穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

三人の妻

2023-12-31 11:30:00 | 小説みたいなもの

富士川は入口の鍵を開けると中に入った。西向きに大きなガラス窓がある部屋は暖房が必要ないくらい温まっていた。北風が吹き荒れる外から自室に入った彼はほっと一息ついた。暖房は要らないくらい部屋は温まっていたが一応彼は居間の暖房をつけて温度目盛りを少し下げた。

長年西日をまともに受けてガラス窓の枠は変形していて開閉が手間取る。彼は力を入れて窓を二十センチほど換気のために開けると、出かけるときの散らかしたままの部屋の中を見回した。二、三日たまった新聞を椅子の周りから脚ではねのけると空いたスペースに椅子を移動させた。

「さてと」と彼はうんざりした様子で開いたままの白紙のページのノートブックをパソコンのわきに作ったスペースに広げた。思い付きで記憶をまとめようとしたが、もう一月ほどもほったらかしにしてある。体も発作からどうやらもとに戻ったし、再び再開しようと万年筆を握った。

大体が彼の家族は大人数である。それに父は何度も結婚してそれぞれ子供がいる。一度その関係を整理しなければいけないと彼は思い立った。父の一番目の妻は田舎の両親が斡旋した平凡な田舎娘であり、兄二人の母親である。この母は子供が幼いうちに亡くなっている。

二番目は父が東京に出てきてから結婚した下町の商人の娘であるかから、小遣いを投げ与えて兄たちを手なずけたようである。

三番目の妻は彼の母でもあるが、田舎の名家で武士の流れを汲む家の娘であった。子供の教育は武士の家の伝統で厳しかった。この母は上の息子たちとうまくいかなかった。二番目の妻は子供を産まなかったが、その姉妹はどういう目的があったのか、二番目の妻の死後も父の家に出入りして兄たちにお小遣いを与えて手なずけた。そしてこどもたちを手なずけて新しい母に反抗させた。新しい母への反抗は父への反抗でもあった。どうして当家に嫁いだ妻が死んだ後も家に出入りして血のつながらない兄たちに小遣いなどを与えたのか異様であった。したがって、兄たちには母というのは、子をなさないで病没した二番目の妻、下町の商家の娘のことであった。

最初の本当の母親のことは兄たちから一度も聞いたことがない。

 

 

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貫井徳郎「慟哭」

2023-12-31 09:57:28 | 犯罪小説

創元推理文庫で表題の本を読んだ。1999年初版2023年71版でまあ、書評で取り上げる基準を満たしている。百年くらい前になるか、たしか英国のみすてりー評論家が探偵小説の二十規則というのを発表していて、犯人は最初から登場していなくてはいけないというのがある。それも名前があり、他の登場人物との関係がはっきりしている必要があるというものだった、記憶が正しければ。

貫井の小説では、無記名、職業不詳、他の登場人物と関係不明の人物が出てくる。こいつが犯人とはすぐ推測できる、作者が犯人に仕立て上げたい意図があるとはすぐわかる。が他の登場人物との関係は不明、不明じゃないけど明かしていない、という点では二十則を満たしていない。読者はこの名無しの権平が犯人とは最後の10ページで分かるが、小説的盛り上がりは皆無である。

400ページを超える長編であるが、終末の種明かしが10ページ強しかない。構成に問題がある。盛り上がりが全く欠ける。ストレートに呑み込めない。それまでの筋も反復が多く、冗長であった。

 

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老人の発作

2023-12-28 08:25:14 | 小説みたいなもの

色々と雑用が続いて十日ほど図書館に寄らなかった。久しぶりに富士川老人を図書館の閲覧室で見かけた。デスクに上半身を寄りかかって呆然とした様子である。老人を見るのはひと月ぶりであろうか。彼の顔色は黒ずんで少し痩せたように感じられた。

