大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・063『荒ぶる間人皇女』

2024-08-01 14:36:53 | カントリーロード
くもやかし物語 2
063『荒ぶる間人皇女』 




「わたしのことは詮索しないで欲しいんだけど……」

 間人皇女(はしひとのひめみこ)が薄く口を開けて言ったよ。

 ズチャ

 アニメで戦士が身構えるようなエフェクトをさせてネルが前に出る。

「こいつ、なにか詠唱している!」

「あ、べつにゾルトラークって言ってるわけじゃないから」

「そうなのか(;'∀')?」

 わたしの言うことだから疑っているわけじゃないんだろうけど、間人さんから放射される気は禍々しくて、ネルは警戒の姿勢を一ミリも緩めないよ。

「ぞ、ぞるとらーくって何よ!?」

 間人さんもネルの威圧に圧されて、言葉が尖がっている。

「あ、最近流行の一般攻撃魔法。だいじょうぶ、なんにもしないから」

「でも、あなたたちは、わたしのことを間人皇女と分かって警戒してるんでしょ!」

「あ、ちょっと怖いけど、戦おうとかは思ってないし」

「でも、そちらの耳長は敵意剥き出しだしぃ」

「もう、ネル!」

「あ、ああ、すまん」

「わ、わたしはね、孝徳天皇の皇后なのよ。中大兄は実のお兄ちゃんだし、あなたたちが考えているようなことは、いっさい無いんだからね!」

「え、あ、そうだよね(^_^;)」

「そりやぁ、お兄ちゃんはずいぶん心配してくれたし面倒も見てくれたわよ。叔父さんと結婚する時も……」

「叔父と結婚したのか( ゚Д゚)!?」

「そんなの普通ヨ!」

「あ、ネルは黙ってて、話は最後まで聞こうよ」

「すまん」

「叔父さんはね、わたしを皇后に迎えるにあたって都を難波の宮に移してくれて、分かる難波の宮? 近鉄もJRも無い時代に生駒山の向こう側に都を移したのよ。大兄のお兄さんも察してくれたし、分かってくれたし!」

「そ、そうなんだ」

「すまん、そうなんだな。いや、わたしの両親も周囲に喜んでもらえない結婚をしたんでな、つい自分と重ねてしまって」

「ちょ、なにを聞いてるの、わたしはね、そんなんじゃないんだから! お兄ちゃんはあくまでもお兄ちゃんで! 叔父さんはわたしの夫で! だから皇后で、ぜんぜん、全くノープロブレムでぇ(゙◇゙) 」

 間人皇女は顔を真っ赤にし、唇を震わせ、手をブンブン振って抗議する。

 しかし、言えば言うほど彼女の体から黒い煤のようなのが噴き出て、煤はあちこちで渦を巻いて、やがてつり上がった目と口の煤お化けになった!

「間人さん、しゃべっちゃダメよ!」

「え……えええ( ゚Д゚)!?」

「こいつは退治しなきゃ!」

 言うが早いか、ネルは杖を構えて煤に討ちかかっていった。わたしも敵わぬながらもミチビキ鉛筆を構えたよ!

「こ、これはわたしじゃない! わたしじゃないから! 知らないから!」

 グルンと回ったかと思うと、間人さんは竜巻のようになって草原の向こうに行ってしまった。

「やくも、こっちのは来るぞ!」

 煤お化けが一斉にかかって来て、ネルとわたしも負けじとお化けどもに討ちかかっていった!

 セイ! セイ! トリャー! ビシ! バシ! ズコ! 

 オリャー! トォ! キエーー!

 ドゲシ! ズコン! バキ! グチャ!

 ズガガガ! ピュイーーン! ズキューーン!

 ボキャ貧で、掛け声と擬音でしか表現できないけど、ネルと二人で煤お化けたちをブチノメシていく!

 入学以来あちこちで戦ってきたので、わりとカッコよく片づけられているような気がするよ。

 ネルは杖で打撃を加えるだけじゃなくて、「嵐の一撃!」とか「稲妻の閃光!」とか短い詠唱も加えて魔法でも煤お化けどもを退治していく!

 ズビッシュ!

 二人で左右同時に突きかかって最後の一匹を成敗!

 ハーハー ゼーゼー

 野原の真ん中で盛大に息をつく。

 こないだ退治した食わせものや、義手義足のお化けよりも厳しかったかもしれないよ。

 二三分ネルといしょにゼーゼー言って気が付いた……御息所が額田王からもらった花ごとポケットから消えている。

「あれ、どこに行っちゃたんだろ? 落したのかなあ!?」

「あ、頭の上!」

「ええ?」

 ゴチン

 見上げたとたんに御息所が落ちてきてオデコに当ってから膝の上に乗った。

「ごめん、こっちもちょっと大変だった」

「もう、どこに行ってたのよ!」

「間人も我を忘れてトチ狂ってたから、ちょっと意見してきた」

「意見だけぇ? ちょっと手を見せて」

「な、なにをする!」

 御息所の目は、ちょっと血走ってるし、開かせた手は真っ赤だし。

「ちょっと、乱暴にしたんじゃないのぉ?」

「少しはね……なによ、ブチギレた女を諌めるのよ、多少のことはあるわよ(-_-;)」

 御息所は正しくは六条の御息所だ。源氏物語じゃ生霊になっていっぱい人を殺して茨木童子の腕に封印された鬼だよ。

「気が付いたら、あいつの首を絞めてたんだけどね……」

「やっぱり」

「でもね、額田王がくれた花がパッと散ると、わらわも間人も冷静になって、少し話ができたのよ」

 膝の上でそっくり返っていたのが、しおらしく立膝に座って話を続ける。

「孝徳天皇は間人皇女を皇后にしたけど、指一本触れなかったらしい……」

「え、それって……」

「真人を皇后にしてしまえば、さすがの中大兄も手が出せない。天皇の皇子の有間皇子は小足姫(おたらしひめ)の子だしね。叔父さんが不肖の甥と姪の尻ぬぐいをしたというところじゃないかしら……もうくたびれた、すこし眠るぞよ……」

