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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・50「地区総会・2」

2020-02-24 06:24:28 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)50

『地区総会・2』   



 世間がわたしを見る目は身体障がい者だ。

 小六の事故で車いすの生活になってしまった。
 それまでは、当たり前だけど健常者だった。
 でも、健常者沢村千歳とは呼ばれなかった。

 今は身体障がい者とか脚の不自由な沢村千歳さんだ。

 障がいとか足の不自由なとかの枕詞が先行してというかアクセントが付いて、沢村千歳という中身は影が薄くなってしまった。
 小六までは健常者だったので、この影の薄さはしっかり感じる。
 高校に入ったら、少しは変わるかなあと期待した。
 
 空堀高校は施設的にも整っていて、その方面でもモデル校だったので期待があった。
 空堀高校なら枕詞抜きの沢村千歳として扱ってもらえるんじゃないかと。
 実際は中学以上に失望した。
 モデル校だけあって、設備も対応も隙が無い。でも、肝心の沢村千歳はどっかにいっちゃうんだよね。

 連休明けには辞めようと思った。

 辞めるために演劇部に入った。部活がんばったけど、やっぱダメだったということにするためにね。

 演劇部とは名ばかりで、放課後部室に集まってはウダウダしている、グータラ部活。
 アリバイ部活だからうってつけだと思った。これで学期末には退学できると思った。

 でも、違ったんだよね。

 正直、三人の先輩はグータラだ。予想通り演劇部らしいことは何もやらない。
 わたしもほとんどホッタラカシにされている。さすがに移動の時なんかには手を貸してくれるけど、どこかゾンザイ。
 ゾンザイどころか、部室棟の解体修理に伴って仮部室に引っ越してからは、お茶くみの係りはわたしになった。
 一見不人情に見える。
 だって、健常な先輩たちはテーブル囲んで好きなことをやっている。
 小山内先輩はエロゲだし、須磨先輩は寝っ転がってるし、ミリー先輩は解体される部室棟ばかり見ている。
 そこをウンショウンショとお茶を淹れるわたしは絵的にはイジメられてる的に見えるかもしれない。

 でも、違うんだよね。

 わたしが淹れるお茶とかコーヒーは美味しいんだ。
 たぶんお姉ちゃんの影響。お姉ちゃんはお茶とかコーヒーを扱う会社に勤めているから、知らず知らず影響を受けたみたい。
 先輩たちは「美味しい」と言って飲んでくれる。グータラするのにはお茶とかコーヒーとかは必須アイテムなんだ。

 この借り部室も狭いんだけど、車いすを取り回すのにはちょうどいいんだ。クルンと回転させるだけでテーブルと流しと本棚に手が届く。階段下って構造も天井が低くて、高いところにも手が届く。むろん天井近くは無理なんだけど、部室にオモチャのマジックハンドがあって、車いすのわたしでも、手が届きやすいように小山内君が壁とかにフックを付けてくれて、部室内の日常のものは不便にならないようになっている。

 身障者でも、使えるところは使って、楽してやろうという魂胆でもあるんだけど。こういう無精というか無神経なほったらかしは心地い。

 でもね、赤いリボンの女子高の一団は違うんだよね。

「空堀高校の沢村千歳さんですね! サインしてください!」
 ここ二日続いている猛暑日のせいでなくホッペを赤くして手帳を出している。
「「動画観て感動しました!」」二人が声を揃える。
 横を見ると、三人の先輩のところにも人が集まっている。

 あーーなんだか凹んでしまう……。
 

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降格機動隊・4『ガイノイド』

2020-02-24 05:59:57 | ライトノベルベスト


降格機動隊・4
 

ガイノイド         


 

 第七機動分隊が皇居前広場にオスプレイを着陸させて現場についたころは最悪だった。

 犯人は狙撃の名人のようで、犯人を狙撃しようとした警視庁のスナイパーが三人もやられていた。
――おい、さっき聞こえた爆音はうちのヘリコプターか!?――
 犯人は、オスプレイの爆音を味方のそれと聞き間違えたようだ。
――ああ、そうだ。ただ、お仲間二名の身柄は確保してある。これで逃走したかったら人質を解放しろ――
 機転を利かした警視庁の隊長が、そう言って時間を稼いだ。

