銀河太平記・292
「秋の空は北京が良いと思いますよ」
サンルームでお茶をしながら見上げた空はいつの間にかひつじ雲。
そこへ尊宅さん(牽牛の元船長の庭師)が季節の花を活けにきて、空を見上げてるわたしたちに教えてくれる。
「梅原龍三郎ね……」
空を見上げたまま大統領が方笑窪。
「ああ、それって巻雲(けんうん)ですね」
殿下は真っ直ぐ尊宅さんに顔を向けて笑顔で応える。記憶は戻らなくても、お行儀の良さは、さすがに皇族。
わたしは、ウメハラリュウザブロウもケンウンも分からなくて「ハテ(^_^;)?」と間抜けな笑顔。
「巻雲は巻き毛のようになってる雲で……そう、神さまが空の雲にブラシをかけて、フーっと息を吹きかけてなびいたような感じです」
「あ、ああ……あのひつじ雲にブラシをかけたら、そんな感じですね」
「どっちも秋めいて好きですが、北京の空はどうでしょう……そう離れているわけじゃないから、多分ひつじ雲でしょうねえ」
「わたしは、意識して見たこと無いから、そのペキンシュウテンの空が見てみたいですかねえ……」
「それじゃあ、いっそ北京で秋の空を見ましょう(^▽^)」
大統領の一声で、北京の大統領公邸に移動することになった。
大統領の公邸は二つある。
北京郊外の乾鎮と北京の中南海。
中南海は北京のシンボル紫禁城の西隣。歴代皇帝や皇族の別邸があった壮大な離宮。むろん辛亥革命以来皇帝もその一族も歴史の彼方で、辛亥革命以来、政府要人の居住地区になっている。
大統領公邸は大海の孤島に見立てた瀛台(えんだい)にあって、普通は中南海の正門である新華門から入るんだけど、今回は「北京の秋空を見る」という私的な遊びという立てつけなので、新華門とは真反対の北側の通用門から入る。
中南海に行ってみようというのは、単に秋の空を愛でたいというだけではないことは分かっている。これでも情報局広報部の所属だからね。
北京が不穏なんだ。
日貨排斥運動が起こり始めていて、つい先日も三里屯で日系の店や企業が打ちこわしに遭った。政府の対応は出遅れてグズグズしている。それに業を煮やしての移動なんだ。
だけど、大統領は正面だっては言わない。
あくまでも「北京の秋の空が見たくなった」とスカしている。
「あ、スジ雲のことだったんですねぇ……」
北門の駐車場で下りると、乾鎮から20キロちょっとしか離れていないのに北京の空は羊雲ではなくて、爽快なスジ雲が走っている。戦死した父は生粋の軍人で、雲や天気のことは単純にしか呼ばなかった。巻き毛になっていようがストレートだろうがスジ雲――スジ雲が出ていると、空気は冴えて冷たく戦闘には適しているけど敵にも発見されやすい――そういう理解だった。
「あ、うん、そうですね。スジ雲の方がいいですね。穏やかでいいです。巻雲は剣呑に音が似ていますからね」
殿下は鷹揚にユーモアにしてしまわれ、大統領がクルっとこっちを向いた。
「アハハ、この勝負、フーちゃんの勝ちだね」
「え、あ、そんな勝負だなんて(;'∀')」
「あはは、ゲストさん、フーちゃんになにか奢らなきゃね」
「あ、尊宅さんまで(;'∀')」
「中南海にお店とかあるんですか?」
「ああ、南海の広場にちょっとした出店が出てますよ」
「あ、じゃあ、そこに出かけましょう!」
「いい考えですが、明日にしてはいかがですか。今からだと、護衛官の人たちも付き添わなければいけませんからね」
尊宅さんの言葉に振り返ると、乾鎮からの護衛官に加えて中南海の衛兵たちが不動の姿勢で立ち並んでいる。
「あ、そうですね( ー`дー´)」
わたしも軍人の端くれ、護衛や警衛のスケジュールが延びるのは困る。大統領と殿下の先に立って南海の瀛台を目指した。
☆彡主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑科学研究所博士
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー
テムジン モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人
森ノ宮茂仁親王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン) 銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平 西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉 胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく) 輸送船の船長 大統領府参与
朱 元尚 大佐 ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
※ 重要事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス 月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院 扶桑城啓林の奥にある祖廟
大石 一 (おおいし いち) 扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑科学研究所博士
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー
テムジン モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人
森ノ宮茂仁親王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン) 銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平 西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉 胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく) 輸送船の船長 大統領府参与
朱 元尚 大佐 ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
※ 重要事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス 月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院 扶桑城啓林の奥にある祖廟