大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

馬鹿に付ける薬 003・旅の始まり

2024-08-02 13:45:07 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

003:旅の始まり 




「では、正門まで見送ろう」

 ベロナの兄であるマルスは、武人らしく妹に告げた。

「ありがとうございます、お兄さま」

 ベロナも良家の子女らしく、きちんと頭を下げる。

「留年の使命が冒険の旅だとは聞いたことも無い。だが、逆に言えば、それだけ期待されてのことであるだろうし、それに耐える力が二人にあると理事長も校長も判断されてのことなんだろう。厳しい旅になるだろうが、我々も陰ながら応援しているぞ」

「はい、お兄さま」

「ありきたりだが、頑張れベロナ」

 マルスは妹の細い肩に手を置き、愛おしそうに揺すった。

「そんなに揺すられては、旅に出る前に壊れてしまいます(^_^;)」

「せめて太陽系を出るところまではガードとして付いて行ってやりやいところだが、公転軌道の警備も揺るがせにはできん。アルテミス、どちらがどうと言うほどに力には差のない二人だろうが、どうかベロナをよろしく頼む」

「お、おう」

「ベロナも、なにごともアルテミスと相談し、力を合わせて進んでいきなさい。そして、この試練を乗り越えれば二人は、惑星と衛星という枠を超え、この太陽系に二つとない親友の星になれるだろう」

「はい、お兄さま」

「ありがとうマルス……ねえちゃんも、なんかねえの?」

「え、わたし?」

「姉妹なんだからさ、こういう時はなんかあるっしょ」

「あ……馬鹿に付ける薬って……なんだろうね」

「古来『馬鹿に付ける薬は無い』と言われてきたが、アマテラス殿が言われるんだ、必ずあるさ」

「そうだよ、まあ、がんばりなさい」

「おう……じゃ行くか」


 そっちじゃありませーん!


 四人が正門に進もうとすると、式の終わった講堂から飛び出してくる者がいる。

「あ、教頭先生」

 気づいたベロナがきちんと振り返って頭を下げる。一応の礼服に身を包み髪も黒々としたジョバンニ教頭、どこか少年の匂いを残しているが、近づいてくると目元や口元に隠せない年齢を感じさせる。

「北門から出てもらいます」

「北門?」

 マルスが眉を顰める。

「あ、不浄門とは言われていますが、始まりの町にはいちばん近いんです」

「「「「始まりの町?」」」」

 四人の声が揃う。

 始まりの町というのは異世界冒険もののゲームやラノベに出てくるお決まりの設定。ここで装備を整えギルドに登録し、チュートリアルを兼ねた初期ダンジョンの攻略があったりする。

「ということは、二人の旅は銀河宇宙を飛び回るスペースファンタジーではなく、異世界冒険RPGだと?」

「まあ、そういうことですね。初期装備と七日分の水と食料は二人の道具袋に入っているから後で確認しておきなさい」

「はい」

「おう」

「……えと、質問とか疑問とかは無いのかなぁ?」

「はい」

「質問して普通の留年になるんならするけど」

「あ、それは絶対無いから……」

 保護者二人をチラ見する教頭だが、保護者も生徒もここに至っては言葉も無い様子で目を合わそうとはしない。

「ええと……始まりの町で、学校の方から依頼したガードが待っているからね。予定では五日目には町につくから、ギルドに行って登録のついでに確認しなさい。名前や特徴は道具袋のメモ帳にあるから、間違わないで声をかけるように」

「それならば、登録番号で確認した方がいいだろう、ギルドに来るガードなんて似たり寄ったりだろうからな」

「あ、それもそうですね、将軍。なにぶん学校の仕事ばかりで冒険などしたことが無いもんですから(^_^;)」

 北門に着いて門扉が開かれると、それに連動していたんだろう、二人の制服は瞬間でアーチャーと魔法使いのものに切り替わった。

「アーチャーなのは、いいけど、ちょっとダサくない?」

「わたくしのも、ちょっと胸がきついような」

「初期装備だからね、まあ、二三個クエストやって気に入ったのを買えばいいよ」

 北門から出してしまえば任務終了なのだろう、教頭の言葉には熱が無い。

「初期装備には裁縫セットが入っているはずだ。あとで直すといい……ほら、ここだ」

 マルスは妹のインタフェイスを開いて示してやる。

「まあ、なんとかなるわよ、わたしの時もそうだったから」

――あんたは何もしないで月に帰ってきただけだけどね――

 辛辣な言葉が出そうになるが、さすがにアルテミスは飲み込んだ。

 門を数歩出ると、ロケーションは『始まりの荒れ野』の風情で、一陣の風が吹いて来て見送っていた教頭の髪の毛を吹き飛ばした。

 あ、ウイッグ!?