「だいぶ苦戦のようですな」

 分隊長が、そう言うと、警視庁の隊長は露骨に安心した顔になった。無理もない、部下を含め、すでに四人の犠牲者を出している。警視庁としては万策尽きていた。
「店内の配置図を」
「これです。出入り口と大窓にはシャッターが下ろされています。上部の小窓がガラス張りなので、近くのビルから狙撃を試みましたが、大島敦子さんを楯にしているので照準に時間がかかり、その間に三人の狙撃手がやられました」
「これは、少し難しい状況ですなあ……」
 二人の隊長は、初手から腕を組んでしまった。

「これ、いけまっせ」

 横から首を突っ込んだ大石巡査部長が、競馬の予想屋のように気楽に、かつ力強く言った。
「マイク借りまっせ。犯人に告ぐ、お前たちの計画は事前に察知してた。ちょっと警視庁と大阪府警の連携が悪かったんで時間がかかってしもたけど、これからはチョイチョイや。覚悟さらしとけ!」
「な、なんだお前は!?」
「大阪府警の隠し玉、第七機動分隊にその人ありと知られた大石巡査部長じゃ。人呼んでコウカク機動隊の猛者じゃ、ドアホ!」
「攻殻機動隊!?」
 犯人は、オタクらしく、大石が嫌味で言った降格を攻殻と聞き間違えたようである。
「ええか、大阪舐めたらあかんで。人工衛星飛ばそいう下町テクノロジーの結晶じゃ。さっきの爆音はうちのサンダーバードじゃ。お前とこのヘリは、伊豆沖で撃ち落してきた」
 隊長たちの顔が青くなった。
「で、お前が人質や思うて膝に抱っこしてるのは、大阪の下町工場が全力を結集して作ったアンドロイドじゃ。女性型やから、正確にはガイノイドちゅうねんど。体の中に爆薬が仕掛けたある。オレの指令一つで、おのれごと爆発じゃ。十分だけ、時間やる。全員解放せんかったら、おのれの命は無いもんと思え!」

 大石は掛けたのである。大島敦子は、先月まで『ガイノイド』という番組でガイノイドの役を演じた。十分くらいならガイノイドの演技ができると踏んだのである。

「お前がガイノイド?」
「そーよ、やっと指令がきた。あたしの起爆装置は十分のタイマーがかけられた。十分後に爆発……あたしを撃ったり壊したりしたら、その瞬間に爆発。今から束縛モードに入ります」
 敦子もノリがいい。携帯の相手が、あの大石であったことも、敦子に勇気とその気を与えた。敦子はガイノイドになった気で。犯人にしがみついた。演技とはいえ、その気になっているので、かなりの力で締め上げた。犯人もパニックになっており、なかなか敦子を振りほどけない。
「あなたが付けた爆破ベルト、起動させるんじゃないわよ。やったら、あたしの体内の爆薬と相乗効果で、このフロアーみんな吹っ飛ぶ、吹っ飛ぶ、吹っ飛ぶ……」
 敦子は「吹っ飛ぶ」を繰り返した。

 その間に大石は、銀行の天窓に張りついた。帝都銀行大手町支店は都の伝統的建造物に指定されており、外観は昔のままである。
 天窓は、耐震工事のために一か所を除いて塞がれ、かつて天窓であったところはLED照明に切り替えられ、下から見た限り本物の天窓と区別がつかない。犯人の事前調査は甘かった。天窓は全て塞がれていると思い込んでいたのだ。

「よーし、ここやな……」

 天窓にたどり着いた大石は、真下に犯人と敦子がもみ合っているのを確認。犯人の頭に銃の照準を合わせた。
 だが、大石巡査部長もぬかっていた。天窓の強度を計算していなかったのだ。彼の重量は装備込みで百キロを超えていた、危ういバランス……それが崩れた。
 パシャンという音とともに天窓のガラスが割れ、大石は真っ逆さまにもみ合う二人の上に落ちていった。敦子はとっさに、犯人を横にして手を離した。大石はまともに犯人の上に落下し、気絶させるとともに、犯人の肋骨を三本折った。

