とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

画廊で見つけた絵

2012-06-04 00:01:54 | 日記
画廊で見つけた絵





 この絵は彼の安井曽太郎の少年時代のデッサンである。いわば彼の原点はこういうところにあったのである。旨い。唸るような作品である。



「庭で描いているクロード・モネ」 ルノワール(1873年制作 ウォズワース・アテネウム  ハートフォード)

 この作品は敬愛する画家への誠実な尊敬の気持ちがあふれ出ている作品である。人物画、中でも女性を描いたものがたくさんあるが、こういう穏やかな心を静めてくれる作品もルノワールは描いたのである。バラが実に鮮やかである。


 私は、冴子さんが始めた「出雲画廊」に初めて出かけ、京子さんの高校時代の作品を発見して驚嘆しました。
 一つは出雲平野の写生画。水彩画の特色を知り尽くした筆運びで、築地松、斐伊川、田植えのすんだ水田を見事に描いていました。この作品は、全国総文祭に出品された作品で、他作を圧倒するインパクトを与えたということでした。
 もう一つは、上掲のルノワールの描いたモネ像の模写でした。これも実作の画風を自分なりに解釈し直した力作で、これが高校生!!と思わせる作品でした。


 この画廊を開くときに京子さんが真っ先に持ってきてくれた作品です。冴子さんは嬉しそうにそう言いました。

 大事にしていた作品を届けてくれたんですね。

 そうです。・・・実はこの店を開くとき、不安がありました。もしかして京子さんは言葉では喜んでいても、心の中では以前のように私を憎んでいるのではと・・・。

 自分の画廊に飾らないで貴方のところに持ってきた。・・・すごいじゃないですか。最大級の歓迎ですね。

 ええ、ほんとに嬉しかったです。涙が止まりませんでした。

 一番奥に飾ってありますね。ああ、その隣に大島俊太郎さんの遺作が・・・。

 そうです。祖父を追い越してほしいという私の願いを込めました。

 追い越しそうですね。そしたら冴子さんどうします。

 この店を譲ります。私は隠居です。それまでここでできるだけのことをしたいです。

 ところで、お父さんの具合はどうですか。

 出雲に帰ったことを喜んでいます。眼は見えませんが、昔のこの辺りの風景はよく覚えていて、私に説明しながら確認していました。

 で、今はどこに・・・。

 デイサービスに出かけています。

 ああ、そうですか。仕事しながらの介護は大変ですね。

 これも私の最後の仕事です。

 冴子さん、最後、最後と言わないでください。これからここで新しい生活が始まるのですから。

 ごめんなさい。

 いえ、私こそ生意気なことを言ってしまいました。

 なんでも仰ってください。

 なんでも、ですか。・・・それでは・・・、ここの店の絵で貴方がお勧めの作品はどれですか。

 と仰いますと・・・。

 生涯の記念に買いたいんです。

 お買いになる。

 もちろん、京子さんの作品です。

 貴方に買っていただくとは・・・。

 年金暮らしの身ですから、分割払いということで・・・。

 本当ですか。

 もちろんです。

 そうですか。ありがとうございます。・・・では、・・・。と言って、冴子さんは私をある作品の前まで案内してくれました。

 これです。

 えっ、これは・・・授乳の聖母像のような・・・。

 そうです。その作品を意識して描いたのだと思います。

 どうして、私にこれを・・・。

 いや、いろいろと京子さんから聞いていますから。


 私は、その作品ならいくら出してもいいとその時思いました。


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