵成に、徹夜で読んだりしたら「休養」じゃなくなるからね。で、一番大切なのはしばらく「非休養」すなわち仕事をしていて、どれ一休みと再び本を取り上げた時に前回まで読んだ所の筋道がすぐに思い浮かぶのが条件である。そしてこれが良書の条件でもあろう。これだけを基準にしても本の評価はほとんど過たない。

セイヤーズは一、二読んだ記憶はあるが退屈そのものという印象だったが、この本で見直した。

 

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「赤い館の秘密」について

2015-07-27 20:53:16 | 本格ミステリー

詩人(イギリスの狂詩のようなものらしい)でありジャーナリストである作者が余技で書いたものであり、筆力は保証されている。

しかし、創元文庫の翻訳の日本語には意味の通じない訳が多数ある。原文が訳しにくいのかどうかは検証出来ないが、通読した印象では翻訳の問題ではないかと思われる。また、意味がおかしい云々でなく日本語としておかしいところもある。若い娘の母親の会話に「なになにじゃわい」というような訳文がある。侍社会の後家言葉でもあるまいし妙だ。 

こういうものこそ、今はやりの言葉で言えば「新訳」が出てもいいのではないかと思われるのだが。

解説は中島河太郎氏である。一時代前の人のようだが、彼の解説は安心して読める。その解説の中でチャンドラーがこの作品を批評した文章が有ると書いている。私は読んだことはないが、この二人は面識があったのではないか。チャンドラーは1888生まれで青年時代はイギリスでシリアスな詩を発表していたというし、「赤い館の秘密」の著者ミルンは1882年生まれであり、詩人としてスタートしている。しかもふたりともアイルランド人である。機会があったら読んでみたいものである。 

探偵の立ち位置であるが、出来心で探偵になった定職なしのギリンガム青年である。田舎の豪邸に食客として滞在している友達を訪ねた先で殺人事件に遭遇する。警察との関係だが、まったく没交渉である、最後まで。最後に警察に先んじて真相を解明する段階で友人に「警察にも言う必要が有るかな」てなことを漏らすくらいのものである。ユニークといえよう。

ギリンガム青年は一度視覚に入った物はデジタル写真みたいに意識にのぼらなくても、すべて思い出すことが出来るという「超能力」をもっている。これって数年前話題になった「ミレニアム」の女主人公の設定とおなじである。作者が応用したのかな。

これも一人二役物である。イギリス人はシェークスピア以来この仕掛けが好きらしい。最後の謎解きは犯人が手紙で自白するのだが、迫力なし。盛り上がりなし。平板である。

 

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乱歩評価の再評価

2015-07-27 20:09:05 | 本格ミステリー

江戸川乱歩推薦のベストテン(黄金時代の)を6冊読みました。ここで評価してみましょう(abcde評価)・

 

乱歩の順位            書名                   下拙の評価

 

1         赤毛のレドメイン                              B

2   黄色い部屋の秘密                               D

3         僧正殺人事件                                    C

4   Yの悲劇                                           最近読んでいない、印象なし

5         トレント最後の事件                            未読、新刊入手不能

6          アクロイド殺害事件                            最近読んでいない

7          帽子蒐集狂事件                                 C

8          赤い館の秘密                                    B

9          樽                                                  B

10        ナイン・テイラーズ                           未読

 

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小説? 黄色い部屋の秘密

2015-07-23 07:36:45 | 本格ミステリー

半分くらいしか読めなかった。なぜかって、これから書く。「探偵」小説は小説である。もっとも「探偵」という変数はミステリー小説、推理小説、ハードボイルド小説、犯罪小説等と置き換えてもよい。

小説の最低条件は読ませるだけの文章力、展開のなめらかさ、中心人物(探偵小説の場合は探偵、場合によっては犯人)のキャラの印象的な創出(あえて魅力的とはいわない)などであろうか。

黄色い部屋の秘密はこれらの条件を満たしていない、とても最後まで読めない。

文章のつたなさは弁解のしようがない。これが原文のせいか、翻訳のせいか特定できないが、翻訳だけの責任ではないだろう。

長い時間をかけてやっと半分まで読んだがもう駄目である。一回に5頁、10頁読む。ほったらかしておいて時間をおいてまた取り上げて1頁読んで投げ出す、てな調子で200頁当たりまでたどりついた。

最初の1、2頁に次のような表現が出てくる。

「奇怪極まる事件

「もっとも不可思議な探偵事件

「不可思議にして残忍かつセンセーショナルな

「奇々怪々な事件

「全世界の人々が

「かってわが国の警察の慧眼な洞察力に委ねられ、また裁判官達の明識に訴えられた物のうちでもっとも難解な

「全世界の人々の目に映じた

等等、、

小説はこうした事柄を訴え、あるいは読者に印象づけるために、こうも芸のない露骨な表現を羅列して使うことをしてはならない。たくみな、そして平明な表現をもって読者にそのような印象を与える能力が小説家の技である。こういう小学生向けの直裁な表現をわずか1、2頁のうちに満載するなど問題外である。

