橡の木の下で

俳句と共に

選後鑑賞令和元年「橡」6月号より

2019-05-28 11:26:23 | 俳句とエッセイ

 選後鑑賞   亜紀子

 

春耕や畑に湧く石拾ひつつ  関澤澄子

 

 鍬を入れるたび、ごろた石の出てくる痩せ畑。これは何処の景色だろうか、いろいろと状況を想像してみたくなる。いずれにしても農作業開始の季節はきつい労働の始まりの時。しかしどこか喜びの声が聞えてくるのは、春耕やという第一声の切れゆえだろうか。

 

寒卵素直に通る喉ぼとけ   遠藤忠治

 

 作者が体調を崩されてしばらく療養中であったことに思いを寄せると、中七の素直に通るの措辞がよく響く。下五が喉ぼとけと自分の身体への意識に集束しているのも病に対抗してきた人の句ゆえかと思う。

 

カルメン椿赤き八重なり咥へたし  市田あや子

 

 椿はもともとアジア原産だが、十八世紀にヨーロッパへ渡り、そこでも多くの栽培品種が生まれたという。掲句のカルメン椿は「カルメン」という名の大きな赤い西洋椿ということか。メリメ原作、ビゼーのオペラで人気のカルメン、彼女の髪に挿した真っ赤な花。自由奔放なジプシー女のように咥えてみようか。掲句の作者は家業、介護に常多忙な日々を過ごされている。

 

付城跡隠しさざめく木の芽山  小谷真理子

 

 付城(つけじろ、つけしろ)とは本城に付属した出城。ここでは敵城攻略のために築いた向城(むかいじろ)。それゆえ隠しの語が効いている。さざめく木の芽は雑兵たちの閧の声。

 

剥落の頬笑みてゐる土雛   宮下のし

 

 その地に古くから伝わる素朴な土雛。剥落はあるが柔らかな微笑は変わらない。いかにも優しく、暖かい。五七五がこの雛様の姿をそのまま言い取っている。

 

駘蕩と母子鯨の添ひ泳ぎ   釘宮多美代

 

 以前、和歌山県太地町「鯨の博物館」の入江に囲われているシャチを見た。緑色の江、鶯が鳴き、時々顔を見せる大きな海のほ乳類を子供達とのんびり眺めた。駘蕩とという感じそのもの。掲句は船でホエールウオッチングを楽しんでいるのかもしれない。添ひ泳ぎは言い得て妙。人であれば手を繋ぐところ、あるいは少し大きくなって自転車に乗れるようになった頃の伴走といったところ。

 

走り根の脈々として木の芽張る  小野田のぶ子

 

 地を這う隆々たる根。大樹であり、相当な樹齢かと思われる。木の芽張るの語も力強く、樹木の生命満ちあふれる感。辞書を繙くと「走り根」とは盆栽用語で徒長した小根のことを指すらしいが、ここではその解釈は取っていない。

 

傾ぐ程百花重ねて花御堂   大澤文子

 

 仏生会の頃ともなればどこも春咲く花で一杯。そのさまざまの花をこぼれんばかりに葺いた花御堂。釈迦誕生、春到来の喜びも溢れる。

椿厚く葺けば傾く花御堂 星眠

椿ひと色の星眠先生の花御堂も素朴に豪華だった。

 

野遊びの幼な転べば鳩囲み  石神松彦

 

 幼子の手に鳩の餌袋、ころんだ拍子にぽろぽろこぼれて、すかさず寄って来る鳥たち。こんな状況を考えてみたが、それよりも童話の一頁のように、若草の野で尻餅ついてびっくりした子を、どうしたのと心配顔で取り囲む鳩の絵がしっくりする。鳥と幼子の交歓図。

 

 


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令和元年「橡」6月号より

2019-05-28 11:20:20 | 星眠 季節の俳句

形ばかり大きく甘えのすりの子  星眠

             (テーブルの下により)

 

 山形と題する十三句の中から。さみだれの最上川下り、見かけは鷹らしくなった幼鳥。他に、

笹五位も不漁か雨の船下り

梅雨を来て熱し碁点の打たせ湯は

                                 (脚注・亜紀子)

            

                              


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草稿05/28

2019-05-28 11:16:46 | 一日一句

傾ぎゐしぎぼしが雨に花上ぐる

ひと日ひと日滴のやうに若葉雨

亜紀子

 


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草稿05/27

2019-05-27 09:46:10 | 一日一句

世に疎く狭庭緑の塞となる  亜紀子


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草稿05/26

2019-05-26 09:42:48 | 一日一句

ありがたく新茶いただく今日の無事  亜紀子


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