大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・129『二条大路の百鬼夜行』

2020-02-12 14:34:07 | 小説

魔法少女マヂカ・129  

『二条大路の百鬼夜行』語り手:マヂカ 

 

 

 クルーである調理研の三人と隊長は残ってもらった。北斗を守らなければならないからだ。

 

 ミケニャンも戦力にならないので残してきた。

 二条駅の妖に戦いを挑むのは、わたしとブリンダとサム、三人の正魔法少女だ。

 

 駅の改札を抜けるとセピアの電灯が灯った待合室。正面は車寄せの付いた正面出口、勢いで外に出たくなるが、様子を窺うために立ち止まる。

 示し合わせたわけではないが、ブリンダとサムも歩みを止める。

 三人とも魔法少女として同程度のスキルを持っている証だ。

「貴賓室……」

 呟いただけで、一番近くのサムが瞬間移動して貴賓室をロックした。

「ロックしたわよ。何者かの気配がしたけど、封印しながら威嚇したら、直ぐに大人しくなった」

「問題は外だ。すごい量の妖気を感じる」

「ステルスの呪(しゅ)をかけてから出よう」

 印を結んで、自分に呪をかけ、サムとブリンダにも念入りにステルスの呪を掛ける。

「このステルス、視界がボケる」

 サムはカオスの魔法少女なので、我々には出ない副作用があるようだ。

「少しすれば慣れるだろうけど、それまで、オレとマヂカの間にいるがいい」

「うん、そうさせてもらう」

 

 駅前に出てサムが慣れるのを待つ。

 

 ザザザザ ザザザザ ザザザザ

 

 かなたの前方から、なにか大勢の者が寄って来る気配がした。

「来るぞ!」

 ブリンダが身構えつつサムを後ろに庇った。

 この気配は……?

 息を潜めつつ記憶を探る。

 都は二条付近の妖どもに関する記憶……。

「一つ一つは非力な妖だが、数が多すぎる。まともに相手をしていたら、漏れたやつが北斗に迫るぞ」

 そうなのだ、この気配は百や二百の数ではない。地獄の底から陸続として湧いて出てくるのではないかと思われるくらいだ。

「湧いて出てくる……」

「無限なるものには対応の仕様が無いぞ」

「こいつらは……」

 思い出した、こいつらは平安の昔から丑三つ時の二条通に現れ、目にしたものを様々な不幸に陥れるという妖のパレードだ。

「どうする? 三人で掛かれば時間は稼げるが……」

「北斗がな……出発しても、無限に二条駅がループするんじゃ意味ないし」

 こんな序盤で足踏みしていては、永久に黄泉比良坂には着けない。恐るべしダークメイド。

「ねえ、これってアキバのダークメイドの仕業なんだよね?」

 ブリンダの陰に隠れていたサムが、なにかを思いついたように指を立てた。

「うん、だから黄泉比良坂に……」

「アキバって言えば、いろいろ規則があったでしょ……過度に露出するコスはダメとか、チラシ撒いていい場所とか、プラカードの規制とか……そもそも交通のルールとかは……思いついた!」

「あ、サム!」

 言うが早いか、サムはテレポしたかと思うと、通り一つ向こうまで迫ってきた百鬼夜行の先頭を阻むように立った。

 そして、パチンと手を叩いて、何かを実体化させた。こちらからではよく分からない……が。

 百鬼夜行は、その出現したモノのために行進を停めたではないか!

 

「サム、いったい何をしたんだ!?」

 

 戻ってきたサムにブリンダが詰め寄る。

「アキバってば、中央通とか昭和通りとかあるけど、みんな交通ルールをきちんと守ってるよね」

 アキバは日に何十万人も押しかけるオタクの街だ。そう言えば、あの百鬼夜行、オタクの群れに見えないこともない。

「向こうからしか見えないけど、信号機を立てておいたんだ。ずっと赤信号のまんまの信号機」

「しかし、赤信号だけでよく停まったな」

「うん、ダークメイドの姿をした信号機。目が赤く点滅してる」

 なるほど、永久ではないかもしれないが、ダークメイドと決着をつける間くらいはもちそうだ。

 

 駅に戻って北斗を始動させると、こんどは無事に円町駅が見えてきた。

 

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・38「これから鑑識作業に入ります」

2020-02-12 06:28:23 | 小説・2
 オフステージ(こちら空堀高校演劇部)38
「これから鑑識作業に入ります」                   



 去年の夏、放課後のプール更衣室に侵入者があって、水泳補講中の女子の制服やら下着が盗まれる事件があった。

 しばらくセキュリテイーが厳しくなったが、三月もたつと、もとのユルユルに戻った空堀高校。
 ユルユルでも、それ以降問題が起こらなかったのは、訪れる関係者や地域の人たちのモラルの高さがあったからだろう。

 そのモラルが一瞬で無くなってしまった。

 部室棟の解体修理のための物品整理で、演劇部の部室から運び出されたトランクに、ミイラ化した死体が入っていたのだ。
 それも昔の制服をまとった女生徒だというのだから、大騒ぎだ。
 スマホとSNSの時代なので、発見の二分後には写真や動画で流出してしまい、パトカーが到着した時には、野次馬やマスコミが流入してきた。

「だめだ、鍵がかかっている」

 警官がトランクを検分した時には鍵がかかってしまっていた。
「さっきは開いていたんですが」
 生活指導の先生がトランクを閉じた時に、はずみで鍵がかかってしまったようだ。
「鑑識が来るまで手はつけられないなあ」
 警官は規制線を張り、先生たちは中庭にまで溢れた野次馬を校外に押し戻し始めた。

「しかし、この臭い、死体に間違いはないなあ」

 警官たちはハンカチで鼻を覆いながら所轄に連絡を入れている。
「演劇部の人たちに来てもらいました」
 美晴は、演劇部の四人を示した。
「発見者の話から聞くから、ここで待機してくれる」
 そう言うと、警官は、藤棚の下で待機している発見者たちの方に足を向けた。

 やがて濃紺の鑑識車両が正門から入って来た。

「これから鑑識に入りますので、校舎の二階以上にいる人たちに退去してもらえませんか」
 近ごろの警察は鑑識作業を見せない。先生たちに指示すると、半分の鑑識さんたちはブルーシートを目隠し用に張りだした。

「えー、あんなに校舎の中に居てたんやねえ」

 ミリーが呑気そうに言うので、啓介は振り向き、須磨は車いすの千歳ごと向いた。
「あれ、薬局のおじさんじゃない?」
 校舎の出入り口から追い出される野次馬たちの中に懐かしい禿げ頭を発見した。
「他にも商店街が居るなあ」
「いつもはお行儀いいのにね」
「でも、みんなかわいい」
 たしかに、追い出される商店街の人たちは、いけないところに隠れていたかくれんぼうのように照れながら出てくる。
「あ、おじさんも気が付いたみたい」
 頭を掻きながら、薬局が手を振った。

「では、これから鑑識作業に入ります」

 鑑識の主任が告げると、現場の空気がピリッと引き締まった。

 カチャリ

 ブルーシートの中で密かな音がした。トランクが開いたのだ。
 腐敗臭がマックスになってきた。

「これは……」

 鑑識主任の呟きが現場の緊張を一気に引き上げた。

 
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不思議の国のアリス番外・『ライトノベル』

2020-02-12 06:16:35 | 不思議の国のアリス
不思議の国のアリス
『ライトノベル』  



 ライトノベルについてレポートを出すように言われた。

 アリスは、高校時代に日本に短期留学の経験もあり、また、大阪弁ではあるが日本語にも堪能だったので、「それ、なんですか?」とは質問できなかった。
 なんとなくサブカルチャーの匂いのする言葉だったので、そういうのに詳しい韓国からの留学生ソンファ・キムに聞いてみた。
「あんた、日本のサブカルチャー詳しいやろ。ライトノベル持ってたら貸してくれへん?」
 日本文化論の講座仲間であったので、日本語で聞いてみた。
「うん、何冊か持ってるよ」
「ほな、貸してえよ」
「そのかわり、これに署名してくれない?」
 差し出された署名は、『従軍慰安婦の少女像設置の嘆願書』と、書かれていた。
 この問題には異論のあるアリスだったので、きっぱり断ると竹島やら日本海を韓国名で言われ、その説明……というか演説を聞かされた。独島=竹島 東海=日本海と訂正してやったのが運の尽きだった、日帝三十年の話に及んだので、アリスは『ハンガンの奇跡』と呼ばれる韓国の経済成長は日本の経済援助や、円借款でできたことを『国際経済論』で学んだ知識を総動員して反論。
 互いにツバキの飛ばしあいになっただけで、けっきょくライトノベルは借りられなかった。

