とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

娘の家で

2014-02-04 23:11:44 | 日記
娘の家で





「ヴァイオリンを弾くジュリー」( 1894年 モリゾ作)

 モリゾの作品はリアルそのもので、ウォーターハウスのような物語性はない。しかし、この少女像にしてもすばらしい存在感があり、弾くヴァイオリンの音色が聞こえてくるような雰囲気がある。すらりとした細身の肢体も大人びていて、立派な音楽家のような感じさえする。絵は化ける。この絵からも私は魔力を感じている。


 私はある夜、ひどく酔っ払って千恵子の家を訪ねました。あっ、お祖父ちゃんだ、と言う声が聞こえて、志乃が駆けだしてきて私を出迎えましたが、臭い、お酒飲んでる、と私をすぐに退けました。
 三朗が帰っていました。ああ、お義父さん、どうしたんですか。そう問われたのですが、どうして娘のうちに行く気持ちになっのか分かりません。ただ、自然に足がそちらに向かっていました。お父さんがこんなに酔っ払うなんて珍しいことね、と千恵子が私を支えて座敷に入れてくれました。

 おい、千恵子、か、体大丈夫か。・・・どたっと座り込んだ途端にそう言いました。

 大丈夫ですよ。簡単に死にませんよ。

 そうか、・・・でもな、里見さんの家の子どもということになると大変だぞ。

 大変なのは三朗さんです。私は、そんな、苦労はしません。

 志乃、お前は、お前は、・・・もう、お祖父ちゃんとこの孫ではなくなるなあ。

 お父さん、そんな言い方は子どもの前では止めてください。

 そうか、いや、・・・ご免、ご免。お祖父ちゃん酔っ払い過ぎた。・・・おい、三朗、工事現場はどうなんだ。里見さんの具合が悪くて大変だな。

 ときどき見に来るだけですよ。もう、外装は済んで、これから進入路の工事と内装です。順調ですよ。心配しないでください。

 そうか、そうか、・・・すると、今年中には完成だな。

 ええ、そういう見通しがたちました。

 よかった。・・・これで、私も安心して死ねる。

 お父さん、止してください。お父さんこそもっと気を強くもって・・・。

 気を強く・・・、そうか、そうか、分かってる。しかし、俺は父と母に呼び出されて、一緒にこれから生きねばならなくなった。

 お義父さん、それは考えようですよ、偉そうなことは言えませんが、必要とされてるんです。ご縁市場の皆さんに。

 普通じゃない俺でもか。

 普通ですよ。私たちにとっては今までと同じ人・・・。

 うん、うん、ありがとう。・・・でもな、悔しいときがある。普通の爺さんでいたかった。

 だから、お父さん、普通のお父さんですよ。しっかりしてください。お母さんにまた叱られますよ。

 分かってる。

 寝床敷きますから、ゆっくり休んでください。

 ありがと、ありがと。・・・私はそう言いながら涙を流しました。

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