創元文庫880円、読書に費やした時間(時給800円で計算しても大変な金額になる)のもとをとる(?)ために批評が厳しくなったことをお許しください。投下したコストに見合った批評の権利を行使したことをご理解ねがいます。

 

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江戸川乱歩氏も一位に推さざるをえなかった「赤毛のレドメイン」

2015-07-16 22:13:24 | 本格ミステリー

ベストテンの一位はフィルポッツの「赤毛のレドメイン」である。当然であろう。他にまともなのがないのだから一位にせざるを得ない。

フィルポッツは一般小説家あるいは大衆小説家として既に一家をなしていて60歳にして「赤毛」を書いたという。他の作品に比べて「小説」になっているのは当然である。

怪しげな記憶だが、アガサ・クリスティーがデビューの前に原稿を見せに行ったのがフィルポッツじゃなかったかな。

「赤毛」は小説としてまとまっていて、どちらかというとディケンズ風小説を思わせる所がある。また冒険小説的である。ギミックは総じて定番である。だが小説として破綻がない。

ただ結末の種明かしはよくない、テンポが。これはこの種の小説の宿命だろうか。だから最後の30頁ほどは読むのを止めた。すみません。それでも書評を書くのになんの差し障りもない。

恋に目のくらんだ敏腕刑事が調べあぐねていると、警察を引退した私立探偵が登場して解明する。小説の前半200頁以上はこの刑事が二つの「殺人事件」に振り回されるという話で比較的平凡な話を200頁以上にわたって退屈させずに読ませるのは小説家の腕の確かさの証明でもある。

最後はシェークスピア風の一人二役トリック、正確に言うと二人四役であり、そこが目玉だ。これってネタバレじゃなかっぺ。

更にいえば、記述トリックものである。もっとも素性の描写がない二人がホシである。読者はだからヒントの欠落と言うヒントに気が付かなければならない。

 

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褒めてけなして、創元文庫さん、ごめんなさい

2015-07-11 08:56:54 | 本格ミステリー

 前回予告通り創元文庫「帽子蒐集狂事件」を読んだ。結論から言うと駄作である。江戸川乱歩「黄金時代のベストテン7位」、戸川安宣氏ご推薦(激賞かな。最近のコピーでいうと) 

小説なんだから、エンタメといえども文章が一応水準でないといけない。この要件を満たしていない。これが翻訳のせいか、原著の責任かは不明である。

間違いなく翻訳は原文に忠実に訳しているかどうかに関わらずペケである。これは近頃流行る新訳らしい。50年以上前に別の訳者で出ていたらしい。その訳がどうだったかは論評できない。今回の新訳は2011年のものである。

1頁からpage turnerとしての魅力なし。結末の語り(告白)に盛り上げる所まったくなし。比喩には笑えるものおおし(悪い意味で)。つまり、これは何なの、という処おおし。

巻末に戸川安宣氏の解説あり。これが並の書評屋かと思いしが、創元社の社長まで勤め上げた人という。旧訳に比べて認識を一変したというが、何のことだが。どうかわったか、あるいは改善されたか全く説明なし。

 

 

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樽(クロフツ)

2015-07-05 14:34:01 | 本格ミステリー

前に内容は覚えていないが、本格もので樽は面白かった記憶が有ると書いた。最近再読したが平板でちっとも面白くなかった。一応最後まで我慢して読めた所がシュンのものということだろう。 

さて、江戸川乱歩の探偵小説黄金時代のベストテンというリストがある。樽は第九位である。てえと、それより番号が若いのは樽より面白いのだろうと、次回第七位の「帽子蒐集狂事件」(ジョン・ディクスン・カー)を読むことにした。

ちなみに、黄金時代というのは第一次大戦後から1935年までのことらしい。

樽はアリバイ崩し小説なんだが、これはリストを自分で作って読まないといちいちデータは覚えていられない。前は著者がそうだと書けば、素朴にそうなんだろうと信じて読んだから面白かったのだろう。アリバイ崩しが警察と弁護士の傭った私立探偵の平行線(実際には私立探偵が警察の捜査を後追い検証する)というのも趣向だろう。ハードボイル以外では大体私立探偵が警察に協力的で警察の顔を立てるわけだが、樽ではそこが両者の競合になっているところがユニーク(おそらく)なところだろう。

非常に作り物という印象だ。発作的に妻を殺した男が直後に周到な隠蔽工作、アリバイ工作をあっという間に組み立てる。こんなことが心理的に切迫した状況で出来る訳がない。周到に計画した殺人でアリバイ工作も綿密に練っていたという設定に普通はなるものだ。ここが最大の欠点だろう。衝動殺人と周到なアリバイ工作、それも直後に計画を立てて水も漏らさず実行する。非リアリズム小説の極致だろう。

工作そのものの出来映えも良くない(うまくいくとは思えず、偶然の助けがなくては実行不能とみえる)。

いずれも創元文庫で読んだが、創元文庫は古典(探偵小説の)をいつまでも入手可能にしてくれる方針をとっていくらしく、この点は褒められるべきである。くずのシリーズ物ばかりを並べる早川に対して出版社の良心を感じる。上記の「黄金時代ベストテン」も大体創元文庫で手にはいるようである。


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