大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・240『ハルハ川』

2024-08-14 11:48:57 | 小説4
・240

『ハルハ川』孫大人 




 親父の孫悟勇が跡継ぎを誰にするか悩んでいたころ、儂は東京に出ていた。

――トンキン?――

 それはベトナムだ。

――ああ、TOKYOね――

 テキストチャットで話しているので、時どきスカタンになる。

 テムジンの100騎といっしょに行軍中なので会話を控えている。

 うっかりアルアル語を使って100元取られるのも業腹でもあるしな。

――その東京がどうかした?――

 東京の団子坂というところに下宿していた。

――あら、美味しそうなところね――

 むかし、坂の下に美味しい団子を出す茶店があったらしい。

――フフ、坂で躓いて団子みたいに転げ落ちる悟兵を想像した。でも、なんで団子坂、都心からは微妙に離れてる感じだけど――

 好きな女の子が居てなあ、その子の実家が千駄木にあった。

――千駄木……ああ、団子坂あたりの地名ね…………――

 ちょっと、聞いてるかぁ?

――その女の子って、惟任美音でしょ――

 なんで知ってるアルか!?

――あ、50元――

 え……あ、テキチャ、ノーカウント!

――だから半額にしてあげたじゃない。ジャキーン!――

 効果音入れなくていい!

――むかし、あのあたりじゃ千駄木小町って言われた子ね……学習院を優秀な成績で卒業した才色兼備……横須賀でお店出してたのね……ほうほう……あの児玉元帥が士官学校のころになかなかの関係にねぇ……ねえ、大人になってからは月に一二度しか実家には戻ってないはずなのに、どうして団子坂なんかに? 横須賀に行った方がチャンスは多いでしょ?――

 フフ、読みが浅い( ´艸`)。

――なによ――

 横須賀の彼女は店のママだ。つまり営業用の顔しか見せない。横須賀で、仲良くなっても、結局のところは客でしかない。しかし、千駄木に戻った時は、素のままの、本来の惟任美音なわけさ。

――ほおぉ……でもさ、結局はものに出来なかったわけでしょ。いっしょじゃない――

 ふふ、読みが浅い。

――え……あ、惟任美音って、カルチェタランの初代オーナーじゃない!?――

 フフ、春鈴の検索は、どうも灯台下暗しの傾向があるなあ。

――フン、ほっといてよ!……あ……まさか、わたしの外見とか、その惟任美音をコピーとかしてないでしょうね!?――

 おまえたちJQシリーズの外見はデフォルトのままだ。

――そ、そうならいいけど。でも、なんで団子坂とか千駄木の話しになるの?――

 あのあたりは、少し行くと日暮里でな、台東区と荒川区の境目なんだ。間には神田川が流れていて常磐線と山手線が走っていて、日暮里から東はストンと崖になっていて景色が変わるんだ……

――あ……そうか、ここの地形に似てる!――


 春鈴が思い至ったところで、先頭を行っていたテムジンが停止を命じた。


「ここはノモンハン、下を流れているのはハルハ川だ。ロシアはこのハルハ川に沿って南下してくる。ここなら状況次第で西のモンゴル平原にも東のマンチュリアにも行けるからな。西に進ませれば敵はモンゴル平原を蹂躙し漢明になだれ込み、東を許せばマンチュリアに浸透し地盤を固めるだろう。いずれにしても、我々の脅威であり世界平和への許しがたい挑戦だ。我々は、ここで敵を待ち受ける。ゴルジンの50騎はここで、俺の50騎は向こうの窪地で待ち受ける。この鷹を放つことで合図とする。光学迷彩を掛けた上で待機。かかれ!」

 おお!!

 ヨタ話をしているうちに、テムジンは着々と状況にあった戦法を考えている。

 しかし、この100騎あまりで、ロシアの騎兵とどう渡り合うつもりか……ちょっと時めいてきた。

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 




 

 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)120・落花狼藉の無礼講

2024-08-14 08:38:50 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
120・落花狼藉の無礼講 





 三十分もすると無礼講は手が付けられなくなった。

 最初は隣り合う席で喋るぐらいのものが、座を移るようになり、移った先で酒を酌み交わしながら口角泡を飛ばしての議論が始まる。
 激してくると、裃姿の重役が割って入り、なにやら一言二言言うと、皆が手を打って腕相撲が始まったり放歌高吟したり。
 それでも収まりがつかないと対立している双方から人が出て、扇子を刀に見立てての剣舞。剣舞はただの剣舞ではなく、隙を見ては持った箸や扇で相手を切ったり打ったり、大の大人が果し合いの真似事になる。相撲になるところもあれば、野球拳を始める者もいたり、あげくには「ウップ」と口を押えて庭に出て反吐をついたり悪態をついたり落花狼藉の大騒ぎになった。

「ここの慣わしなのです。お酒が入ったまま論じていては判断を誤ります。しかし、いったん火のついた対抗意識には決着を付けなければ、やはりもめ事になります。それで、歌ったり踊ったり腕相撲になったり、その場の優劣だけを決しておくのです。歌や踊り、せいぜい野球拳ですから、負けても恨みにはなりません。生活の知恵ですね(^ー^* )フフ♪」

 瀬奈さんは傍に来て解説してくれる。瀬奈さんが居なければとっくに参っていただろう。

「勝負が付くと、勝者敗者の双方がやってきます。ご苦労ですが、双方に杯を渡して、できれば笑顔でこのお酒を注いでやってください。姫君から盃を頂いたということで双方納得いたしますから」

「は、はい(^_^;)」

 いつのまにか『お嬢さま』が『姫君』になっている。

 やがて、顔を真っ赤にした男たちが二人一組でやってくる、瀬奈さんが間に入ってくれて、わたしも引きつりながらも微笑み返し。で、丸く収まるのだが、酒臭いオッサンたちの入れ代わり立ち代わりには正直参ってしまう。

「松井家四十七代目様のお顔を見ることが叶って、もう言葉もござりません……」

「はい、お盃をどうぞ(^○^;)」

「これはこれは……」

「きゃ!」

 書院番と言われるオッサンは杯を受け取ろうとして、そのまま覆いかぶさってきて眠ってしまう。

「〇〇さん、昔なら切腹ものですよぉ」「これはしたり」「ならば腹を……」「切腹は向こうでいたしましょうねぇ」「いかにも……」「はい、次の方ぁ……」

 瀬奈さんがあしらって、他のメイドさんたちが酔っぱらいを引き立てて行く。

 こんなことが十数回繰り返されて、お酒を飲まずとも参ってくる。

「ちょっと風に当たりたいわ」

「楓さん、お願いします」

 瀬奈さんが声を掛けると愛くるしいメイドさんがやってきて肩に掴まらせてくれて廊下に出してくれる。

 楓さんは廊下の角を二つ曲がったところまで案内してくれて、大広間とは庭を挟んだ反対側。廊下の幅が三倍ほどになっていて、廊下でありながら絨毯が布かれ椅子に座って休めるようになっている。

 庭を挟んだ館に光芒が屋根の輪郭をなぞるように射した。

「御屋形様がお戻りになられたようですね」

「大お祖母ちゃんが……会いたいわ」

 もう大お祖母ちゃんに会い、言うだけ言って、明日の朝一番で帰ってしまいたい。

 さっきの書院番の一言で分かる。思った通り、わたしを四十七代目に据えて後を継がせようというのだ。

「お気持ちに沿えるように……瀬奈さんがお手配されています」

「え?」

 楓さんが目配せした先は廊下のT字路のようになっていて、横棒のところを人がやってくる気配。

 縦棒の所に居る美晴には足音しか聞こえないが、交差点に来たところで姿が見えた。

「大祖母ちゃん……?」

 それは自分とは違う高校の制服を着た女生徒……その子がチラとこちらの方を見た。

 歩きながらだけど、まるで宮様のようにお辞儀をする女生徒。わたしは、咄嗟のことに、廊下で生徒会の瀬戸内美晴に会った時のように、不機嫌そうに「オス」と返しただけだった。

 女生徒は、そのまま廊下を進んで、宴たけなわの大広間に入っていった。

「さ、御屋形様のところに参りましょう」

 楓さんがニッコリと笑った。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
 
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