穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

「廃墟に乞う」佐々木譲 65点プラス・アルファ

2015-11-24 08:15:17 | 直木賞と本屋大賞

彼の作品を読んだのは初めてである。大分前にNHKだったか、「エトロフ発緊急電」というのを見て面白いと思った。なにか日本の小説と異質な物があるような印象を持った。もっとも今に至るまで原作の小説は読んでいないが。 

「廃墟に乞う」は短編集である。休職中の刑事が舞い込んで来た依頼を引き受けるという話である。ほとんどが、そして間接的な物を含めればすべて警察の紹介というかお下がりの物件である。チャンドラーのマーロウとバイオレット・マギーのような関係とも云える。

直木賞も懐が深いね(広いね、というべきか)。辻村さんのような純文学気取りの作品から、池井戸潤氏の企業小説、佐々木氏の警察小説(というらしい)そして葉室さんの「蜩の記」のような時代小説まで。

廃墟に乞う、文章は70点に近い。出来にむらあり、短編集だから当然だが。

短編「兄の思い」だったか、思い返すとおやと思うところ、マキリに関したところだったか、そう言う所も散見するが、するりと読ませてしまうのも腕だろう。

このブログで何遍も書いているがミステリーでは謎解きが平板にならない作品は皆無といっていい。しかも、謎解きはラストに来るから余計目立つ。これを避ける方法の一つは「ほのめかし」「暗示」で流すことである。佐々木氏のほとんどの作品(廃墟に乞うのなかの)は謎解きに紙数をかけない。賢明な策といえる。

ようするに全体として文章の力で読ませる腕がある。

 


「鍵のない夢を見る」辻村深月

2015-11-22 07:34:06 | 直木賞と本屋大賞

147回直木賞、160頁当たりで挫折。80頁は乗り越えたのでお約束通りまず50点、それに女性優遇枠で5点加えて55点とします。

短編集で、4作目160頁あたりで挫折。興味索然砂を噛むがごとき感あり。三作まではまあ、なんとか。構成に苦心していることは認められる。しかしこういう苦心の跡は読者に悟られてはいけない。隠し味でなければ。一読了解というのは未だし、の感あり。 

第四作は他作に比べて長いので、破綻がでたのかもしれない。表現にも工夫の跡が何カ所かある。間違いではなくて工夫の跡と取りたい。編集者の目も通っているのでね。つまり大学入試センター試験ではバツになるようなものがある。

文章には艶が欠けるようだ。

タイトルの意味がわからない。最後まで読むと分かるのかな。

 

 


池井戸潤「下町ロケット」 負担重量57キロ

2015-11-19 23:35:24 | 直木賞と本屋大賞

下町ロケット、70点と採点します。競馬のハンデで表現すれば負担重量57キログラム(古馬牡馬)というところです。 

この小説は集団騎馬戦みたいなもので、登場人物は企業というか、企業のなかのサラリーマンの集団というか、が主人公だが、うまく雰囲気を表現している。リアルかどうかということよりも、雰囲気をよく捉えている。

企業人の集団の雰囲気を捉えた小説というのは私の乏しい読書経験では非常にすくない。これがうまく表現されていないと、トンチンカンな活劇になってしまう。

著者は銀行に新卒で入り10年ほど勤めたらしい。銀行という特殊な企業に10年もいれば大体企業内のグループダイナミックスがどんな物かはわかる。しかし、その雰囲気を適切な表現に移すには才能がいる。 