対面して座ると「しばらくお見掛けしませんでしたね」と声をかけた。彼ははっとしたように我に返って、デスクから顔を上げた。「やあ、久しぶりですね」と呟いた。

「ほんとに、しばらくお見掛けしませんでしたが、お元気でしたか」

「いや、それがね、急に発作に襲われて一週間ほど動けませんでした」

私は驚いて「一体どこが悪かったんですか」と問い返した。

彼はいたずらっぽくしばらく私の顔を見返していたが、「分からないんですよ」と言った。私はあっけにとられて彼の顔を見つめ返した。

医者はどういっているんですか、と尋ねると彼はいたずらっぽく「医者にはいかないんですよ」と答えた。「じっとしているうちに元に戻ったのでね」

「へえ!」

「しかい顔色は少し悪いようですよ。すこし痩せたようですね。病院で検査してもらえば原因も分かるでしょう」と私は勧めたが、老人は黙って笑っている。世の中には主義として医者を毛嫌いする人間がいるが、彼はその一人らしい。

 

 

 

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カフカ「変身」の一解釈

2023-12-23 06:58:45 | 小説みたいなもの

この小説も他のカフカの小説と同じで序がない。

ある朝目が覚めたら自分がゴキブリに変身していたという話である。序が無くても納得して、しかも感心感激して読む読者は幸せである。以下は一解釈である。序を補うには大抵の場合、御終いを読むと分かる。

最後はゴキブリが死んでその厄介な世話をしなくてもよくなった一家は遊園地に行って楽しんだとなっている。

つまりゴキブリにしたのは父親の懲罰の結果である。ゴキブリだ死んで清々としたというわけである。執筆時父親はまだ生きていたので、そうあからさまに書くわけにはいかなかったのが、序のない理由であろう。

このパターンはカフカが得意だったようで長編「判決」でも摘発の理由は明かさないで最後に「犬のように」道端で殺されるパターンと同じだ。ただしこの場合主役は父親でなく、社会的な「組織」と読める。それを勝手に来たりくるナチスを予言したというのは見当はずれであるとは前に書いた。強いて言えば社会とはそういう不条理なものだ、ということかもしれない。

 

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萩原浩「噂」

2023-12-19 13:55:25 | 書評

萩原氏の作品は直木賞を取った「海の見える理髪店」の書評をした記憶がある。たしか褒めておいた記憶がある。

今度「噂」というのを買った。出だし快調だったが、おしいかな、終盤だれてきた、300ぺーじあたりから。もっとも500ページ弱というのは長すぎる。

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どこから始めるか

2023-12-17 12:51:57 | 小説みたいなもの

老人は真っ新なノートを広げて1時間余りも思案していた。短い冬の日は傾いて外は薄暗くなり始めた。夕方から吹き始めた冷たく強い風は最後まで枝にしがみついていた病葉を吹き散らしていた。

どこから始めたらすっきりと纏まるか、結論がでない。やはり13歳のわたくし版ベランダ事件から始めるのが筋かも入れない。しかし、その不可思議な事件の発生には伏線があるはずだが、それが分からない。何十回とトライしたがうまく説明がつかないのだ。

思い切って少しさかのぼって記憶を探るのがいいのかもしれない。そうだ、兄が地方勤務からかえってきたのがその前年あたりだった。兄は建設会社に勤めていた。九州の支店をぐるぐる回っていたが、そのころ東京に帰ってきたのだった。もちろん結婚して別に家庭を持っていたのだが、ちょくちょくと家に顔を出していた。

この兄が訪れるとなにか空気が変わる。いつかその前か後かはっきり覚えていないが、ひょっこり帰ってきたことがある。そんなことを思い出した。なぜかというとその直後に近所の人の自分を見る目が違ってきたのを感じたのだ。どういう風にというのは説明するのが難しい。

なにか自分のことを悪く言っているのではないか、という感じがした。もちろんはっきりと説明はされない。しかし、雰囲気が変わったというのは感じられるほどの変化があった。もちろん、一瞬のことであって、すぐに忘れてしまったが、何かに連れて思い出されるのである。

この兄はよく「この家は乱れている」と唐突にいうことがあった。どういうことなのかは説明しない。いわれて、一瞬相手に説明を求めようとしても、はぐらかす様にほかの話題にすり替える。

父は妻運がなくて三度結婚をしている。兄は最初の妻の子であり、私は最後の妻の子である。この兄は父のことを何時も口汚くののしっていたので、「この家は乱れている」と説明も何もなしにいうときに、この三人の妻との結婚と関係があるのだろうと推測するしかなかった。