 ポケットに潜り込み、今度はミチビキ鉛筆を支えにして寝てしまった。

「やっぱり、望まれぬ結婚というのは、いろいろ禍根を残すんだなぁ……」

「そうだね、でも、事情はいろいろだし、悪いことだらけというわけでもないと思うわよ」

「そうか、あたしのルームメイトは優しいなあ(^・^)」

「あれ、ネル、ちょっと影が薄くなってきてない?」

「あ……どうやら交代の時間みたいだな」

「うん、ありがとう、キーストーンは必ず取り返してくるからね」

「ごめん、最後まで付き合えなくて、また順番が回ってきたらがんば……」

 最後までは言えずにネルは消えてしまって、野原を名残りの風が吹いていったよ……。


 
☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)107・リスペクトの気持ち

2024-08-01 07:14:44 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
107・リスペクトの気持ち  




 リスペクトの気持ちはあるんや。


 なんちゅうても惣堀高校演劇部は看板だけで、放課後の居場所が欲しいという動機だけでつるんでる。

 もともとは俺一人だけで普通教室の半分もある部室を占拠してて、それが生徒会に睨まれて――生徒会規約どおりの部員数がなければ存続を認めない――と言われて、必死こいて集めた。

 実態は、放課後のスクールライフを優雅に過ごすためのサロン。

 せやけど、看板に演劇部を名乗って連盟に加盟している限り、コンクールの受付ぐらいはやらんとあかん。よその演劇部はちゃんとやってんねんやろからな。

 演劇部としての実態が無いことが、逆に高校演劇へのリスペクトの気持ちになってる。


「あ、全員で来られたんですか(^_^;)」


 一時間前に着いた俺らは、どこに行っていいか分からへんかったんで、そろいのジャージで走り回ってる真田山の生徒を掴まえて聞いた「どないしたらええんでしょ?」

「あ、あわわわわ、椅子の数増やしますね(;'∀')」

 ジャージはすっ飛んで行って、お仲間とパイプ椅子を両手に抱えて戻って来た。

「えと、これで人数分はあると思います」

 受付には七脚のパイプ椅子が並んだ。

「あ、わたし車いすだから要りません」

 千歳が生真面目に返答。

「あ、え、でも出してしもたから」

「そ、そですか」


 ゼミテーブル一個だけの受付に六人(引率の朝倉先生込み)は多い。


 どうやら受付というのは二人も居たら間に合うようで、開始直前になっても手持無沙汰この上ない。

「まだ二十人だよ」

「パンフは三冊売れただけだ」

 千歳と須磨先輩が何べんも来客数をカウントする。この二人が本来生真面目なのがよく分かる、観客が少ないのを自分たちのせいみたいに感じている風情がある。

「ハー、なんかギャップだわね」

「ギャップて?」

「だって、ホールも学校もすごくいい設備じゃない、打ち合わせの時も人数多かったし。その雰囲気と、受付通った人の数がね……」

 なるほど同感。

 ミッキーが耳打ちしてミリーがスマホをいじりだした。

「なにしてんねん?」

「連盟のサイトをね……えと……難波高等学校演劇連盟でよかったわよね?」

「え、あ、たぶん」

「おかしいわね……」

「なにがですか?」

 千歳が車いすを寄せ、それが合図だったようにみんなの首がミリーのスマホに集まった。

「コンクールの予告とかプログラムとか地図案内とか……なんにもないのよ」

「えー、うそ?」

 朝倉先生まで乗り出した。先生は引率責任者としての義務感で来てる。

 その義務感からすると、コンクールは貴重な休日を潰されることに相応しいイベントでなければ「ぶっ殺すぞ!」と言いだしそうな気迫がある。

「なんにも出てませんね」

「ちょ、貸して! あ、自分の使えば……」

 先生は自分のスマホで検索し始めた。

「東京なんかは詳しく出てるよ~」

 悔しさがにじみ出ているけど、この人は休日を潰された事のショックや。ま、分かりやすいけど(^_^;)。

「打ち合わせの最後にさ、役員の先生が言ってたじゃん『開会式には必ず全校出てください』って」

 そう言えば言ってた。

「あれって、コンクールの大切さってか、参加する心構え的に言ってるんだと思ったけどさ……」

「参加校だけでも揃わなきゃ観客席が寂しすぎるってことじゃね?」

「あ、まあ……」

 それ以上は本番前の受付で喋るのははばかられ口をつぐんだ。

 ブ~~~~~

 そして開会のブザー、ホールのドアを閉めようとすると、開会の挨拶を始めた役員の先生の声がした。

 その挨拶も終わったのか、ドアが静かに開くと七人が出て行った。プログラム一番の北浜高校や。

「……てことは」

「観客席は……」

 十三人という言葉を呑み込んだ。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

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