やくもあやかし物語 2
あ……
オリビアがきれいな横顔で驚いた。
鼻筋もきれいで、顎から喉にかけてのラインがディズニーのプリンセスみたいに優雅。
「虹が掛かってるわ」
「フヘ?」
もうかれこれ三十分もお湯に浸かっているのでふやけた返事になる。
「ほら」
首をひねるとカルデラの上に『オーバーザレインボー』を歌いたくなるような、おあつらえ向きの虹が出ている。
「ああ、まだポンプが回ってるんだ」
カルデラから引いたホースは、あちこち穴が開いていてミスト発生機みたいに水を噴き出し続けていたんだ。それに、太陽の角度がドンピシャで虹を描いてる。
『ポンプのスイッチはとっくに切ってあるぞよ』
「え……」「だってぇ……」
虹に見惚れて、お風呂の湯気みたいにあいまいな返事をしてしまう。
『……おかしい!』
ジャブ
お風呂から跳びあがると、手袋に収まってポンプを見に行く御息所。
ザッパーーーーン!!
盛大に水が噴き上がったかと思うと、身の丈20メートルはあろうかという半魚人が空中に躍り出た!
「グゥワハッハッハ! 礼を言うぞ人間! 我は、この海に君臨し、このあたりを知ろしめていたマーフォークだ!」
そう言うと、噴き上がっていた水の一部が凝り固まってでっかいフォークみたいに変わってマーフォークの手に収まった。
『な、なにを申しておる、ここは一面の野原とか林とかではないか!』
「ここは、元々は海だったのじゃ。それが、要らざる神が現われて海の水を大地の底に、このマーフォークと共に落とし込み、このカルデラに儂を封印したのだ」
「そのフォークさんが、どうして……」
「怪獣みたいに現れたのよ!?」
「ワハハハハハハ!!」
チャプチャプ グラグラグラ
「「キャァ~~((>〇<))」」
カルデラも地面も振動し、わたしはオリビアと鍋の中のゆで卵みたいに揺れてしまう。
『あ、ゆで卵みたいだなんて思うではない!』
御息所の忠告は遅かった!
ピキ ピキピキ ピキ!
オリビアの体にひびが入った!
「オリビア!」
「あ、だめ、もうここに居られないわ(''◇'')」
ヒビが全身にまわったかと思うと、割れ目からタマシイみたいなのが滲み出てすぐに消えて行ってしまった!
学校の仲間は魔法の効果で助けに来てくれているんだけど、まだまだ未熟なので時間に制限があるんだ! マーフォークの出現にビックリして、それが早まってしまったんだ!
くそ、せっかく裸の付き合いができたところだったのにぃ!
『やくも、あぶない!』
御息所の声に振り仰ぐと、まさにマーフォークの化物フォークが振り下ろされるところだったよ!
☆彡主な登場人物
- やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
- ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
- ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
- メグ・キャリバーン 教頭先生
- カーナボン卿 校長先生
- 酒井 詩 コトハ 聴講生
- 同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
- 先生たち マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
- あやかしたち デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人)