この兄は特に私に対する反発警戒が強かった。というのも二番目の妻との間には子供がなく、私のほかに三番目の妻には男の子は無く、妹しかなかった。そのために私に対しては猛烈に競争意識が強かった。

母の実家の祖父が誕生祝に送って来た兜を母が床の間に飾ったのに猛反対したという。私が家を継ぐと邪推したのだろう。母の死後遺品を整理していて押入れの上の袋戸棚がらその兜がでてきたのである、飾られないで長い間しまわれていたのである。私の妹に対しては女だからと安心していたのか、そんなに激しく反発はしなかったようであるが父親、母親や私に対しては悪口をまき散らしていたようだ。

 

 

 

 

 

 

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序のないカフカ

2023-12-17 07:57:11 | 小説みたいなもの

能の作者の誰かだったと思うが、序破急ということを言った。小説の場合にもほとんどの場合当てはまる。しかしカフカの大部分の作品では序がない。破急とくる。小説の場合、最後に序が来るものがあるが、そういう倒叙法もない。だから世の中は理由もなしに不合理なことが起こると解釈するのがおおよそらしいが、これは間違っている。序を読者が考えなければいけない。この辺を解説した評論家は皆無ではないのか。

たとえば、長編小説「審判」は理由も分からずに主人公が審判にかけられる。なんども裁判が開かれるが最後まで、なんで裁判にかけられたか書かれていない。想像力だけは発達している評論家たちは、これはナチなどの来るべき独裁政権を予想したものであるという。糞飯ものである。カフカは善良な公務員であり、反政府的な意図や行動は見られない。

余談であるが、カフカには「判決」という紛らわしい名前のごく短い短編があるが、これには父の非難の根拠が示されている。そうして息子に入水自殺の判決を下す。おそらく序破急の伝統的構成を取ったカフカの唯一の作品ではないか。

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父への手紙余話

2023-12-17 07:44:48 | 小説みたいなもの

父への手紙は新潮社カフカ全集(1980年刊行)にあるらしいが、今では古書か大きな図書館にしかないらしい。それでWikipediaをあさっていたら見つけたので早速ダウンロードした。しばらく読んでいて不振に思った。まず英語が全然なっていない。内容は粗悪品と言っていい。

それで注意してみたら個人のブログらしい。訳者名は西欧人らしいが、英語を母国語としている人間とは思えない。そして、最後にもっと読みたかったら金を払ってログインしろときた。勘弁してくれよ、とプリントしたものを破いて捨てた。

 

 

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私の帽子はどこに行ったのでしょうか

2023-12-16 06:26:41 | 小説みたいなもの

私の帽子はどこに行ったのでしょうか、とかいう映画(小説)のコピーがあったげな。

たしか森村誠一という作家の作品が映画化された時のキャッチコピーであった。珍しく私の記憶に残っている。

ニーチェはあるところで「どこに行っても自我という犬がついてくる」と苦情を申し立てている。

そうかと思うと、私みたいに自我を喪失して一生探し続けているものもいる。

森村の言う「私の帽子」が何を意味するかしらない。小説も映画もみていないから。キャッチコピーだけ覚えている。

思い出せが、私の自我が飛んで行って行方不明になったのも13歳の夏であった。夏の日のベランダで。そういえばフランツ・カフカにも有名な「ぱぶらっちゅ」体験というのがある。パヴラッチュというのは東欧(或いは東欧ユダヤ)言葉でテラスとかベランダということらしい。

彼は5歳であったというから、私の体験とは違うが、夜泣きをして、父親に厳冬のテラスに締め出されたという事件があったという。カフカの父への手紙にあるそうだが、私は読んでいない。新潮社のカフカ全集にあるそうだが、ここの図書館の蔵書にはないので内容は読んでいない。

比較しても意味がないだろうが、少ない情報だけで判断すると私のほうがその影響は甚大であった。

 

