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とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

佐山医師との語らい

2012-08-01 22:51:02 | 日記
佐山医師との語らい



 都会の病院を退職し、遠く離れた出雲の地に仕事場を求めた佐山医師。そして、同行した奥さん。息子の近くに居たいということを理由として仰っていましたが、次々に医療機器が運び込まれるその有様を見ていて、私はそういうことだけではないという気がしてきました。地域医療への貢献。これも立派すぎる。私は、近くに医者がいるという安堵感を覚えたものの一度ゆっくりと話し合いたいと思っていました。
 引っ越しの仕事が一息ついた所でタイミングを見て、佐山医師と奥さんを私の家にお呼びしてお話しする機会を作っていただきました。


 古い家で申し訳ないです。

 いやいや、なかなかいい普請で、建物自体がっしりしていますよ。機器を入れても床がへこんだりしません。

 そうですか。父が古民家の古財を長年集めて作ったものですから、点検して私も驚きました。

 これで二人とも開業できそうです。ありがとうございます。家賃は遠慮なく仰ってください。

 いやいや、要りませんよ。使っていただくだけで嬉しいです。

 奥さんの仕事場はスペースがなくて申し訳ないです。

 そんなことありません。大工さんに二つに仕切って貰いましたが、ゆったりした仕事部屋になりました。それから何より明るくて喜んでいます。

 そうですか。ありがとうございます。・・・妻がお茶を出した序にそばの椅子に腰かけた。



 ところで畝本さん。

 えっ、何ですか。

 私の息子が久しぶりに京子さんの家を見にきたときに、貴方に呼び止められたと聞いています。あの時、もし貴方に呼び止められていなかったら、こんなご縁をいだくこともなかったと思います。・・・畝本さん、どうして呼び止められたんですか。

 ああ、あの時ですか・・・。私はそう言いながら答えを心の中で探していました。・・・ああ、あの時は、つまりですね、私自身思い屈していた時でした。だから、京子さんのことが気になっていて・・・、そうですね、私とダブらせていました、そこへ息子さんが姿を見せた・・・、この方だ、この方が一つの可能性だと思ったのです。

 貴方は難しい言い方をなさいますね。要するに私の息子があの家を救ってくれそうだと思われたのですね。

 ええ、まあ、そういうことです。

 そうですか。分かりました。・・・で、救ったのですか。

 ええ、あそこの家族が元の家に帰ったり、近所に住まいするようなりました。

 私は、本質的な家族のもつれはすべて解決したとは思っていません。これからです。だから見守るために私はここに来ました。・・・ただ、本当にたくさんのお方にお世話になりました。感謝しています。医者の道に進んでいたらこういう温かい出会いはなかったかも知れません。それから・・・。

 えっ、何でしょうか。

 貴方は不思議なお方ですね。貴方が動き出すと、人が集まってくる。普通のお方なら余計なおせっかいはしません。しかし貴方は進んでおせっかいをする。しかしあまり人に嫌われない。・・・不思議です。私は大きな病院の医者たちが政治家のようなことをしでかす姿をたくさん見てきました。それで嫌気がさしました。医者は医者として生きるべきです。先妻は医者でしたが、その政治的な争いに巻き込まれて医者としての名誉を忘れかけていました。別れたのもそれが原因です。・・・あっ、とんでもないことをしやべりました。許してください。

 そうですか。それで・・・。

 そうです。でもね、この人と出会えて私はほっとしました。・・・佐山医師は奥さんの方をちらと見ました。その時、奥さんは微笑んでおられました。・・・話を聞いていた私の妻は穏やかな表情になっていました。

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