 教頭を慌てさせ、少しだけ笑ってアルテミスとベロナの冒険の旅が始まった。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          月の女神
  • ベロナ            火星の女神 生徒会長
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
  
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)108・純白の単衣

2024-08-02 07:29:23 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
108・純白の単衣 






 ガラスのサイコロを斜めにして滑り台を付けたような駅。 

 滑り台の部分は、たった今降りて来た階段で、ガラスのとこは改札を出たホール。ホールは陸橋を兼ねてて、改札を出た時にどっちに下りようかと、ちょっとだけ迷った。    

 その駅前のロータリーで途方に暮れてる。

 なぜって、駅は確認してたけど、行き先であるお婆ちゃんの実家は聞かずじまいやったから。ひょっとして駅の向こう側にもロータリーがあるんちゃうやろか……せやけど、向こう見に行ったあいだに迎えが来たら困るしぃ。

 ロータリーに佇んで、わたしはとっても寒い。歯がカチカチ鳴って、その振動が体中に伝わってガタガタ震えてる。

 まるで真冬のミシガン湖のほとりに立ってるみたい。

 シカゴと大阪は姉妹都市で、いろいろ共通点はあるけど、人口の多さと真冬の寒さはシカゴの勝ちに間違いない。

 って、立ってるのは栗東駅のロータリーなんやけど……栗東……で、今日は11月7日の立冬。リットウ語呂合わせの祟り!?

 自慢やないけど日本語慣れしてるから立冬をリットウと読むのは知ってたけど、栗の東と書いてリットウとは読まれへんかった。

「へー、そうなんや!」

 お婆ちゃんに言われて感心したから、こんなダジャレみたいな運命に翻弄されてる。

 で、なぜか千代子とお揃いのスェットパジャマ。

 パジャマなんやけど、セーラー服。

 本来ツーピースのセーラーがスェット地のワンピになっててクルブシまでのロング、映画で見たスケバンのセーラーみたいで「「おもしろーい!」」と意見が一致して通販で買った。

「これやったら、普通に外歩いてても分からへんで!」

 と、夕べは盛り上がった。

「ミリーが言うてた純白の単衣なぁ、田舎の栗東にあるわ」

 お婆ちゃんが、あちこちに手配して、お婆ちゃんの実家である栗東の家から写真付きでメールが送られてきたんや。

 その純白の単衣を文化祭で着るんや。

 夕鶴のヒロインつうの役やから純白の小袖!

 そやけど令和の現代、いまどき小袖っぽい着物て浴衣ぐらいしかあれへん。

 夕鶴のつうが、金魚とか朝顔の柄の浴衣で出るわけにもいかへん。それで浴衣案は早々に却下されて、栗東の親類に手配してもろたわけ。

「下に一枚着たら、絹ものの単衣でもいけるなあ」

 お婆ちゃんのアイデア。

 でもって、早手回しにセーラーのパジャマ着て、栗東駅のロータリー。


 ヘクチ!


 かわいくクシャミして目が覚めた。

 あたしは、夕べから使い始めた冬布団を蹴飛ばしてパジャマは胸の下まで捲れ上がってた。
  
 いろいろあって、変な夢みたんや……。

 いくらなんでも、パジャマで栗東に行くわけないないもんね。

「栗東の従兄弟が届けてくれるて」

 朝ごはん食べてると、お婆ちゃんが伝えてくれる。

「ほんまぁ? めっちゃ嬉しいです(*^-^*)」

 卵をかき混ぜる手に力が入る。わたしは玉子ご飯好きの変なアメリカ人でもある。

「おはよ……」

 悲惨な小声で千代子、珍しく起き抜けの爆発頭。

「あかんわ、風邪ひいてしもたー(-_-;)」

「あ、お腹出して布団蹴飛ばしてたやろ?」

「……なんで分かるのん?」

「アハハ、ミリーはなんでもお見通し!」

 けっきょく、千代子は学校を休んだ。

 同じ目に遭ってるのに、わたしは大丈夫。

 おそらくは、来週に迫った文化祭の事が楽しみやからやと思う。


 衣装の心配が無くなったことで、授業も稽古もルンルンでできた。


 家に帰ると、栗東の従兄弟さんからブツは届いてた! セーラーのパジャマが届いた時よりも興奮する!

「さ、さっそく試着してみい」

 お婆ちゃんの勧めで、チャッチャとリビングで着替える。

 で、姿見を見て、めちゃショック……(;'∀')。


 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)



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