ラディゲの「ドルジェル伯の舞踏会」を新潮文庫で読んだ。「肉体の悪魔」とテーマは似ている。不倫ものだ。「肉体の悪魔」は出征兵士の若い妻と16歳のガキとの肉体関係だが、「ドルジェル」では肉体的関係はない。「大貴族」の婦人と「小貴族」の青年のプラトニックラブということかな。
「肉体の悪魔」は無産インテリというかプチブルというか市井の小市民家庭同士の話だが、「ドルジェル」は「貴族」階級の話である。年代は最後までよくわからない。馬車と自動車が共存していた時代であることは描写からわかる。また、電話もあるようだが、そう普及していなかったらしく、パリの「貴族」間では召使いに手紙を持たせて相手に届けるというスタイルも多い。
最後の方でロシア革命で殺されたと噂されたナルモフ公爵というトリックスターが出て来ておよそ、1920年前後のことらしいと見当がつく。
1920年代、フランスはもちろん共和制である。しかるに厳然たる階級社会であるらしい。「貴族」、「ブルジョワ」、「無産階級インテリ」とこんなところが登場人物の背景である。ちなみに著者のラディゲは無産インテリの出ということらしい。父親が漫画家だったという。
この階級制度の実態がわからないと本当の味わいはわからないような気がする。しかるに、この問題を納得がいく様に解説したものは日本語文献は管見によれば皆無である。
一番わかりにくいのは勿論「貴族」と訳されるグループである。日本とは歴史的背景が違うからわかりにくいが、日本だと貴族と言うと華族、公家を考える。しかし、フランスや欧州各国ではもっと範囲が広く、日本の昔の旧士族あたりまで含まれているような印象である。さすがに郷士までは広げられないようだ。
ドルジェル伯爵夫人は伯爵夫人の称号があるが、相手のフランソワはなにもない。名前にdeが入っているだけである。こちらの方はさしずめ日本で言う旧士族クラスかな。
さて、200ページほどのうち、80ページまではイントロだが、記述流麗ならず、わかりにくく、無味乾燥である。本論?に入ると調子が出てくるが、意図的か気取っているのか省略調が多く注意して再読、三読して味が出てくるのかも知れない。ムンムン度は低い
訳者が後書きでいくつか作中の殺し文句を紹介しているが、流して読んでいておそらく気が付かないだろう。それだけ、上品だとも、技巧を凝らしたという言い方も有るのかも知れない。
ちなみに、著者は校正中にチフスで死んだという。