橡の木の下で

俳句と共に

鳥越やすこ・浅野なみ二人句集『姉妹アルバム』紹介

2017-08-17 14:12:35 | 句集紹介

句集『姉妹アルバム』

平成29年8月12日発行

著者 鳥越やすこ・浅野なみ

発行 揺籃社

定価 2,500円(送料込)

著者略歴:

鳥越やすこ 

昭和24年 香川県生れ

昭和50年 「馬酔木」初投句

昭和59年 「橡」入会

昭和62年 「橡」青蘆賞(文章)

平成元年 「橡」青蘆賞(俳句)

平成3年 「橡」同人

俳人協会会員

 

浅野なみ

昭和22年 大阪生れ

昭和44年 「馬酔木」初投句

昭和59年 「橡」入会

平成3年 「橡」同人 

     「橡」青蘆賞(俳句・文章)佳作

問合せ:

〒658−0052

兵庫県神戸市東灘区住吉東町4-2-26-101

電話:078-862-9520 

鳥越やすこ



序  『姉妹アルバム』に寄せて

                 亜紀子

 

 鳥越やすこさんと浅野なみさん姉妹。鳥越さんが妹の浅野さんより二つ年下の兄嫁という間柄である。鳥越憲三郎、すみこ夫妻(馬酔木時代から活躍、橡創刊にも大いに貢献された)の薫陶のもと、お二人とも二十代から俳句を始められた。長い俳句人生を学者のご一家、お仲間と和気藹々、ある意味恬淡と俳句そのものを楽しみ、それぞれの持ち味を実直に耕してこられた。待ち望まれた句集も姉妹揃っての発刊というところ如何にも聖鳥越一家の感がある。

 

 鳥越やすこ 

 受験子に洗はれて犬しづかなる

癒えたりと微笑端座の生御魂

母眠り春の雨より息しづか

竜天にその尾を掴み父逝くか

陽炎や父に未完の一著あり

ぽつねんと父の杖あり鳥曇

他人に聞く母のおもひで縷紅草

末の子の佳き人連れて小望月

 

 浅野なみ

 角とれし父の気性や桃啜る

銀漢や戸締りゆるき父母の家

冬の鵙父のペン先機嫌よき

受験子の度胸は祖父の血を受くる

鵤鳴き口笛合はす合格子

母の笑み言葉に勝り聖夜なり

春星や亡き母恋ひて父の逝く

初雪や天にふはりと母召され

蓑虫や人もちちよと呼びてをり

子の胸に父母は棲みたり露の秋

 

なみさんと呼ぶ親しさも春隣  星眠

 

 星眠先生のこの一句は浅野さんその人を言い尽くしている。いつどこでお目にかかっても、全身の微笑で迎え入れてくださる。母上のすみこ先生を彷彿。そのすみこ先生から、やすこのことは誰に聞いても悪く言う人がいないんですよと常伺っていた。この二人の写真集であるから、どのページを開いても見る者の心に気持ちが良い。俳句はこうありたいという星眠精神の表れである。

 

 鳥越やすこ  

 マント着て影大いなり宣教師

わが窓のいくたびかげり雁帰る

祝婚や丘のヴェールの花林檎

ソーダ水窓一面に瀑布見て

一飛行養花天より霾天へ

火車春夜上京の荷を枕とす

上京家族地図に頭を寄す鳥曇

リラの樹下椅子ひとつ置き床屋なり

中国将棋差すも覗くも瓜食める

倫敦の時雨あとさき霧を生む 

漆黒の瞳すずしくマヤ少女

新訳の源氏に溺れ梅雨籠り

信長忌はた光秀忌梅雨荒るる

黒南風や橋につながれ淡路島

寒鮒釣目礼をしてまた一人

ハードボイルド読めばかなぶん体当り

蒸米を大黒担ぎ寒造

虻と入る御室桜の雲中に

荒神輿蟬飛び入りて弾かれし

 

 浅野なみ

 拝火教墓域に来れば時雨けり

鴨撃やまだ汚れざる犬の四肢

春風に膝小僧出すアンネ像

をろがみてとくとく清水手に掬ぶ

薫風のときに烈風摩天楼

ビーバーの巣組みし水の明易し

鈴や鉦打ちて虫酔ふ望の月

天文台新樹の夜も電波読む

烏相撲尻餅といふ負けもあり

新涼や小鳥が小さき舌見せて

焼栗屋司祭さま来て立話

北風をやすやす入れし自動ドア

善き人に飼はれ金魚の長生きす

水影も身も漆黒の蝶とんぼ

芭蕉翁終焉の地の枯るる音

朝東風や稽古力士の湯気立つる

「天国と地獄」に沸けり運動会

 

 風景句、はっとするクローズアップに思いがけないロングショット。異国の生活スナップも多々あり興味は尽きない。どこかに深い陰影を宿しながら、けれんや嫌みのない心象風景。いずれ劣らぬ名ショットの数々は、穏やかに、しかし妥協は許さず我が道を撮りつづけてこられた結実である。

 鳥越さんは「橡」編集長として奮闘活躍されている。思えばいの一番に「やすこさんは編集の仕事をするために生まれてきたような人」と見抜いてくださったのは浅野さんだった。お二人には昔も今もお世話になるばかりである。『姉妹アルバム』のご上梓をお祝い申し上げ、嬉しく、心弾んでいる。  

 

         平成二十九年七月佳日