新潮文庫でスタインベックの怒りの葡萄を読んだ。初読。まだ読んでない本があるなあ、というのが最初の感想。もっとも私はたいして本を読んでいないのではあるが。
手法についても極めて興味があったが、今回は内容と言うかテーマについての感想。
すでに読者の皆さま御案内のところであろうが、干ばつと大資本の機械化農業導入によって土地を離れざるを得なくなったオクラホマの小作農が何時故障するか分からないトラックに家財道具を積んでカリフォルニアに季節労働者の職を求めて移住する物語。
アメリカの小説はたいして読んでいないが、こういうテーマはまったく他で見たことがない。ドキュメンタリー小説と言う評価もあるようだが、たとえそうでなくてもアメリカの一典型を描いていることは間違いない。
プアホワイトというと南部のことを思い出すが、これもプアホワイトの物語である。オクラホマと言うのは調べてみたら南西部とあるが、地図で見ると中南部と言う位置だ。面積は日本の約半分あり、人口はわずか三五〇万人。インディアンの居住地が非常に多いそうだ。日本で言うと蝦夷地みたいな感じかな。
私も出張でアメリカにはよく行ったがオクラホマには行ったことがない。日本人の観光客もあまり行かないのではないか。ビジネスマンも行く人がないようだ。メーカーなどの行商人を除いては。
プアホワイト一家の敵としては、大地主、金融資本。彼らは機械化農業、大規模農業で利潤を追求し、小作農、小規模農家を追い出す。これで思い浮かぶのは古くはイギリスの「囲い込み」。
そして今話題のTPPを推し進めるアメリカの圧力を思い出す。
もう一つのオクラホマのプアホワイト(オーキー)の敵対勢力はカリフォルニアにわずかの差で先着、土地をインディアンやスペイン、メキシコから奪ったならず者の子孫であるカリフォルニア農家。自警団を使ってオーキーを駆逐し、彼らの弱みに付け込んで搾取する。
調べたらスタインベックはマッカーシーの赤狩りには引っかかっていないようだが、対象になってもおかしくなかった。
とにかっく、こういう実態、テーマをこういう角度で扱った小説は初めて見た。これがアメリカの一つの典型であることは間違いない。