とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

授乳の聖母

2012-06-06 23:13:55 | 日記
授乳の聖母





「授乳の聖母」モラーレス (1570年ころの作品)

 授乳の聖母像は多々ある。しかし、このモラーレスの聖母が最高のレベルだと私は思う。聖母らしからぬ服装で地味だが、表情が言葉にできないくらい深い慈愛に満ちている。胸を開いていないのもいい。キリストもごく普通の乳児のように描いている。並々ならぬ力量を感じさせる。
 我が家に飾った母子像は、この作品の雰囲気を大切にして、京子さんの母親像を加味したごく庶民的な雰囲気に仕上げてある。恐らく自画像として仕上げたに違いない。私はこの絵を眺めていると不思議と落ち着く。妻は、いままでの詳しい経緯を知らないので、どうしてこんな絵を買ったのかと何度も聞いた。しかし、日が経つうちにそんなことも言わなくなり、我が家にこの絵は住みついてしまったのである。


 何か始めないか。いい空き小屋を見つけたんだ、と私。

 突然何言いだすの、と妻。

 芸術村を作るんだ。

 芸術村?

 そうだよ。二人では無理だから、誰か助けて貰って。

 分かった、京子さんの画廊の近くでしょう。

 そうだ。工房を作って、子どもたちも集めて、いろいろ作るんだ。

 作ってどうするの。

 我々が儲けるとかいうのじゃなくて、相乗効果だよ。

 資金はどうするの、それと、誰に手伝って貰うの。

 資金は要らない。手伝う人はたくさんいるはずだ。

 甘い、甘い、芸術村なんて・・・。

 そうかなあ。

 そんな子どもみたいな話は止めてください。

 そうかなあ。

 ・・・ある日の夫婦の会話です。他愛のない話が私は生まれつき大好きですから真面目に妻に話しました。しかし、その日はそれでその話は終わりになりました。

 
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