穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

怒りの葡萄

2011-12-31 10:23:40 | 書評

新潮文庫でスタインベックの怒りの葡萄を読んだ。初読。まだ読んでない本があるなあ、というのが最初の感想。もっとも私はたいして本を読んでいないのではあるが。

手法についても極めて興味があったが、今回は内容と言うかテーマについての感想。

すでに読者の皆さま御案内のところであろうが、干ばつと大資本の機械化農業導入によって土地を離れざるを得なくなったオクラホマの小作農が何時故障するか分からないトラックに家財道具を積んでカリフォルニアに季節労働者の職を求めて移住する物語。

アメリカの小説はたいして読んでいないが、こういうテーマはまったく他で見たことがない。ドキュメンタリー小説と言う評価もあるようだが、たとえそうでなくてもアメリカの一典型を描いていることは間違いない。

プアホワイトというと南部のことを思い出すが、これもプアホワイトの物語である。オクラホマと言うのは調べてみたら南西部とあるが、地図で見ると中南部と言う位置だ。面積は日本の約半分あり、人口はわずか三五〇万人。インディアンの居住地が非常に多いそうだ。日本で言うと蝦夷地みたいな感じかな。

私も出張でアメリカにはよく行ったがオクラホマには行ったことがない。日本人の観光客もあまり行かないのではないか。ビジネスマンも行く人がないようだ。メーカーなどの行商人を除いては。

プアホワイト一家の敵としては、大地主、金融資本。彼らは機械化農業、大規模農業で利潤を追求し、小作農、小規模農家を追い出す。これで思い浮かぶのは古くはイギリスの「囲い込み」。

そして今話題のTPPを推し進めるアメリカの圧力を思い出す。

もう一つのオクラホマのプアホワイト(オーキー)の敵対勢力はカリフォルニアにわずかの差で先着、土地をインディアンやスペイン、メキシコから奪ったならず者の子孫であるカリフォルニア農家。自警団を使ってオーキーを駆逐し、彼らの弱みに付け込んで搾取する。

調べたらスタインベックはマッカーシーの赤狩りには引っかかっていないようだが、対象になってもおかしくなかった。

とにかっく、こういう実態、テーマをこういう角度で扱った小説は初めて見た。これがアメリカの一つの典型であることは間違いない。


出ましたよ、悪霊3

2011-12-09 09:00:52 | ドストエフスキー書評

出ましたね。昨日書店で見て買いました。まだ読んでいませんが。光文社古典新訳文庫、亀山郁夫訳。

三では何と言ってもステパンじいさんの家出でしょう。悪霊のキャラクターで唯一肉化されているステパン一代記が読みどころです。それが三に出ているんですね。新潮文庫の誰の訳だったか、これもよかったが。もっともオイラはロシア語が分からないから翻訳として云々という議論は出来んのだが。

「旅に病んで夢は荒野をかけめぐる」わけですな。オイラはミーハーですからここのところが泣けた。

スタブロ銀次なんて、ドストによくある形而上学的操作子でペケです。この辺がオイラの見解に賛成者が一人もいない理由でしょうな。あの「告白」なんてどこがいいんでしょうな。

大体私はいわゆる三大長編カラマン棒の兄弟、白痴、悪霊をそれほど評価しない。ドストの作品中の相対比較ですよ。罪と罰はまあよし。未成年もどうもね。あの絡みつくようなむんむんしたものが枯れていっている。年齢だと思いますが。

大体ドストには最初の二作の連なる系譜がある。貧しい人々の系列では「虐げられた人々」が頂点でしょう。

第二作ダブルに連なる系譜は割と粒がそろっている。地下室の手記や罪と罰など。悪霊とカラマン棒の兄弟の一部キャラに、たとえば長兄ドミトリー?や悪霊の一部(一部キャラではない)に余韻が聞こえます。