大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・069『マーフォーク現る!』

2024-08-27 08:28:12 | カントリーロード
くもやかし物語 2
069『マーフォーク現る!』 



 あ……


 オリビアがきれいな横顔で驚いた。

 鼻筋もきれいで、顎から喉にかけてのラインがディズニーのプリンセスみたいに優雅。

「虹が掛かってるわ」

「フヘ?」

 もうかれこれ三十分もお湯に浸かっているのでふやけた返事になる。

「ほら」

 首をひねるとカルデラの上に『オーバーザレインボー』を歌いたくなるような、おあつらえ向きの虹が出ている。

「ああ、まだポンプが回ってるんだ」

 カルデラから引いたホースは、あちこち穴が開いていてミスト発生機みたいに水を噴き出し続けていたんだ。それに、太陽の角度がドンピシャで虹を描いてる。

『ポンプのスイッチはとっくに切ってあるぞよ』

「え……」「だってぇ……」

 虹に見惚れて、お風呂の湯気みたいにあいまいな返事をしてしまう。

『……おかしい!』

 ジャブ

 お風呂から跳びあがると、手袋に収まってポンプを見に行く御息所。

 ザッパーーーーン!!

 盛大に水が噴き上がったかと思うと、身の丈20メートルはあろうかという半魚人が空中に躍り出た!

「グゥワハッハッハ! 礼を言うぞ人間! 我は、この海に君臨し、このあたりを知ろしめていたマーフォークだ!」

 そう言うと、噴き上がっていた水の一部が凝り固まってでっかいフォークみたいに変わってマーフォークの手に収まった。

『な、なにを申しておる、ここは一面の野原とか林とかではないか!』

「ここは、元々は海だったのじゃ。それが、要らざる神が現われて海の水を大地の底に、このマーフォークと共に落とし込み、このカルデラに儂を封印したのだ」

「そのフォークさんが、どうして……」
「怪獣みたいに現れたのよ!?」

「ワハハハハハハ!!」

 チャプチャプ グラグラグラ

「「キャァ~~((>〇<))」」

 カルデラも地面も振動し、わたしはオリビアと鍋の中のゆで卵みたいに揺れてしまう。

『あ、ゆで卵みたいだなんて思うではない!』

 御息所の忠告は遅かった!

 ピキ ピキピキ ピキ!

 オリビアの体にひびが入った!

「オリビア!」

「あ、だめ、もうここに居られないわ(''◇'')」

 ヒビが全身にまわったかと思うと、割れ目からタマシイみたいなのが滲み出てすぐに消えて行ってしまった!

 学校の仲間は魔法の効果で助けに来てくれているんだけど、まだまだ未熟なので時間に制限があるんだ! マーフォークの出現にビックリして、それが早まってしまったんだ!

 くそ、せっかく裸の付き合いができたところだったのにぃ!

『やくも、あぶない!』

 御息所の声に振り仰ぐと、まさにマーフォークの化物フォークが振り下ろされるところだったよ!



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人)
 
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)133・真面目に下見・1

2024-08-27 06:52:55 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
133・真面目に下見・1 朝倉美乃梨 





 T駅の改札を出てロータリーに向かう階段を降りると、驚いたことにお迎えが来ていた。

 南河内温泉の法被を着て温泉の小旗を持った、ちょっと髪の毛が寂しい番頭さん。

「わざわざお迎え有難うございます、予約しておいた朝倉です」

「あ、おいでなさいませ! どうぞ、車の中へ(^▽^)」

 髪の毛とは真逆の笑顔で出迎えてくれて、たった四十分前、行き掛かり上決めてしまった一泊旅行も――ま、いいか――ぐらいには治まってきた。予約の後に家に電話して「もう、もっと早く言いなさいよ、晩ご飯無駄になるでしょ」と母に文句を言われて、ちょっと凹んでたしね。

 温泉のロゴの入ったワンボックスに収まる、直ぐに発車……と思ったら、番頭さんは小旗を振りながら走り出した。

 何事かと思ったら、もう一つ出口があったようで、五人連れの女子学生風といっしょに戻ってきた。どうやら、他にもお客が居たんだ。

「では、出発いたします」


 六人の客を乗せて走り出す。


「すみません、後ろに追いやったみたいで」

 わたしの横に座ったボブの似合う子が頭を下げる。

「いいえ、学生さん?」

「はい、おひとりですか?」

「ええ」

 あなたも学生さん? とは聞いてこなかった。

 半年とは言え、教師をやっていると『らしさ』が身に付いたのかもしれない。一泊の、それも下見なんだ。同宿の人に気を使うこともないわよね。

「朝倉先生、夕食は承っていたのですが、気を付けなければならない食材とかございますか?」

「え、ああ、特にアレルギーとかはありませんから」

 簡単に済ませた予約だから確認が遅れたんだろうけど、先生の敬称は余計だ。

「あ、先生だったんですか?」

 ボブ子さんが笑顔を向けてくる。

「ええ、こんど生徒を連れてくるんで、下見に」

「あ、そうなんだ。高校ですか?」

「あ、はい」

 それから、前のシートの四人も話に加わる。ボブ子さんとポニ子(ポニーテール)さんが教職をとっていて、この春に教育実習を済ませたところだったので、いろいろと質問される。

 まあ、同宿のよしみ。半分は社交辞令と和やかに話しているうちに、和泉山脈麓の宿に到着。

 まだ半年にしかならないと言うと「え、そうなんですか!?」「なんか、ベテランに見えます!」とか驚かれる。

 驚かれるということは……実年齢よりも……歳食って見えるってこと?


 正体がバレてしまったので、宿の駐車場に着くと、ロビーに至るまでの動線を確認。スロープとか、玄関ロビーの段差とか。

 千歳の事があるからね。

「朝倉さん、送迎の車、折り畳みの車いすなら後ろから載せられるそうですよ!」

 ポニ子さんが教えてくれる。

 抜かっていた、まずは車いすが載せられるかどうかが問題なんだ。千歳は普段は電動を使っている。

 あ、でも、なんで千歳の事知ってるんだ? あ、自覚無いけど話しちゃったんだっけ?

「朝倉さん、入浴用の車いす完備しているそうなんで、あとで試してみません?」

 ボブ子さんがフロントで確認してくれてご注進。

 優雅に温泉に浸ろうかと思っていたんだけど、なんだか真剣に下見しなければならなくなってきた(;^_^A


 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする