min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

池上司著『雷撃深度一九・五』

2009-06-18 17:29:34 | 「ア行」の作家
池上司著『雷撃深度一九・五』 文春文庫2009

.3.1第6刷 629円+tax

オススメ度★★★★☆

本作品は第二次世界大戦の終盤、それも終戦に極めて近い昭和20年7月の太平洋上における日本海軍の潜水艦と米海軍の重巡洋艦との一騎打ちの海戦を描いたものだ。
いつも思うのだが、およそ潜水艦乗りだけにはなりたくない、と思う自分がおり、今回もこの思いは変わることなく、いや更に嫌になってしまった。
とにかくあの閉塞感が嫌なのである。読みながらこちらまで息が苦しくなってくる。
さて、そんな個人的な繰言はこのくらいにして、本作品の半分は史実であることに驚いた。
ウィキペディアによると昭和20年7月30日に間違いなく米海軍第五艦隊の旗艦である重巡洋艦インディアナポリスは、日本海軍の伊五八潜水艦によって撃沈されたのである。
その時、インディアナポリスは原子爆弾(本体そのものではなく、ウランを運んでいたという説もあるが)と部品を極秘裏に運んでいた、というのも事実である。これは全く知らなかった事実で、驚きである。
ここまでは事実であるが、あとの半分以上は著者のフィクションである。
この原爆の送り先が当時フィリッピンに居たマッカーサーであり、米国首脳が彼に原爆を使わせたくなかったが故にわざと日本軍にこの艦を攻撃させた、というくだりは著者の創作であろう。だが、着眼点は卓越している。
見せ場は潜水艦、巡洋艦の両艦長による虚虚実実の駆け引き、戦術の読み合いに尽きる、と言えるのであるが、ここに描かれる戦術の信憑性の評価を私は出来ない。出来ないものの、面白い。
だが、いくつかの疑問点は残る。作中で日本の潜水艦の中で交わされる言葉で
「メイン・タンク、ブロー!」などの英語が頻繁に登場する。
現代では全くこのカタカナ英語は違和感がないのだが、当時は敵性語として使用禁止ではなかったろうか?それとも潜水艦乗りの間ではあり???
それから、指揮権委譲の問題。伊五八は目的地に向かう途中の海域で、敵国艦に襲撃され撃沈された日本の船団に乗っていた少将を救助し、その彼に伊五八の艦長は指揮権を委譲するのだが、これってあり?
これらの疑問を忘れるならば、かなり面白いのは確かだ。
巻末の解説によると、著者池上司氏はあの時代劇作家、池宮彰一郎氏のご子息である、とのこと。
やはり血筋は争えぬもの、息子さんもなかなかの文才をお持ちのようだ。
本作品以外に、同じく第二次世界大戦を描いたいくつかの作品があるようなので、そちらも読んでみようと思う。
ところで、この本は今映画で公開中?の『夏のオリオン』の原作ということであるが、映画化した途端にチンケ?なイメージに落とされそうなので止めておきます(苦笑)

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3 コメント

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敵性語について (池上司)
2012-05-18 13:06:48
書評をありがとうございます。
敵性語について、お答えします。
戦時中、おっしゃる通り、
民間では、『敵性語』が指定され、
禁止されました。
社名ですら、例外はなく、
「シチズン」も「大日本時計」と呼称しました。
しかし、海軍では、兵学校において、
終戦まで、英語教育を続けました。
これは、海軍においては、
戦後の国際社会に通用する士官の養成を、
目的としていたためです。
また、命令語は、英語が戦中使われました。
命令語を変更したことで、
混乱を避けるためです。
違和感があるかもしれませんが、
間違いなく使われていました。

ご指摘ありがとうございます。
返信する
指揮権委譲について (池上司)
2012-05-18 13:11:41
忘れてました。

作中、指揮権委譲に関しては、
明確に行っていません。
ただ、回天の使用について、
倉本艦長の命令違反になるので、
永井は命令書を書きますが、
これは、あくまでも、
永井が帰投後の倉本を、
おもんばかった処置です。

したがって、
永井の最後の言葉につながるのです。
返信する
恐縮です (min-min)
2012-05-28 21:40:12
池上司さん、

このような私のブログにわざわざ丁寧なコメントをいただき、誠に恐縮です。

やはり作家さんは綿密な調査、取材の上執筆されているのですね。
権限移譲については私の読み込みが浅かった、と言わざるを得ません。
改めましてご回答ありがとうございました。
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