とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

田中路子という女性

2010-09-09 22:04:58 | 日記
田中路子という女性



 日本画家田中頼璋(旧瑞穂町出身)を訪ねる私の旅は、なかなか終わりそうにない。今までにこの画家の作品の実物をいくつか拝見することができた。先日も出雲文化伝承館で双幅の軸物と出会うことが叶った。まことに穏やかな雰囲気の画風で、心静まる気持ちになった。
 ところで、調べを進めているうちに、田中路子という女性にウエブ上で出会った。最初は、誰だこの女性はと思ったが、田中頼璋の娘さんと知って非常に驚いた。一九〇九年に神田に生まれ、根岸で育った。後、東京音楽学校で声楽を学んだ。そのときに、チェロ奏者と道ならぬ恋に落ち、そのほとぼりを冷ますために、両親の意向でウィーンに留学。そこでオーストリアのコーヒー王と呼ばれた大富豪ユリウス・マインルに出会い、結婚。歌手、映画俳優としての華やかな生活が始まるが、まもなく離婚。そして、ドイツの当時のトップスター、ヴィクトリア・デ・コーヴァと再婚し、戦中、戦後、夫婦が協力して困った人々を援助したという。一九八八年五月に死去し、今はベルリンの墓地に眠っている。
 現在、財団法人日本音楽教育文化振興会が主催する事業の一つに田中路子賞がある。これは声楽部門の賞で有能なソリストを発掘し優秀な人材育成、そして声楽技術の啓発を目的としている。
 彼女の一生を映画化すれば、すばらしい作品が出来上がるだろうと私は思った。道ならぬ恋に落ちて、日本を離れ、遠い西欧の地で再び恋の炎が燃え盛る。しかも、訪れた日本人を温かく迎え、戦争で困っているたくさんの人を救った。その父親は島根県出身の高名な日本画家。私は、久しぶりに気持ちが高ぶってきた。(2007年投稿)

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。