とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

青色の少女像

2010-09-09 21:55:24 | 日記
青色の少女像



下方の余白に「百分の四十」、「KA」と鉛筆で書き込まれている。百と四十は算用数字で書いてあるが、ややぎこちない感じである。KとAは続けて書いてある。Aはやや小さく、小文字に見える。その上に青色の服を着た少女が青色の背景の中から白く浮き出ている。唇のピンクがアクセントとなっている。全体にリトグラフ独特の色合いである。
 わが家の玄関ホールにはこの絵がもう三十年近くも掛けてある。額の金色は所々色落ちしたりしてみすぼらしくなったが、比較的暗所にあるためか絵自体の褪色(たいしょく)はあまりない。私はこの少女の知性的な顔立ちが好きである。やや横向き加減で眼が大きくて清清しい印象を与える。毎日見ていても飽きがこない。私の時々の心情によって、心持ち表情が変わる。それが愛しい。たくさんの来客を迎えているが、この絵について感想を述べた人は一人だけ。「いい絵ですね」。その人はちらと見てそう言った。
 絵に詳しいお方はもうお気づきだろうが、この絵の作者は挿絵画家風間完氏である。買ったのは確か出雲市で開かれた「一枚の」の展示会だったと思う。会場に入った私はたくさんの作品の中でこの絵が際立って美しく見えた。大袈裟だが、運命的な出会いをしたような感じだった。傍にいた妻に、「これ買おう」と言ったら、瞬間、驚いたような目つきになったのを今でも覚えている。もちろん月賦で買い求めた。今はその少女を私の娘のように思っている。私には二人の娘がいるが、この絵の少女は歳をとらないので、いつしか末の娘になってしまった。いずれ私の孫となるだろう。
……この絵のモデルは誰だろうか。会いたい気持ちがいや増すのだが……。(2007年投稿)

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