「なあ、オバアチャンとこにライトノベルあれへん?」
 うちに帰って、お隣のタナカさんのオバアチャンに聞いた。
「ライトノベル? 右翼の小説かいなあ……」
「右翼て、保守の過激なやつ?」
「せやな、パソコンで探したらええのん出てくるんちゃうか」
「ほんなら、リベラルなもん読も思うたら、『保守的小説』やな」
「そないなるかな。アリス、こういうもん読むときは、反対の立場から書いたもんも読んだ方がええで。せや、うちに短編であったなあ」

 タナカさんのオバアチャンは、古い『蟹工船』を貸してくれた。
 で、読んでみた。
 アホかいな。
 これが『蟹工船』の感想だった。
 この程度の過酷な労働現場のことを書いた小説なら、アメリカにも掃いて捨てるほどある。だいたい人物が類型的で、こんな小説1930年代のアメリカの出版社に持ち込んでもボツだろう。
 ラストで、同じような反乱が北洋の沢山の蟹工船で起こったとしているのに至っては、左翼的オプティミズムだと思った。
 ただ、作者の小林多喜二が、当時の警察でなぶり殺しの目にあったことだけは同情した。
 ひょっとして小林よしのりの親類か? ちょっと似ているなあ……検索したら関係なかった。

 で、いよいよライトノベルである。

 街の図書館に『日本の保守の本』で検索してみた。
 白州次郎がヒットした。マッカーサーをして「唯一、従順ならざる日本人」と言わしめた若者の話である。
 ダイジェスト版を読んでみた。

 感動した。

 サンフランシスコ講和条約で、時の首相吉田茂(このオッサンもたいがいで、アリスはファンになった)が国連……これも変な日本語で、ユナイテッドネーションなのだから、正確な訳は連合国である。国防軍を自衛隊と呼んでいるのと同種の日本独特のコンプレックスというかアレルギーを感じた。

 で、随行員である白州次郎は、吉田首相が国連において英語でスピーチしようとしているのを知り、猛然と反対する。
「じいさん、英語のスピーチなんて媚びだ。日本の独立宣言に等しいんだ。日本語でやれ!」
 それを理解した吉田首相は、秘書官に日本語でスピーチ原稿を書き直すように命じた。

 ただ、吉田は極度の老眼で、書かれた文字は一センチ四方ほどあり、巻くと直径十センチほどの巻紙になり、当時の欧米のマスコミから『吉田のトイレットペーパー』と呼ばれた。

 これをレポートにして提出すると、担当のハーミス先生は感動して、みんなの前で読むように言われた。
 緊張して読み上げると、みんなから笑い声がしはじめた。
「気にしない、続けて」
 ハーミス先生に励まされ、続きを読んだら、アジアの二カ国から来た留学生を除いて、好意的なシンパシーをもって聞いてくれ、最後は拍手のオベーションになった。

「これを、偉大で真摯な誤解というのです。ライトノベルの名称は日本人も考えたほうがいいかもしれませんね」
 ハーミス先生は、そう締めくくった。

 そのあと、アリスは改めて「ライトノベル」で検索した。

 それは、アリスが日本にいたころ、しょっちゅう読んでいた種類のものであることが分かった。
 
「なんや、これのことかいな!?」
 
 これならば、今の自分が書かれている駄文そのもの。つまり、アリス自身の事だ。アリスは、その自分の事が書かれている駄文を読み返すことにした。

 


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ここは世田谷豪徳寺・9《父 佐倉惣次郎の休日》

2020-02-12 06:00:35 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・9
《父 佐倉惣次郎の休日》         「亀が岡式の土偶」の画像検索結果

 

 

 

 やっぱりゴミの市は初日の十五日に来なきゃなあ……。

 世田谷名物のゴミの市は、十二月と一月の十五・十六日ときまっていて、わたしのような図書館勤めには不利だ。
 昔は、一月十五日が成人の日だったので、この日を狙っていけたのだが、今は勤務日と重なって行けない。
 まあ、雰囲気だけでも味わえればと運動がてらに……と言いながら財布に十万ばかり忍ばせてやってきた。家から一キロちょっとの世田谷駅付近から都道三号線に面した桜小学校のあたりまでがコースで、七百件の出店を見て回るのは、好き者のわたしでも、かなり根性がいる。まあ、名物の代官餅でも食べて手ぶらで帰るかなあ……と、コース半ばの代官所前あたりで思った。

 都道に出る二百メートルほど手前に北に向かって細い通り抜けがある。

「お子さんは三人ですな?」
 通り抜けの角から声がかかった。見ると色白の若い易者が占いの店を出している。
「え……」
「お子さんは、男の子を頭に娘さんがお二人。大学と高校ですな」
「……当たってる」
「……世話役をやってらした犬飼さんの気配がします……ご親類、いやご親類同然のお付き合いをなさっていたお方ですね」