 事件後、マスコミは、アイドルと機動隊員の連係プレーを大々的に書きたてた。
 第七機動分隊長は、この危なっかしい大石を、元の所轄署にもどしてやった。

 大石巡査部長と大島敦子はいいメル友になったが、その後二人の関係がどうなったかは……またいずれ。

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ヘアサロン セイレン ・6『ホイップカール』

2020-02-24 05:46:15 | 小説4

ヘアサロン セイレン・6
『ホイップカール』
        

 

 

 肩まで伸びたボブがうざったい。

 

 卒業式をバッチリ決めたかったので、あいつ好み、ヘアカタログのサンプルのようなスクールボブにしたのが二月だから……目的を達せられないまま、もう三か月もほったらかしなんだ。

 去年までだったら、そのままスクールボブに整えてもらうんだけど、大学生なんだからイメチェンしたいよね。

 髪質はいいほうだから、中学の時みたくロングにしてもいいんだけど手入れが大変。それに、ちょっと大人の女になったんだぞって感じが欲しいとも思う。

 それに、いつまでも高校時代を引きずってるみたいで嫌だしね。

 いつものさつきサロンに行ったら、いつもの流れでボブになってしまいそう。

 

 そんなことを思いながら駅への道。

 

 三限が休講だったことと、バイトのお給料が入ったとこなんで、ストレートに駅に向かわずにブラブラする。

 いつもなら、商店街を抜けてまっすぐに駅。道はL字型で、商店街なので退屈はしないんだけど、天気もいいことだし、一筋裏の道をギザギザに進んでみる。

 三つ角を曲がったところで良さげなヘアサロンを発見。

 ちょうどお客さんが出て来たところ、ガラスの向こうではアシスタントがお掃除していて、五つあるシートは空席だ。

 でもって「ありがとうございました」と見送る美容師さんと目が合ってしまった。

「すぐ、やってもらえますか?」

「はい、奇跡的に」

 

 決めて良かった、鏡に映ったわたしの髪は、いかにもサボりましたって感じにボサボサ。

「ちょびっとだけ大人っぽくしたい顔してますね」

 睡蓮とネームタグの付いた美容師さんが早くも見抜く。

「ボブにしかしたことないんで……」

「ちょっぴり大人……ですね」

「はい、よろしくお願いします!」

 美容院慣れしていないわたしは、お任せがいいと、言葉に力が入る。

「ホイップカールがいいかなあ……」

 睡蓮さんの呟きに、コクコクと頷く、この人に任せておけばOKというオーラがあると思ったのは、ガラス越しに差し込んでくる五月の日差しのせいか、睡蓮さんのカリスマか。

 とってつけたみたいになったらどうしよう……と思わないでもなかったが、バッチリだった。

「うわあ…………!」

 後の言葉が出ないくらい感動した。なんというか、一歩前に出てきたわたしって感じだ。

 耳の高さから下にフンワリパーマがかかっていて、ちょっとアクティブな可愛さって感じ。

「ホイップにした分、なんか自然なボリュームですね!」

「ボリュームの分、隙間が多くなったから風通しもいいし、幸せが聞こえてくるかもしれませんよ」

 リップサービスなんだろうけど、睡蓮さんが言うと、なんだか雰囲気だ。

 入れ違いに五人もお客さんが入ってきて、ほんとにラッキーだったなと店を出る。

 

 幸せは、まだ聞こえてこないけど、ボサボサボブのさっきまでよりも、首筋や耳元に柔らかい風を感じる。

 

 微妙な違いなんだろうけど、風のそよぎがさっきよりも心地いい。

 

 ……先輩

 

