穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

シー・ウルフから蟹工船にとぶ

2015-02-18 21:44:49 | ジャック・ロンドン

 芥川賞を取り上げたので間が空きましたが、前々回触れたジャック・ロンドンの「シー・ウルフ」の続きです。これは一種の監獄物だな、とまず感じたのであります。

小説の出だしはこうです。サンフランシスコ湾を渡るフェリーが霧で視界が悪く他の船と衝突して沈没します。その乗客が紳士(つまり生活のために仕事をする必要がない人)で文芸評論等を一流雑誌(アトランティック)に発表しているディレッタントです。

彼が他船に救助されます。この船が日本近海にアザラシ(の毛皮)を取りに行く船で救助された文芸評論家35歳は、ちょうど良い所に来たというので、陸地に送り返されるかわりにコックの下働きにされてしまいます。

彼ハンフリー・ヴァン・ウエイデン(オランダ系らしいからワイデンと発音するのかな)は千ドルやるからサンフランシスコに戻してくれというが相手にされない。救助された場所がサンフランスコのすぐ近くなのにです。サンフランシスコに戻る船ともすれ違うような場所です。絶望的になった彼は海上で相手の船に救助を求めますが相手にされません。

こういうことが19世紀の末(多分)に通用するなら絶妙な舞台が設定された訳です。船の中は一種の強制収容所と変わらない訳です。

私はこの小説は何々ものだなと思うと、それに関連して似たような小説を思い出して比較したりします。小林多喜二の「蟹工船」を思い出した訳であります。監獄物と言えばドストエフスキーの死の家の記録とかソルジェーニーツィンの「イワン・デニソビッチ」などを思い出しましたが、どうもタイプが違うようです。

そこでかすかに記憶に浮かんで来たのが「蟹工船」であります。これは読んだような読まないような曖昧なのであります。読んだとすれば高校時代ですが、内容はまったく記憶にありません。それでわざわざ岩波文庫で買いました。読者の皆さんはご苦労さんと呆れるでしょうが、わたしの読書(書評)はつれ読みであちこちにいつも跳ぶのであります。私に取って読書とは暇つぶしですから、かえってあちこちふらふら跳んだ方が時間をつぶせるという訳です。

そこで蟹工船を読んだ印象を書こうと思ったが前置きだけで長くなってしまった。次回にまわします。


ジャック・ロンドン「The Sea-Wolf」

2015-02-10 10:38:17 | ジャック・ロンドン

これは見っけものですね。全部で38章、まだ第三章の途中ですが。ロンドンの小説を読むのは三冊目です。白い牙、荒野(野生)の叫び声は文庫本がありますが、シーウルフが無いのはどうしたわけでしょうか。

随分昔に海狼という題で翻訳されたことはあるようですが、今では絶版のようです。アメリカで十回以上映画化されている人気の作品なのに日本で翻訳が出ないのはどういう訳でしょう。

あと「ロンドン」物ではロンドン(地名)の最貧街のルポが岩波にあるようですが、これは読んでいない、読む気もしないがシーウルフのほうが先じゃないかな。

20世紀の始まり頃の物語りのようで日本近海にあざらし猟にいく船の話で、まだそこまで読んでいないが、作者のロンドンは日露戦争を取材しようとして日本軍に勾留されたことがあり、日本蔑視や人種差別的な発言があるのかもしれない(これから読む所に)。それで翻訳は敬遠されているのかな。