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sigh of relief

くたくたな1日を今日も生き延びて
冷たいシャンパンとチーズと生ハム、
届いた本と手紙に気持ちが緩む、
感じ。

映画:ジャコメッティ 最後の肖像

2018-08-17 | 映画


彩度の低い、色のわかりにくい画面の映画ですが、ジャコメッティの雰囲気には合ってる。
音楽も、全体的にスタイリッシュな映画です。

アメリカ人の主人公は、すでに有名芸術家だったジャコメッティにモデルを頼まれ
1〜2日で必ず終わると言われて引き受けるが、ずるずるずるずると引き伸ばされ
中々パリを去れずにいるうちに、ジャコメッティや彼の周りの関係に
関わっていくようになる・・・というだけの話なんですけどね。
事実に基づいているからか、案外あっさりしてて見やすい映画でした。
ひどすぎるドロドロもないし、ジャコメッティの芸術家の苦悩もほどほどで。

ジャコメッティはジェフリー・ラッシュが演じていますが、
この人は芸術に関連した映画が似合うなぁ。
数年前に見た「鑑定士と顔のない依頼人」はとても面白かった。
でもジャコメッティやピカソのような、個性的な人を演じるのは
実はそんなに難しくないんじゃないかと思うんですよ。
特徴をいくつか似せると、本人をよく知らないわたしたちは、
簡単に似てると思ってしまうし本人にしか見えなくなったりもする。
藤田嗣治役のオダギリジョーなんかも、実際は全然似てないんじゃないかと思うけど
あの髪型とメガネだけで誰がやっても藤田に見えるんですよねぇ。
とはいえ、ジャコメッティのジェフリー・ラッシュは
その偏屈さも、ちょっとした可愛さもうまくて良かったです。
きっと、演じるの楽しかったと思う。

モデルの役は、「君の名前で僕を呼んで」の背の高い高い彼、アーミー・ハマー。
いつどこで見ても、ハンサム意外に見えないハンサムで、イケメン過ぎるわ。
そのイケメンがこの映画では、わりとずっと困ったような顔をしててかわいいです。

肖像画は中々完成しないのですが、ジャコメッティは
「自分は描いているのではなく、描こうとしてるだけ」と嘯きます。
彼の苦悩は、いい加減で嘘付きで芸術に対してもごまかしてきた自分を自覚しているのに、
大成功しちゃって世間の評価が高いことに耐えられないってところ。かな。
自分の才能の限界は自分でわかるってことかな。
十分な才能なんだけど、天才の本人にとっては足りないものなのでしょうね。
そして、もういやになっちゃって「木になりたいと思ったことはないか?」とか聞くけど、
要は、絶望の中にいるのが、一番落ち着くというタイプの芸術家です。
そういう、よくある天才の芸術家気質から特にはみ出るものはないんだけど
時々見せる愛嬌やかわいさ、弱さなどの表現はいいですね。

お金への執着はないので、自分の作品も簡単に燃やしちゃえるジャコメッティですが、
お金から自由なのはかっこいいと思うけど、糟糠の妻に対してはけちんぼみたいなのは
ちょっと、やな男だな、と思った。
妻にはオーバーの1枚も買わないのに、
若い娼婦に夢中になって、車でもなんでも買ってあげてしまうのです。
愛人を(勝手に)妻公認で持つなら、せめて妻に他の不自由をさせるなよ!と思うけどね。
しかし、こういう、才能のある男って、若い女に振り回されるのが好きなのか
若い女が寄ってくるのか、年取った天才と若い女の組み合わせは映画になりやすいな。
この女は、特に美しくも賢くも誠実でもない女なんだけど、
相手の気持ちなど考えないいいかげんさのおかげで、いつも明るい顔でいるし、
相手の都合などお構いなしの無邪気さが
人に顔色を伺われるのが嫌いな芸術家には好ましいのかもしれない。

どうどうと愛人と一緒に居る夫に、妻が気の毒すぎると思ってたら
後半ジャコメッティが妻に優しくなり、しみじみとした仲良し夫婦感のあるシーンがあって
でもそれって「ファントム・スレッド」の男女と同じ構図だな、と思い出してうんざりした。
弱ってるときだけ、優しくなる男。いや、違うな。弱ってる時の男って、
優しくなるんじゃなく、優しくされたがるんですね。そして女は喜んで優しくする。
共依存というやつ。芸術家という生き物は、仕方ないのかなぁ。

個性ある芸術家の人生や、長い年月ではなくて、一人のモデルとの数日間を
テンポよく描いたやや短めな映画(90分)で、そういう小粋なまとめ方は好きです。

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