 駅前のロータリーに踏み込んで聞こえた。

「あ、ユッコ」

 二月ぶりの後輩が横断歩道の向こうにいる。青になって渡ると抱き付いてきた。

「ハハ、大げさだなユッコは」

「だって、もう二回も声かけてるのに気付いてくれないんですもん」

「え、そうなの?」

 なかばフクレた後輩からは、部活帰りの匂いがする。ほんの数か月前の自分もこうだったなと、ちょっぴり寂しい。

「イメチェンしたんですね」

「あ、うん、ちょっとは大学生らしくって思ってね」

「いいなあ、似合ってますよ。わたしもこんなのにしたいなあ」

 髪をいじれない高校生らしいため息をつく。校則でパーマは禁止だ。

「ハハ、はやくユッコも卒業しな」

「まだまだ先は長いっす。あ、あ、えと……それよりも、お兄ちゃんが連絡欲しいって」

「え、あいつ……赤城くんが!?」

「先輩呼び止めた理由の半分は兄貴です。先輩見つけたら連絡くれるようにって。わたしんち引っ越しだから、この駅は今日が最後なんです。伝えようか悩んだんですけど、その髪見たら伝えた方がいいって思って」

「え、あ、そうなんだ」

「じゃ、兄貴の番号送りますね」

 

 諦めていたあいつとの縁が戻って来る予感がした……。

 

 

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ここは世田谷豪徳寺・21《早朝のピンポン》

2020-02-24 05:30:06 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・21(さくら編)
《早朝のピンポン》   



 

 連ドラの総集編を観ていたら、玄関のピンポンが鳴った。

「さくら、お願い」

 おせち料理の準備で手が離せないお母さんのかわりに、あたしが出る。

 で、ピンポンの画面には、なんと忠八の真剣なドアップが映っていた。
「篤子が@&%$#?@##@&%%!!?」
 なにか興奮しているようで、頭の篤子以外意味が分からない。仕方がないので玄関を開けた。
「どうしたのよ、こんな朝から?」
「篤子が腹痛で苦しんで、救急車呼んだんだけど、オレいっしょに乗っていくわけにはいかないんだ。悪い、篤子といっしょに救急車に乗ってくれないか!?」
「え、大変じゃないの!?」
 言いながら、なんで、忠八が救急車に乗れないのか不思議に思った。
「話は聞いたわ、昨日はどうも。さくら、コートとマフラー。お財布、コートのポケットに入れておいたから、急いで、救急車がきちゃうわ!」
 お母さんの言葉が合図であったかのように救急車のサイレンが近づいてきた。

 年末で、どこの病院も混んでいて、四件目の病院が、ようやく受け入れてくれた。
 篤子さんは、急性盲腸炎だった。
 すぐにオペにかかるが、あたしは困った。
「君は、病人さんの身内?」
「あ……」
 ドクターの質問にあたしは絶句した。篤子は忠八の彼女だとは思うんだけど、素性が全く分からない。
「困ったな、同意書がなきゃオペできないよ」
 救急車に乗るとき忠八から聞いたメアドに電話した。

――大丈夫、二三分で、篤子の母親が、そっちいくから。それまで頼む――
 後を聞こうとしたら、切れてしまった。

 あんまり失礼で薄情なので、かけ直そうとしたら、高そうなコートを着たオバサンがやってきた。
「篤子の母親です。必要な書類、それから様態などお伺いします。あなたが佐倉さんね、どうもありがとう。佐倉さんに言うのもなんだけど、忠八に言っておいてくださるかしら。こういうことまで人任せにするんじゃないって」
「ほんとですね、男として最低です!」
「その一言も付け加えてやって!」
 オバサンは高そうなコートを翻し、高そうな香水の匂いをまき散らして、ドクターといっしょに行ってしまった。

――男としても最低だって!――
 実の母親が来たので、あたしは忠八にメール一本打って家に戻ろうとした。

 で、病院を出ると、忠八が湯気をたて道路の左側に立っていた。

「なにさ、ここまで来てるんだったら、病院寄りなさいよ。篤子さんは大切な人なんでしょ!」
「家まで送る。後ろ乗りなよ」
「いい、電車で帰る」
 忠八は、無言で自転車を押しながら付いてきた。
「……オレ、お袋には会えないんだ」
「チュウクンね……」
 そう言いかけて、違和感を感じた。
「彼女の母親をお袋って……意味深」
「だって、オレの母親でもあるんだからな」
「え……チュウクンと篤子さんて?」
「妹だよ……あれ、言ってなかったっけ?」

 あたしは、地球の自転が止まって宇宙空間に自分だけ放り出されたようなショックを受けた……!

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