佐藤梅代句集 『花柊』
平成30年11月15日発行
著者 佐藤梅代
発行 揺籃社
著者略歴
昭和6年 大分県宇佐市生れ
平成5年 橡初投句
平成23年 橡同人
平成29年 橡賞
問合せ
〒271−0141
千葉県市川市香取1−2−15
佐藤梅代
『花柊』に寄せて 亜紀子
朝靄の墨絵ながしに残る鴨
麦藁や母に習ひしほたる籠
迷走の仔豚のレース牧開
木豇豆の千千に吹かるる雪解風
磨崖仏頬ふくよかに清和なり
風に知る花柊の籬かな
一湾の波のきららやアロエ咲く
からころと絵馬打ちわたる桜南風
羽釜炊き筍飯に偲ぶ母
俳句の詩としての本質はと自問すると、先ず五七五の定型と自答する。佐藤梅代さんの師であった堀口星眠はその著書『俳句入門のために』の中で「この定型のために、俳句の魅力が失われないのです。」と記している。梅代さんの句はいつも調べに渋滞がなく、リズムが血肉として身についている感がある。マニュアル通りに五七五は確かに守っているが、どうも散文的で「詩の調べ」を忘れた句作りになりがちな時、梅代さんの句を拝見して反省することしきりである。
調べ穏やかで、自ずと題材そのものも穏やかなものを取捨選択されているのではと思うこともあるが、こうして一集を拝読するとそうではないことが分る。
鵙鳴くやきびしき句評恋しかり
十一の暮れてなほ鳴く遭難碑
韓びとの塚新しき白木槿
葦原を渡る草笛海ゆかば
ホスピスへつづく回廊夕朧
なづな粥ぴんぴんころり念じつつ
八月の列島つつむ鎮魂歌
幾人の訣れをしのぶ初昔
鵙鳴くの句で偲ぶのは梅代さんのもう一人の師、村田桑花先生だろうか。何を題材にしようとも、定型という器に尽きせぬ深みと広がりを湛える。
行く春や真間の継橋水絶えて
唐辛子吊す妻籠の細格子
魚板打つ木の葉時雨の平林寺
野鳥病舎敷藁厚く冬に入る
振れば鳴るからから煎餅春を呼ぶ
固有名詞を入れた句においても調べが鍵ということを改めて勉強させてもらい、折に見られる字余りも基本を習得しているからこその賜物と再認識する。
師の星を探す良夜の王ヶ頭
今は亡き二人の師との思い出の地、信州美ヶ原。皆で山頂の望の月を堪能したと伺った。良き師に学んだ佐藤さん、良き友垣に囲まれ今この実りの時を迎えられたことを心よりお慶び申し上げる。
平成三十年 秋