かれは他にも半沢直樹とかいうおなじジャンルの作品があるらしい。大変評判がいいというが頷ける(ただし小生は未読)。


書評採点評価基準

2015-11-18 00:37:29 | 直木賞と本屋大賞

前回述べた三賞受賞作品の横断的採点をしてみようと思う。ただし文庫化された作品のみを対象とする。また上下など二巻以上に分かれた作品は対象としない。 

50点以下

◎ 解説がひどいもの、ただしこれだけでは落第にしない。

◎ 読み続ける気にならないもの、だいたい7、80ページを目安とする。つまり80頁くらいまでは我慢して読む。

◎ 深夜目が醒めて眠れなくなった時に手に取って続きを数頁でも読む気にならないもの

◎ こんだ電車等で読む気にならないもの、つまり騒々しい場所で意識的に集中力を高めて努力しなければ読めないもの

% 50点以上の刻み方

◎   文章表現力、構成の巧みさ、

◎   構成に分かりにくさ、飛びがないこと、ただし構成の分かりにくさ、飛躍に意図的な、かつ正当な理由があると認められる場合は除く

◎   文章の迫力、つや

% 最高点

80点を上限とする。対象の三賞では80点以上はあり得ないという先験的独断による。

さて前に述べた三浦しおん女史を初回はとりあげよう。

◎   船を編む 30点、面白いかね。80頁以上読み薦められなかった。これは最近本屋で大きなスペースを誇っている少女小説コーナーにでもおくものだろう。

◎   直木賞の「まほろば駅前多田便利軒」40点 滑稽小説のつもりらしいが重苦しいだけだ。解説もひどい。解説のヨイショの仕方が幼稚だと内容も連動するようだ。女性の翻訳家らしいが、この人の翻訳も避けた方がよさそうだ。

 

もう一つ別の人の作品。葉室さんだったかな、直木賞「蜩の記」65点

時代小説を久しぶりに読んだが、考証が進歩したのか退歩したのか、妙な感じがするところもあるが、よく書けていると言っていいだろう。

ちなみに解説をキャンベルさんというひとが書いているが、適切な解説というよりピントが外れているようだ。もっとも露骨なヨイショはない。東大教授だからね。

 


三賞の違い

2015-11-17 20:26:16 | 直木賞と本屋大賞

一度だけだが直木賞の選考委員の選評を読んだことがある。あれはオール読み物に出ていたと思ったが。批評が適切だったかどうかは別にして、たいへんまじめに論評しているな、という印象だった。各委員の批評も芥川賞にくらべると随分長かった。別に長さで善し悪しが決まる訳がないが、一生懸命やっているという印象は伝わる。 

それに比べると芥川賞の選評(文藝春秋に載る)は愛想のない簡単なもので、内容も素人ながらどうかな、と感心しない物もなかにはある。

直木賞は一応作家として出来上がった人物を対象としているようだが、芥川賞はあくまでも新人賞で将来性を見るということのようだ。そう取らないとひどい作品が多すぎる、受賞作に。受賞作はまだまだだが、なにかこの作家は化けそうだというカンをたよりに選んでいるようだ。

事実一作きりで退場して行く人もいるようだし、あとが続かない傾向が顕著ではないか。ということは選考委員は伯楽としては失格者が多いということかも知れない。

本屋大賞は書店員の入れ札だからたいして論ずることもない。書店員というのはほとんどアルバイトじゃないのかな。

本屋大賞をあげるまえに、ほかに立派な文学賞が多数あるではないか、とおしかりを受けそうであるが直木賞、芥川賞で代表しても差し障りがないのではないか。

本屋大賞を取り上げたのは、読者に対するインパクトすなわち売り上げに貢献する程度が直木賞、芥川賞に匹敵するからである。

 


直木賞と本屋大賞の横断的比較は可能か

2015-11-11 09:20:38 | 直木賞と本屋大賞

賞の種類、テーマの相違、ジャンルの相違、スタイルの相違などを捨象して作品の質の横断的に絶対評価することは可能であるか、という問い 

答え:可能である。基準は文章の質とストーリー・テリングの質である。

直木賞受賞作も本屋大賞受賞作も1、2冊しか読んでいないが、

直木賞はプロ(作家)による選考である(つまり一時選考編集者最終選考は作家)。だから技量という基準が勝っているのではないかという推測

本屋大賞は、半クロウトつまり書店員の入れ札(投票)によると理解している。

したがって、技量、質の評価はあてにならないと考える。

しかしこの世界は勝てば官軍(売れれば勝)ということだから、よりマーケットに近い書店員の投票にもそれなりの意味はある。 

で、、最近意識して両賞関係の文庫を2、3冊ピックアップした。とりあえず気が付いた所を、

三浦しおんという作家がいる。「船を編む」というのが大賞らしい。数十頁読んだが端的に言うとひどい。少女小説みたい。ところで引っかかるのはこの人は直木賞も授賞している。それでこのアップのタイトルで考えてみようと言う気になった。

そこで彼女の直木賞作品をこれから読んでみよう。上記の仮説が妥当かどうかチェックしたい。個人でも作品の出来、不出来ということはあるが。

直木賞の「ロイヤルホテル」を読んだ。短編連作だが私流の作品の相対評価では「船を編む」より圧倒的にすぐれている。

ま、その年次の選考委員の程度にも影響されるし、年によってはましな作品がなくて無理矢理出版社の営業上の理由から受賞作をひねり出すということもあるかろうから、なかなか公平な評価はむずかしいかもしれない。