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図書館

2023-12-15 07:48:21 | 小説みたいなもの

相手が去ると、老人は再びノートを広げて真っ新な紙面を睨んでいたがやがて筆を下した。

やはり13歳の夏から始めるのがいいかなと思いを定めた。12,13歳というのは発達心理学でも転換点の定番らしい。彼は最近自伝を書くために買った心理学の参考書をカバンから取り出した。そのころ男女ともに身体的に性的特徴が発達しだして精神が不安定になるらしい。女性なら初潮だろうが、私の場合は顔中にひげが猛烈な勢いで生えてきた。もちろん体毛も濃くなったのである。この分で行くと目の中にも髭が生えてくるんじゃないかと心配した。

中学一年生でもう安全剃刀を日に二回以上使わないと始末に負えない。安全剃刀というのは慣れないと剃刀負けをする。ある朝親父が食卓で俺の髭剃りで荒れた顔を見て電気カミソリを使えといった。なんでも父親の知っている家庭の息子が肌が荒れて、電気カミソリを使ったら治ったという話をした。さっそく電気カミソリを求めて使いだしたら唇の周りの肌荒れはすぐに治った。

知的にも爆発的な発達があった。小学生のころはなんということもなく、平凡なおとなしい性格であったが、中学に入ると学期末試験で全科目満点で全校で一位になった。また暑中休暇中よく実施されていた学校横断の模擬試験でも、いつでも一位となった。

身体的には上記した髭ずらに悩まされたほかに近眼が進行して、3,4か月ごとに母親に連れられて眼科医に通って眼鏡を新しくした。

そして13歳の夏、忘れもしない「ベランダ事件」に遭遇した。後年東欧の作家カフカの伝記を読んでいて彼の幼児に彼の研究者の間で「ぱヴらっちゅ」事件として知られるのに酷似した体験をする。それ以来、さる映画のキャッチコピーではないが、「僕の帽子はどこえへ行ったの」状態になった。

 

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図書館3

2023-12-13 08:21:27 | 小説みたいなもの

asuka-netsukeさん、応援ありがとうございます。

水曜日の午後である。今日も老人の姿があった。

万引き女の記事はまだ見つからない。老人はまっさらのノートをテーブルの上に広げた。

『そろそろ、纏めてもいいころだな』とつぶやくと万年筆を取り出してキャップを外した。

『彼女は子供のころから手癖が悪かったが、とうとう本性を現したのかも知れない』

彼はこの疫病神のような女の半生記録をまとめることにした。::ガキの頃から手癖が悪く::というのは歌舞伎のセリフだが、彼女は人のものと自分のものとの区別がつかなかった。だが盗む相手を選ぶ狡猾な知恵はもっていた。つまり強く苦情を言えない相手を選別して盗んだ。

彼女は小学生のころから背が高かった。父親は背の高い女に目がない。彼は三度妻を変えたが、兄のいうところによると皆背が高かったそうである。此の嗜好がどこから来るのかよく分からない。彼自身は身長150センチの小男であった。まさか優生学的見地でもなかろうが。いずれにせよ、彼女は父の寵愛を一身に受けていた。

「まだ見つかりませんか」といきなり声をかけられた。見上げると、『紛失した記事』について相談した相手である。彼は慌てて書きかけのノートを閉じると、「いやまだ分かりません」と答えた。

相手は彼を見ながら、「ちょっと気が付いたことがあってね。その女の夫が務めている会社の名前はわかりますか」と聞いてきた。

老人の怪訝な様子を見て慌てて補強した。「いや会社によっては社員の不祥事によって社名に傷つくのを恐れてもみ消し要員として警察、司法出身者を役員に入れていることがあるんですよ。大手商社なら多分もみ消し用の社外重役かなんかがいるんじゃないかと思ってね」

「ああ、なるほど、、、商社名は日外米州商事ですよ」

「それじゃ、早速調べてみましょう」というと大きなショルダーバッグから携帯用のパソコンを取り出した。そして会社案内のページを検索していたが、「これですよ」と画面を老人のほうに向けた。「ここですよ、警察庁からの社外重役がいます」

「ほんどだ」

幼いころから顕著だった盗癖を父に報告しても逆に怒鳴り返されて取り上げられない。それが彼女に分かっているから盗む相手を狡猾に選ぶわけである。

 