 当たりすぎて気味が悪い。

「わたしも犬飼さんにはお世話になって、昨年から、ここで占いを始めました。これもご縁。あなたのことは無料で見させていただきますが」
 若い占い師は、軽い笑みを浮かべ、かつ真剣に言ってくれた。

 で、気がついたら、男の前に座っていた。

 変わった占い師で、筮竹や拡大鏡は脇に置いて、見慣れないパソコンを真ん中に置いていた。
「パソコン占いですか?」
「いいえ、浄玻璃のようなものです」
「ジョウハリ……閻魔さんの鏡ですか?」
「よくご存じで……これは、それをパソコン形にしたものです。よく画面をご覧下さい」
 
 画面には、このゴミの市を上空から見た様子が映っていた。思わず空を見上げた。

「ヘリコプターもドローンも飛んではいません。このジョウハリで見えているものなんです」
 急に画面が拡大され、わたしと占い師の真上からの画像になったかと思うと、アングルが変わり、斜め横から見た姿。今度は、その斜め横を見てみる。グーグルマップかと勘繰ったが、見える俯瞰図は今のものだし、人や車が、ちゃんと動いている。
「何もございませんでしょ。全て、このジョウハリに写ったものなのです……こうやってお気晴らしに来られていらっしゃいますが、お子さんのことがお気にかかっておられるのですね」
「え、まあ……大きくなると、我が子ながら見えないところが多くなりましてね。まあ、親の思い通りには育たんもんだとは、自分自身を省みて思うんですが、気にはなります」
「息子さんは……海上自衛隊ですね……なかなか優秀な自衛官でいらっしゃる。乗っていらっしゃるのは、この船ですね」
 ジョウハリには、息子惣一が乗っている新鋭の「あかぎ」が勇ましく波を蹴立てている様子が写っていた。
「息子さんは大丈夫でしょう。防衛機密に属しますので、詳しい勤務状態は申し上げられません。いくつかの困難には見舞われますが、無事に勤めてお帰りになられます」
「それはよかった」
「娘さんに、トラブルの気配がいたしますね……」
 ジョウハリには、見慣れた近所の生活道路が写っていた。道なりに進んでいくとマリリンモンローがスカートが捲れてニコニコしている姿が、工事中のガードマンといっしょに映っていた。で、そのマリリンモンローには尻尾が生えていて、電柱の住居表示が「狸寺三丁目」になっていた。

「これは……?」

「これは、上の娘さんが、お友だちに頼んで加工した映像です。元の映像は、もう見られません。このジョウハリを除いて」
 占い師は、変換キーを押した。すると、モンローが帝都の女生徒に変わった。
「否定なさりたいお気持ちは分かりますが、これは、下の娘さんです」
 派手にめくれ上がったスカートから覗いているパンツには見覚えがあった。スターウォーズシリーズのレイア姫……顔を確認したかった。するとアングルがグルリと変わり、正面の姿に。間違いない「う!」と驚きと恥ずかしさが一緒になったさくらの顔だ。
「こんなものが、ネットで流れたんですか!?」
「今は、マリリンモンローに変わっています、ご心配なく。問題は、ここから広がる娘さんの人間関係です。良い方にも悪い方にも転びます。ただ、下手に口をお出しになったりするると、逆の目が出ることがあります」
「では、どうしろと……?」
「愛情……信頼だけは無くさないようになさってください。お父さんのお気持ちが、目に見えぬ支えになります」
「はあ……」

 俯いて顔を上げると、占い師の姿はテーブルごと無くなっていた!
「え……!?」
 声を上げて立ち上がると、掛けていた椅子が無くなって途方に暮れてしまった。

「オホホホ……」

 通りのどん詰まりのあたりから笑い声がした。骨董を広げている作務衣姿の女が笑っていた。

「あたしの番ですね。どうぞ、こちらへ」
「は、はあ……」

 あとで考えると、とても不思議なんだけど、その時のオレは普通の感覚で女の出店に近づいた。

「これを、おもちなさいまし」
 女は、亀が岡式の土偶に似た土人形を渡した。
「これは……?」
「お役にたちます」
「は……?」
「それだけしか申し上げられません」
「信楽か備前か……いい焼き物だ。おいくら?」
「おしるしにに千円だけ頂戴いたします」
 財布をゴソゴソやって千円札を出すと、女も出店も消えていた。

 目を手に戻すと、手にしていた千円札が消えて、反対の手に人形が残っていた……。 

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