村上春樹がチャンドラーの翻訳二冊目をだした。「さよなら、愛しい人」というやさしげな題がついている。懐かしの清水俊二の訳題は「さらば、愛しき人よ」だ。前の文語調をさけて平易なものにしたのだろう。
村上のチャンドラー第一訳は「ロング・グッドバイ」としていた。清水俊二はたしか「長いお別れ」だったか。
たしかにFarewell、my Lovelyはロンググッドバイのようにはいかない。あとがきで次はリトルシスターを訳したいと言っている。これはThe Little Sisterだ。清水俊二訳は「かわいい女」だがこの訳題は清水俊二としてさえない部類だろう。リトル・シスターのほうがよい。
村上春樹は後書きでチャンドラーの作品のベストスリーは大いなる眠り、長いお別れに続いてこのFarewell my Lovelyをあげている。私の好みで言うと「高い窓」と今回の「さよなら、」とは同率三位というところだ。
つぎはリトルシスターにするのは創元社にしか入っていないからなのだろうか。あまり印象に残っていない作品だが、村上の評を見て、読み返してみよう。
訳題といえばチャンドラーでなくて恐縮だがミッキー・スピレーンの「Big Kill」を大いなる殺人と訳しているのはどうかな。この本は絶版になっているのか、もともと雑誌に訳が掲載されただけなのかしらないが、今は入手できない(日本語では)。ハードボイルドの解説書などには「大いなる殺人」となっている。
これがどうも気になってね。「大穴」とすべきではなかろうか。金庫破りの前科を持つ小心な更生者を仲間に引きずり込むために、競馬の八百長レースで大儲けさせた後でスッテンテンにしてにっちもさっちもいかなくするという筋書きなので、スラングだがビッグキルは大穴とすべきだろう。
いくつかの殺人が出てくるが虐げられた小物ばかりで、ハマーが義憤にかられるという趣向である。とても「大いなる殺人」とはいえない。