彼は今年の年賀状を探して只見大輔の年賀状を手に取った。大学時代の友人で卒業以来会ったことはないのだが、まめに毎年必ず年賀状をくれる相手だ。最初は年賀状を受け取ったあとで年が明けてからお礼の賀状を送っていたのだが、毎年必ず送ってくるので最近は暮れのうちに出す年賀状と一緒に賀状を交換している。
彼の賀状には自宅の住所のほかに勤め先の名前と電話番号が印刷されている。彼の記憶では卒業後何回か勤め先が変わっていた。今年の年賀状には勤務先として東陽経済研究所が印刷してある。賀状の中の近況報告では経済関係のデータバンクでコンサルティングもしている会社らしい。
どんな調査会社か詳しいことは分からないのだが、ひょっとしたら不動産取引のデータも扱っているのではないかと思ったので電話をしてみた。
只見は電話を受けてびっくりしたような声をだした。卒業以来会ったことは勿論、電話で話したことも今日が初めてなのでびっくりしたのだろう。驚いたような声で「珍しいな、どうしている?元気かい」と尋ね返してきた。
「うん、それがね、しばらく病気でぶらぶらしているんだ」というと心配そうに「どうしたんだい。大病なのか」
「いや、暑気あたりのひどい奴らしい。二、三日ひっくり返っていた」
「病名はなんだい」
「いや、医者には行っていない」
「どういうことだ」
「なんとなく治ってしまったんだ。その代わり心境の変化をきたしてね。会社をやめてぶらぶらしている」
へえ、と彼は驚いたように絶句した。
「実はね、ちょっと聞きたいことがあってね。今年の年賀状で経済関係の興信所みたいな仕事をしていると書いていただろう。それで聞いてみたいことがあってね」
「ふーん」と言って彼は沈黙した。意外におもったのだろう。しばらく沈黙した。
不動産関係のデータでね、と彼は切り出した。「都内でいいのだが、木造の古い一軒家で周りをマンションに囲まれているようなところを探している」
そんなところに住もうというのか、と怪訝そうに聞いた。
「いや、そうじゃないんだけど、ちょっと事情があってね」
「フーン」と彼は腑に落ちないような声をだした。
「なぜだい」
「それは言えない」
「おいおい、それでは雲をつかむような話じゃないか」と只見は呆れた様な声をだした。