とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

十四歳の初陣

2010-09-08 14:14:12 | 日記
十四歳の初陣



 時は慶長十九年(一六一四年)師走、矢ぶすま、弾丸の中をかいくぐり、大阪城真田丸(出城)めがけて疾駆していく先駆けの騎馬武者一騎。その人物を見てやれば、まだあどけなき顔の美少年。その勇姿を砦からじっと見守っていた真田幸村、「敵ながらあっぱれな若武者」と思うや手にしていた軍扇をその武者めがけて投げ放つ。若武者、これはありがたき幸せとばかり扇を受け取り、敵の大将にそれをかざして黙礼した……。その初陣の若武者は、当時弱冠十四歳の松平直正である。後信州松本から移封され、松江藩松平家初代の藩主となり、藩の基礎作りをすることになる。その軍扇は現在松江城一階に保管・展示されている。
 さて、その大阪冬の陣の話を思い出させる掛軸に私はお目にかかったのである。今月の二十七日に宍道の蒐古館で催された「蚤の市」には、奇しくも幸野西湖筆の「直正公初陣図」が出品されていた。ちょうど松江開府四百年祭が展開されていて、私は深い因縁を感じたのである。西湖と言えば、かの小村大雲の師幸野楳嶺の次男である。その軸は横物で小品だったが、黒斑(くろぶち)の馬に跨って戦う若武者が鮮やかに描かれてあった。私はその絵に釘付けになった。そして一晩思案した後買い求めた。値段も手ごろだった。その絵をお迎えして床に飾って、私は先ず合掌、礼拝した。陋屋(ろうおく)に畏れ多くも藩主をお迎えした感激はひとしおである。家宝として大切にしたいと思っている。
 さてさて、最後まで掛軸の話になって申し訳ないと思っていますが、ひとまず今回にて打ち止めとし、暫く充電させていただきます。三年半にわたるご支援ありがとうございました。                       (2007年投稿)


(追記)この小文が『島根日日新聞』への最後の投稿となりました。しかし、このブログは順不同で掲載していますので、暫く続けさせて頂きます。今後もよろしくお願いいたします。

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