大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

馬鹿に付ける薬 005・即席青空天井の茶店・1

2024-08-05 15:12:54 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

005:即席青空天井の茶店・1 



「……校長先生?」


 思わず声をかけて――しまった!――と思うアルテミス。

 木の間隠れに見える校長は、思いのほかアタフタしてしまっているのだ。

 異世界の旅に出たところで怪しい土を掘る音が聞こえた。

 さては早くも魔物が現れたか!?

 ベロナをおいて見に来ると、さっき申し渡し式で舞台の脇に立っていた宮沢校長がザックザックと鍬を振るっているのだ、アルテミスはビックリした。

「どうかしたのぉ~?」

 ベロナものんびりした声を上げて、こちらにやってくる。

「あらあぁ、校長先生ではありませんかぁ」

「あはは、とんだところを見られてしまったねえ(^_^;)」

 手拭いでハタハタと土を落とす校長。正体を知っている学校関係者が見れば紛れもない宮沢賢治校長なのだが、知らない者が見れば、ただの初老のお百姓だ。

「いや、すまんねえ。畑のことが気になって、つい教頭先生に任せてしまった」

 校長とはそういうものだと思っている二人にこだわりはいないが、こんなところで畑仕事をしているのは不思議だ。

「裏の畑とは繋がっていてね……いや、なに、来年からは学生も増えそうだし、学食のメニューもね、もうちょっと品数を増やそうと思って、畑を増やしているんだ」

「それは、どうもごくろうさまです」

「校長先生も大変なんだな」

「あはは、いやいや、君たちに比べたら年寄の道楽だよ」

「わたしとアルテミスは、ただの落第生です」

「そうだそうだ、学食のおばさんにもらったおはぎがあるんだ。はなむけと言ってはなんだが食べて行きなさい。下の川でお茶も冷やしてるから」

「あ、あの川だな」

 校長の返事も聞かずに川に下りるアルテミス。校長は朴葉(ほうば)の葉っぱを切り株に敷いて即席の茶店のしつらえが整う。

「すみません、先生(^_^;)」

 ベロナは、こういう急な思い付きや展開は遅れるところがある。

「いやいや、生徒会長は、それぐらいドッシリとしていた方がいい」

「そっちの方はしばらく休むことに……」

「ああ、そうだったね。でも、今年度の予算も年間計画も立ててくれているし、大丈夫さ。真の指導者は、自分が不在でも回るようにしているもんさ」

「おそれいります(^_^;)。湯呑はこちらのでよろしいですか」

「ああ、自由に使ってくれたまえ」

 湯呑はちょうど三人分――先生、見越してらっしゃった?――と思わないでもないベロナだが、ちょうどアルテミスがヤカンを下げて来て、即席青空天井の茶会が始まった。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          月の女神
  • ベロナ            火星の女神 生徒会長
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭

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やくもあやかし物語2・064『ハンターとオリビア』

2024-08-05 11:16:01 | カントリーロード
くもやかし物語 2
064『ハンターとオリビア』 




 お別れの言葉も言えずに消えて行ったネルに、少しの間呆然としてしまう。

 分かってはいたけど、ワタワタして、そして寂しくなって。それでも、キーストーンを取り返す旅は続けなくちゃならない。

 よし!

 気合いを入れ直して、少しでも進んでおくことにする。

 う……(;'○')

 一歩ふみだそうとしたら、縁起の悪いことに靴ひもが切れてしまった。

 いっしゅん、ほんのいっしゅんだけど、靴ひもが切れたのを言いわけにして、こんな旅は止めてしまおうかと思ったよ。

 一面の野原の異世界。

 この異世界にいる普通の人間は自分一人だけなんだと思うと、無性に心細い。

 魔法特性が高いから、このキーストーン奪還の役目を仰せつかったんだけど。高いのは魔法特性だけで、それ以外は他の仲間と変わらないよ。歩いたらくたびれるし、お腹はへるし、眠くもなるし、汗もかくからお風呂にもはいりたいし、ときどきは「だいじょうぶ?」とか聞かれて「うん、だいじょうぶ(^_^;)」とか言ってみたいよ。

 こういう時、いつも憎まれ口を言う御息所は、くたびれたのか、ポケットで寝てるし。

 でも、仕方がない!

 ペシペシ

 ほっぺたを叩いて靴ひもを調べる……半分までならいけそう。

 靴の穴の下半分のところで靴ひもを結び直す。


 …………これ、結び直して立ち上がったら、ぜったいクラっとくるよ。


 用心してひもを結ぶ……やっと結び終えると、クラっときた!

 え、まだ立ち上がってないのに?

 と思ったら、目の前にハンター・ヤングとオリビア・トンプソンが現れた。

 クラっときたのは、二人の出現でいっしゅん空間がひずんだからなんだ。

 ハンターは脚を広げて尻餅をついているけど、オリビアはヘタりながらも、ちゃんとスカートの前を押えている。

 オリビアは良家の子女だから、こういうとっさの状況でもつつしみ深いんだ!

