ダニエル・デイ・ルイスの引退作品らしいけど、まだまだとてもかっこいい。素敵です。
ファッション界が舞台なので衣装もすごくいいし、主人公が美意識の塊なので
彼の生活全部が美しい。映像もとてもとてもきれいで、
今までファッションデザイナーのドキュメンタリーをいくつかみたけど
物語と同時に美しい世界に浸れる楽しさもあるなぁ、と最初の方がワクワクしながら見た。
でも・・・
いやだ、このヒロインがすごく嫌いだ。嫌悪感でいっぱい。
男の自己中心を責めるか、女の怖さに震えるかのどちらかといえばわたしは後者。
サプライズが嫌いだと言われているのに、
愛してるから喜ばせたいわたしの気持ち最高!通じるはず!と強行して拒否され、
ひどい傷ついたと復讐する女の映画でした、こわい。
わたしもサプライズ全般に苦手なので、
独りよがりに嫌なものを押し付けられたらそりゃ拒否するわと男に同情。
でも、私のこの愛を受け入れないなんて間違ってる、
何をしても受け入れさせてやる!ってなるヒロイン、こわすぎる・・・。
そしてこのヒロインが、どんどん嫌いになっていき、ラストも後味も、すごく悪い。
ふへー。
男も完璧主義の芸術家タイプというか、孤独を邪魔されるのが嫌いで
興味のないことは一切したくなくて、人の気持ちより自分の美意識や仕事優先で、
まあとんでもなく自己中心的で冷たい人ではあるんですけど、
この邪魔されるのが何より嫌いで自分のテリトリーに無神経に入られるのが許せない、
という感じは、ものすごく共感するので、やっぱり女のずうずうしさがいやだな。
わたしは表面は人よりオープンな方だと思うのですが(オープンすぎて危ないくらい)、
プライバシーの範囲(いわゆる舞台裏)が多分人よりかなり多くて
間口は広いけど奥行きが狭いと言い得て妙な解説を、以前友達がしてくれた通りだなぁと
この映画を見ながら改めて思った。
心の中も生活も、むやみに人に触らせないプライバシーの範囲が多くて、
自分の世界の調和にうるさいあまり
人とのコミュニケーションに支障がある主人公の男は、
秘密主義というわけではないのですけど、
誰も入れない場所が心の中でも外でも広すぎるわたしには、他人事と思えないし、
こんな風に土足で入り込まれたり、
欲しくないやり方の愛情の押し売りをされてキレる男の気持ちにばかり、共感しました。
一方女の方は、こんなに愛してるから愛し返されたい、
それも自分が望むように愛されたい、と期待するだけなら勝手ですが、
自分の愛がよっぽど美しく値打ちがあるとでも思ってるのか、
この女は相手の男の世界に問答無用でずけずけと踏み込むんですよ。
完璧主義の男に対抗して主導権争いをするこの女が、
もう少し才能なり魅力なり何かを持ってる大人のいい女ならともかく
もっさりした若いだけの女なのでうんざりする。
自分の愛しか武器がないのに、相手からの愛を当然のように求めて手段を選ばない、
そのふてぶてしさ図太さが嫌だ。
この女は「存在の耐えられない軽さ」のジュリエット・ビノシュと重なります。
すっごい重なる。純朴でにぶくて無神経で土足で踏み込みながら、
こんなに愛している私を受け入れて大事にして愛し合うことこそあなたの幸せと、
自分の望む形に引きずり込む、愛への貪欲さ。執着。
孤独と完璧な美を愛する男には女への尊重は足りないように見えるけど、
実際のところ女の方も、男への尊重なんか全然持ってないよね。
相手が嫌だといっていることを、愛してるから喜ぶはずと、
ことごとくわざ挑むようにやっては失敗し、
失敗しては、こんなに愛してるのに拒否するなんてひどいと不満で、
結局驚くべき手段で相手を自分の支配下に置こうとするんだもんなぁ。
依存し依存させがんじがらめの関係に持って行こうとする女。こわい。
でもこの映画、女の愛に優しく応えようとしないこの男がひどすぎる男だから
自業自得、と言う風に見る人も多いんだろうか?うーん。
お話は
1950年代のイギリス、ロンドン。有名ファッションデザイナー(仕立屋ということだけど、
今でいうデザイナーだと思う)のレイノルズは、田舎のウェイトレスのアルマと出会い、
最愛の母の思い出と、仕事でもパートナーで何もかも分かり合っている姉がいる家で同居し始める。
レイノルズはミューズとして、そのときどきの恋人を家に迎えることは何度もあったが
アルマはもっとしぶとく彼の人生に食い込もうとし・・・
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