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図書館2

2023-12-11 07:19:10 | 小説みたいなもの

いったん紙面の乗った新聞記事が突然消えるなんてことがあるのでしょうか?と老人が突然問いかけた。

私はびっくりしてどういうことですか、と問い返した。

「いえね、数日前に読んだ記事を読み返そうとしたのですが、見つからないのです」

「記事が誤報だったのかしれませんね」

「それなら、お詫びの記事が出るんじゃないですか」

「そうでしょうね。どういう記事だったんですか」

「さる女性が万引きして捕まったというんですよ」

「そんなケースは毎日多数起こっているんじゃないですか」

「それがね、その女性が名前の知れた大手総合商社の部長の妻だったというんですよ。普通は万引きしないような女性の万引きというので記事になったのでしょう」

「どこの新聞ですか」

「読売新聞です」

「一紙だけですか」

「いや、どうか分からない。私が見たのは読売だけです。気になってさきほどほかの新聞を見たのですが、どこにも出ていない」

私は言った。「間違いだったのかな。当人か、関係者から間違いを指摘されたのかな」

私は老人の釈然としない表情を見て、「その女性はあなたの知っている人ですか?」と反問した。

「ええ、記事によると姓名がフルネームで出ているし、住所が江古田のマンションというのもあっているし、夫の職業も当たっている。それでその時読み飛ばした記事をもう一度見て確認しようとしたら記事が消えていた。念のためにほかの新聞を全部見たが、そんな記事は見当たらないのですよ」

「妙な話ですね」と私は言った。「実話週刊誌とかテレビのワイドニュースで取り上げそうなはなしではある」

老人ははたと膝を打つと「そうすると、週刊誌も調べてみるか」

「週刊誌でフォローするのはタイムラグがあるから、来週あたりどこかに出るかもしれませんね」

 

 

 

 

 

 

 

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図書館の老人1

2023-12-08 17:45:08 | 小説みたいなもの

図書館1
わたしは毎日の日課でJRのターミナル駅にあるデパートの食堂の一つで早昼を済ますと新宿区の図書館に行った。新聞閲覧所に行くと残っているのは東京新聞だけだった。後は誰かが見ているらしい。東京新聞を閲覧所のテーブルの上に広げてページをめくっていると「おはようございます」と声を背後から声ををかけられた。
振り向くとがっしりとした背の高い老人が綴じた新聞のファイルをたくさん手に抱えて入ってきた。なにか調べ物をしていたらしい。「すみません。独占しちゃって、ご覧になりますか」と言いながら「何をごらんになりますか。それとも全部お渡ししましょうか」
と聞いた。

「いいんですか。もうすんだんですか?」

「ええ、終わりました」と答えたので、「そうですね、今日はだれもまだいないようだから、全部おいていってください。」と私は老人にいった。
老人は向かいのソファに腰を落として、目が疲れたのか、しきりに閉じたまぶたの上から目を擦っている。
それを見ながら、なにか調べているのですか、と私が尋ねると
「ええ、ちょっとね」と言いよどんだ。
この老人は毎日相当時間、図書館で時間を過ごすらしく私か退職してから無聊に苦しみ図書館通いが日課のようになってから、いつからか挨拶を交わすようになっていたのである。

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二本立て主人公のキャラ建て

2023-12-04 19:11:53 | 書評

東野圭吾の作品はこのブログの範疇とはちょっと離れているが、この人の作品はかって二作取り上げた。容疑者Xの?、白夜?である。容疑者Xの場合は可能性があると評価した。白夜はあまり評価しなかった。

こんども気の迷いから東野の「分身」を読み始めた。あまり説明する理由はないのだが、、

表紙のデザインや帯になにかひきつけられるものがあるのだろう。これは出版社製作者に対する評価である。

最後まで読んでいないが、帯などによるとクローン問題を扱っているらしい。構成は二人の若い女性、これがクローンらしいのだが、章ごとに変わりばんこに主役となっている。クローンだからある面では区別できないほど似ているという弁解も成り立つのだろうが環境は、違うのだし、ある程度キャラ建ての区別は必要だろう。そのほうが最後の落ちで説得力が出てくるのではないか。

この作品では平板な書きぶりで、読んでいるとどちらがどちらか区別できない。最後まで読むかどうか迷っているところだ。

 

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