「あ、やっぱり二人で来られたわ。あ、こんにちはヤクモ」

「ごくろうさま! ネルが急に戻っちゃって、覚悟してたところだったから、嬉しいよ(#^▽^#)!」

 なんだか泣きそうになった。

「荷物多いし、女子を一人で行かせるのは心配だし、ダメもとで変換魔法を使ったんだ」

 変換魔法……そうだ、節分で豆まきするのに散らからないように、豆にかけた魔法だ(028『ソミア先生の変換魔法と豆まき』)。

「ほら、三日分の水と食料、他に小物いろいろ。それに、これだ」

「あ、それは!」

「聴講生の詩(ことは)さんが、これがあったら役に立つはずって、やくもの部屋から持ってきたんだ」

「あ」

 それは御息所用のお風呂だ。

 日本に居た時に、里見さんとこの八房がお礼にくれた(やくもあやかし物語128『八房のお礼』)やつ。ほんとはお酒の燗風呂なんだけど、魔法の燗風呂で、わたしでも使える。

「ほら、渡しとくよ……」

 荷物を差し出したところで、ハンターの体が消え始めた。

「あ、変換魔法かかってたからなあ……ごめん、やくも……」

 そうだ、変換魔法は節分の豆が散らからないよう、時間が経てば消えるように設定された魔法なんだった!

 ということは……?

「だいじょうぶ、消えたら元の世界に戻るだけだってソミア先生が言ってたわ」

「そ、そうなんだ」

 女子ふたりで、ちょっと心細い……とは言わなかったよ(^_^;)。



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)111・ヒトという字は人? 入?

2024-08-05 06:59:51 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
111・ヒトという字は人? 入? 





 人いう漢字を手ぇの平に書いて飲んだらええねんぞ!


 衣装に着替えてワタワタしていたら啓介が教えてくれた。

「そ、そうなんや(;゜Д゜)、ちょ、ちょっとサインペンとかないかな?」

「はい、どうぞ!」

 美晴がサッとサインペンを……差し出した手ぇにもドーランの香り。

 楽屋になった体育準備室は演劇部と、そのお手伝いさんたちで一杯。

 予想はしてたけど心臓バックンバックン!

 舞台に立つというのはエキサイティングすぎる!

「えと、ヒトってどっちやったっけ?c(゜.゜*)エート。。。 」

 使い込んだ台本の端っこに「人」と「入」を書いて須磨先輩に見せる。須磨先輩は、六回目の三年生という貫録で敵役の『うんず』のコス。

「アハハ、緊張すると忘れるよね『人』の方だよ」

「あ、ども」

「……って、手に書くの?」

「うん、啓介が言うてたから」

「あ、それって指で書くだけよ」

「え、あ、そうなんや(''◇'')!」

 在日4年、たいていのことには慣れたけど、こういうところでポカをやる。

「あ、せやけど、わたしアメリカやからAの方がええかな?」

「A?」

「 audienceの頭文字」

「なーる(▼∀▼)!」

「あ、でも観客は日本人ばっかですよー」

 千歳がチェック。

「そっか、じゃ両方やっとこ……ちょ、ミッキー、あんたも書いとき!」

「me?」

「相手役はわたしなんやから、やるやる!」

 ガタガタガタガタ……

 さっきからアメリカ人らしからぬ貧乏ゆすりをして、テーブルの上のドーランやらペンシルがカタカタ言うてる。

「ちょ、テーブルの上のもんが落ちるがな!」

「お、ソーリーソーリー……あ、なんて書くんだっけ(@゜Д゜@;)?」

「人や人! ほんでもってオーディエンス!」

「え、あ……(''◇'')ゞ」

 テンパってやがる。

「書いたげる!」

 小道具のチェックをしていた美晴が乗り出す。

「サ、サンキュ~(///◇///) 」

 とたんにデレるミッキー。

 ま、こんなときやから突っ込まんとく、貧乏ゆすり停まったし。

 本番まで15分、みんな準備は済んでしまって静かになってしまう。

 う~~~~こういう時の静けさは逆効果。

 いったんは納得した「こんなに痩せてしまって」の台詞が、おりから観客席で沸き起こった笑い声と重なって、自分が笑われたみたいに緊張する。

 ステージはミス八重桜の奮闘で倍の広さになって安全になった。

 こないだは、そのステージを見て、グッとやる気になったんやけど、今日は、その分――笑われたらアカン!――というプレッシャーになる。


 あ、えと、本番前なんで……


 入り口でなにかもめてると思ったら「わたしは着付け担当ですぅーー」と声がして人の気配。緊張しすぎのわたしは顔も上げられへん。

「ミリー、観に来たよ!」

 間近で声がして、やっと分かった。

「お、お婆ちゃん!?」

「着付けが気になってねぇ……ちょっと立ってごらん」

「は、はひ!」

 着付けはさんざん練習したんで完璧のはず。

「うん、きれいに……ん? ミリー、あんた左前やがな!」

「え? え? そんなことは……オオ(|||ノ`□´)ノオオオォォォー!!」

 みごとな左前に気づいて、いっぺんにいろんなことが飛んでしもた!

「これでは『夕鶴』ちごて『四谷怪談』やがな! ちょっと、いったん脱いで!」

 言うが早いか、お婆ちゃんは長じゅばんごとわたしをひんむいた。

 本番は大汗をかくと言われていたので下着しか着ていない……それも、線が出たらあかんので、そういう下着!


 本番終るまでは、もう目も当てられんことに……なったかどうかは、またいずれ(^▢^;)。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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