とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

「不思議の木」

2010-09-10 22:31:28 | 日記
「不思議の木」



 本紙十五日号の記事に旧平田市の国富小学校のユーカリの古木(不思議の木)のことが載っていて、私は興味を持った。一度見たいものだと思った。昭和四十年ごろに私は浜田の農事試験場で銀葉ユーカリの大木を見ていて、その記憶と重なったからである。私が見たのは丸葉のものではなく、確か長細かったような気がする。暖地を好むので、日本ではなかなか大きくならないそうである。
 さて、いつものように私の記憶はとんでもない所へ飛ぶのだが、この度は吉行淳之介氏の庭のユーカリにリンクしてしまった。昭和四十八年に刊行された随筆集『樹に千匹の毛蟲』(潮出版社)の冒頭には確かその木のことが書いてあったと思う。庭に植えたその木がなかなか生長しなかったそうである。大きくなりすぎても始末に困るのでその木を掘り上げようとある日思い立ち、とりかかるが、意外な難工事になった。知らない間にしぶとく根を伸ばしていたのである。この冒頭作品は、話としてはまことにもの足らないものである。しかし、私は不思議とこの部分をときどき思い出す。ユーカリという言葉の響きにも引かれた。
 この本が出版される数年前、文藝春秋社の文化講演会が小倉であり、私は憧れの吉行氏の話を聞くことが叶った。当時の海外のナンセンス文学を例に挙げ、一見たわいのない話の中の「キラリと光る」ものを感じたとおっしゃっていた。そして、短編小説の命は断面が「キラリと光る」ところにあると断言されたのである。随筆と小説を同一に論じることはできないが、やはり、前述の作品はユーカリだったからこそ、不思議な輝きが生じたのである。私は、今、そう思っている。(2007年投稿)

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