とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

納屋の二階の女性

2012-09-08 22:09:30 | 日記
納屋の二階の女性




納屋の画像

 岡田さんと農場へ出かけた翌日、大事なことを言い忘れました、と前置きをした電話が岡田さんからかかってきました。

 畝本さん、これはきちんと確かめた話ではないですが・・・。

 何でしょうか。

 実は、私の家の納屋に坂本郁子という若い女性が住んでいるんです。

 坂本さんですか。

 その人が出雲画廊の冴子さんを知っているというんです。

 で、その方というのは、ご親戚のお方とか・・・。

 いや、農場を管理する県外会員の代表者をしているんです。坂本さんは、農業のことは素人ですが、とにかくよく働くお方で、色んなことを手伝って貰っています。農業機械の運転もできます。ま、そういうお方ですから、住み込みさせてくださいと言われたとき、断れなかったんです。下は農機具の保管庫ですから、二階で自炊しています。

 分かりました。それで、冴子さんとはどういう関係のお方ですか。

 いや、はつきりとは言わないのですが、何かの折、冴子さんの娘だというようなことをほのめかしたんです。

 えっ、娘さん。

 確かそういう・・・。

 そうですか。

 ご免なさい。こんなこと言わない方が・・・。

 いや、教えていただいて感謝しています。よくぞ私のような者を信用していただきました。

 却ってご迷惑・・・。

 いや、いや、ありがとうございます。

 すると、郁子さんのお父さんは画廊の、あの、目の不自由な・・・。

 それが・・・、その点はきちんと話しませんでした。出雲画廊が出来たことを知って、にわかにそわそわしている風でした。

 私がお宅にお邪魔して、直接聞いても話してくれるでしょうか。

 いや、私がこっそり伝えたことが分かると具合が悪いので・・・。

 承知しました。それでは、この話は当分の間私の心の中にしまっておきます。私はそう言いながら、何か厄介なことを抱え込んだという気持ちがして、落ち着かなくなりました。
 

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